新しい嫁さんは戦闘狂?
他にはこれと言って気になった物は無く、全て売り払ってしまう。今回もそこそこの値段になったとだけ言っておくぞ。
さて、この後はどうするかな……。
『ご報告します。中級ダンジョン攻略、及びならず者集団討伐により、召喚権を新たに「二回」付与いたします』
不意に指輪が光り、ガーベラの声が聞こえてきた。ダンジョンの攻略で増えると思っていたが、まさかあのゴロツキ共で増えるとはね。煩わしい存在だと思っていたが、今回は感謝しておこう。
「どうやら新しい妻が増えるようですわね。喜ばしい事ですわ」
プリムラを筆頭に、嫁全員が新たな「家族」が増える事に賛成の様だ。ここで揉めないのは夫として本当に助かる。
人気の少ない場所に移動し、家族会議を始める。
「新しく召喚出来る『嫁』は二人だ。今回召喚するのは、第一候補として物理的な破壊力を持った人物にしようと思う」
今回のダンジョン探索で露見した、俺達に足りないものが「打撃力」だ。
俺達の武器構成を見てみると、剣が二人。大剣が一人。ナイフが一人。槍が一人。見事に「斬撃」に偏った構成になっているのだ。もしも、今回のミスリルゴーレムとの戦いに「ハンマー」等の打撃武器を扱う者が一人でも居れば、もう少し楽に戦えたかもしれん。
「そうですね。今の私達に足りない物を補ってくれるでしょう」
「本来なら、その役目はワタクシに課せられた物ですが……自分の力の無さを痛感しましたわ」
確かにプリムラの言う通りだが、今回に限って言えば相手が悪すぎた。鉱石の塊みたいな敵を剣で両断しろなどと、そんな漫画やアニメみたいな事を……と思ったが、そんな事が可能な世界にやって来ていたんだったな。ならば修練を積めばいつかは可能になるのだろうか?
「魔法はおねぇさんと夫君とアリスちゃんがいれば問題無いと思うわぁ」
前衛と後衛のバランスが少し悪くなるが仕方がないな。というか、魔法が万能と言われる世界で対魔法装甲とか……初見殺しにも程があるだろうよ。
「特に異論はないな? ガーベラ、始めるぞ」
『了解しました』
ガーベラが指輪からノートパソコンへと姿を変える。そして手早く「要項」を入力していく。
:年齢――若い、但し成人に限る
:種族――不問
:職業――戦士、もしくはその類似職
:容姿――端麗
:スタイル――抜群
:その他、備考――ハンマーや大槌等の大型の打撃武器を使用する者
「……これで良いな。では、早速召喚を始めよう……その前にガーベラ、俺達を『神域』へ転送してくれ」
『了解。転送を開始します』
例の光のエフェクトが発生し、眩しさのあまりに目を細める。本当に必要か? この演出。
(だから重要だって何度も言ってるでしょ?)
何か聞こえた気もするが、華麗にスルーだ。
「……不思議な……場所……」
「そうですね。何とも言えない感じです」
「この部屋(?)の端はどうなっているのでしょうか?」
初めてこの場に来たリラ、ローリエ、アリスの三人は物珍し気に辺りを見回していた。マリー、プリムラ、ソニアはその様子を優しい眼差しで見守っている。
「それでは、召喚を開始する」
召喚ボタンをクリックする。さあ、今回はどんな人物がやって来るのだろうか。
足元にはいつもの魔法陣に、眩しい召喚エフェクト……どう考えても要らないよな、このシステム。非効率的だ。
(心のゆとりが足りないんじゃない? こういう遊び心も大切だよ?)
言いたい事は分かる。所謂『お約束』というモノだろうさ。いかんな。慣れない土地で慣れない仕事をしているうちに、心の余裕がなくなっていたのかもしれん。少しばかり効率を求め過ぎたか。
(うんうん。人生これから長いんだから、たまには立ち止まって周りを見渡すのもいいんじゃない?)
ああ、助かったよ。しかし、お前に礼を言うのは癪だな。
(何でよ⁉ ボクは神様だよ? もっと敬ってくれてもいいんだよ?)
自称神に数ミリ程度の感謝をしていると、丁度相手方の召喚も終わったようだ。
魔法陣の上に現れたのは、燃える様な深紅の髪を無造作に後ろで束ねている――所謂ポニーテールという髪型だ。
少し高めの身長、頭の上に獣耳が見える。そして腰から細長い縞模様の尻尾と……猫、もしくは虎の獣人だろう。
そして服装はまごう事無き由緒正しい『ビキニアーマー』だ。はち切れんばかりの爆乳を申し訳程度に覆っているビキニブラと、健康的に日焼けしている小麦色の肌に目が釘付けになってしまう。
そして最大の特徴は手に持った巨大な戦槌だ。俺では持てなさそうなそれを、軽々と片手で担いでいる。嫁達もその姿を見て眼を丸くしていた。
「うん? ここはどこだい? アタイの出番は未だのはずだよな……」
突然の出来事に、彼女は辺りをキョロキョロ見渡している。しかし、慌てる事無く自然体で佇んでいる。胆力は凄まじい物を持っているな。
「突然の呼び出し、申し訳ありません。私はレオンと申します。少々長くなりますが先ずは私の話を聞いてもらえないでしょうか?」
「成程……アンタがこの集団の頭かい? じゃあその話とやらを聞こうじゃないか。ああそれと、アタイに対してかしこまった口調は要らないよ。普段通りにしてくれていいから。それと、アタイの名はセフィラ・アトレ。セフィラと呼んどくれ」
「……分かったよ、セフィラ。それじゃあ話を始めさせてもらう」
ここに訪れた『嫁候補』にする、最早お約束になっている現状の説明を語った。
俺が話し終わるまで、彼女――セフィラは真剣な表情で説明を聞いていた。
「……成程ね、事情は分かった。よしっ! お前さん達の世界へ招待されようじゃないか」
セフィラは、にかっと爽やかな笑顔笑いあっさりとした口調でそう答えた。なんだ? そんな簡単に答えていい問題では無いと思うが……何か裏があるのか?
「本当にいいのか? もう元の世界には戻れないのだぞ? もう少し考えた方がいいんじゃないか?」
彼女の真意が少しでも理解出来ればと、再考を促す質問をぶつけてみる。
「ああ、構わないさね。アタイは『剣闘士』をしているんだ。戦うのがアタイの仕事で、最高の娯楽でもあるんだ。ここの生活も悪くは無いんだが、そろそろ何か別の刺激が欲しいと思っていた所でね。今の世界に未練は無いし、新しい世界で新しい戦いに身を投じるのも悪くないと思ってね」
所謂「バトルジャンキー」と言うやつだな。まあそれなりに納得できる理由ではあるな。
「それと、俺の『嫁』になるという条件も込みで了承していると思っていいのか?」
「勿論。これだけの雌を侍らせる雄なんて、滅多にお目に掛かれないからね。むしろアタイの方からお願いしたいよ」
これは何とも簡単な『交渉』だったな。毎回これ位スムーズで終えられると良いんだけれどね。
「それじゃあ早速戦おうか。最初は誰が戦うんだい? 全員纏めて相手をしてもいいよ?」
簡単でスムーズに終わった交渉……そんな風に考えていた時期が俺にもありました。俺はバトルジャンキーという人種を侮っていたようだ。挨拶代わりに戦いを申し込むとはな。とは言え、それが先方の希望ならば叶えてあげたいとは思うが……。
さてどうしようかと悩んでいたら、不意にローリエと視線が合わさった。その目は「私に任せて下さい」と、そう訴えかけているように感じた。なので俺は頷きを一つ入れ、ローリエに任せる事にした。
俺に頷き返し、ローリエがセフィラの正面に陣取り、相対する形となった。
「ローリエと申します。シャムフォリア王国の騎士団長を務めさせてもらっています」
「へぇ~、騎士様ね。生憎とアタイの戦い方は行儀良くないけど大丈夫かい?」
「問題ありません。相手が誰であろうと、自分の戦い方を貫くのみです」
ローリエがはっきりとそう宣言すると、薄ら笑いを浮かべていたセフィラが表情を引き締め、ローリエに向き直った。
「そうかい……じゃあ改めて名乗ろうか。アタイの名はセフィラ、しがない剣闘士をやってるよ。頑張ってアタイを楽しませておくれよ?」
「私は私の戦いを全力でするだけです」
互いに武器を構え、戦闘態勢に移行する。さて、この勝負の行方はどうなる?
「それじゃあ……遠慮なく行かせてもらうさねっ!」
初めに仕掛けたのはセフィラ。一足で間合いを詰め、無造作に戦槌を振り下ろす!
グワキンッ‼
その一撃をローリエが盾で受け止めると、途轍もない轟音を辺りに響かせた。おいおい……一体どれ程の力がぶつかったら、こんな音がするんだ?
「嬉しいねぇ。今まで「コイツ」を相手にする奴は、どうやって避けるかを考えるだけだったからね。それなのにコイツを受け止めて微動だにしない奴がいるとはさ」
「それが私の唯一の取り柄ですから……はあっ!」
攻撃を受け止めたローリエが、すかさず反撃を繰り出す!
「おっと! 危ない。いいねぇ……そうこなくちゃ!」
その反撃を華麗なる身のこなしで回避するセフィラ。これは長い戦いになりそうだぞ。
俺の予想が当たった。その後もしばらくセフィラが攻撃し、ローリエがそれを防ぐという展開が続いた。
「……これじゃあ埒が明かないねぇ」
「……そうですね。お互いに相手を倒す手段が無い……これでは何時間戦っても決着が付かないでしょう」
所謂「千日手」と言われる状態だな。互いの決め手がないこの場面、どうするつもりだ?
「アタイから一つ提案してもいいかい?」
「何でしょうか?」
「次の一撃にアタイは全てを込める。その一撃を防げたらアンタの勝ち……それでどうだい?」
その提案、ローリエに有利すぎないか?
「よろしいのですか? 私に有利な条件に思えますが」
ローリエも同じ疑問を感じた様だな。
「この勝負の目的は、アンタ達の実力を測る為ってのが大きいからね。問題無いさね」
「わかりました。その勝負、受けさせてもらいます」
そう言うと、ローリエは深く腰を落とし眼前に盾を構えた。その瞳にはどの様な攻撃でも防ぎきってみせるという決意が漲っている。
「いい瞳だ……ふふふ、この技を出すのは何時ぶりだろうね」
対するセフィラは、戦槌を肩から背中に担ぐようにして持ち上げ、全身の力を漲らせる。更に魔力も高め、戦槌に纏わせ始めた。文字通り「全力」の一撃なのだろう。
「この技は手加減出来ないからね、頼むから死なないでおくれよ?」
「ご安心を。必ず防ぎきって見せましょう」
そう言ってローリエが魔力を漲らせ盾に纏わせ始めると、何と盾の形状が変化し始めたぞ。これを見るのは二回目だな。
「今こそ、この盾の真価をお見せしましょう!」
ローリエの持つ盾は、普段はラウンドシールド程の大きさ(円形の盾で縦横30センチ位)なのだが、今はカイトシールド程(逆三角形の盾で縦横70センチ位)まで形を変え大きくなっている。
「面白いっ! その不思議な盾で防いでご覧よっ‼」
セフィラが天高く飛び上がる。そのままローリエの頭上目掛けて落下し、重力加速度をプラスした戦槌の一撃を叩きつけた!
「喰らいなっ! 『隕石激突』‼」
セフィラの戦槌とローリエの盾が衝突すると、俺の語彙力では表現できない程の衝撃音が鳴り響いた。体験した事は無いが、それなりの大きさの隕石が間近に落下したら、こんな音がするんだろうな。
そんなどうでもいい俺の感想はともかく、結果はどうなった?




