新魔法のお披露目といこうではないか
「す、すみません……助かりました」
彼女にしては無謀な攻撃だったな。これまでの行動を見るにもっと冷静だと思っていたのだが……もしや。
「……見たのですか? アレを」
「……」
俺の問いかけに対し、帰って来た答えは「沈黙」だった。沈黙は肯定……つまりはそういう事だ。
先程、俺が見た光る物の正体。恐らくあれはギルドカードだ。誰の物かは言う必要はあるまい。
彼女はそれを見て、感情が抑えられなくなったのだろう。誰も彼女を責める事は出来ないさ。
「取り敢えず、皆と合流しましょう。奴の脇を抜けます」
「はい、わかりました」
味方がミスリルゴーレムに攻撃をしている隙に、ミスリルゴーレムの傍を駆け抜け味方と合流を果たした。
さて、これからどうするかな……。
「ソニア。君の魔法で倒す事が出来るか?」
「う~ん……『大氾濫』の時に使った魔法なら何とかなるかもしれないわねぇ……」
「つまり、実質不可能であると?」
「そうなるわねぇ」
こんな狭い空間で「アレ」を使われたら、俺達の方が蒸し焼きにされてしまうな。
僅かな望みを託しアリスを見るが、首を横に振られてしまったよ。
「やれやれ……困ったな」
口ではそう言ったが、俺は自分の口角が上がっているのを自覚していた。強敵との戦いは何度経験しても心躍る物だ。
俺の発言を聞いても、嫁達は誰一人として暗い顔はしていない、むしろ俺と同じように笑っている。オリーブは少々不安そうにしていたが……。
どの様な状況でも、決して諦めない。全員で力を合わせれば道が切り開ける、それでも駄目なら俺が何とかしてくれる……そう瞳が物語っている。
そうこうしている間も、ミスリルゴーレムはズシン、ズシンとその巨体を揺らしながら俺達に近付いて来る。
「済まないが、少し時間を稼いでくれるか?」
「お任せ下さい。旦那様」「宜しくてよ」「……任せて」「ふふ、おねぇさんに任せなさい」「私が必ずお守りします」「私にも出来る事があるはずです」
嫁達がミスリルゴーレムへと駆け出していく。オリーブはまだ立ち直れていないのか、俺の傍で立ち尽くしたままだが、今は放っておくしかあるまい。
さて……今回俺が使う魔法には幾つかの制約がある。だが、この場においては最適解とも言える魔法だ。閉所でも使えて、周りに被害が及ばない様にする局所的な範囲の攻撃。更には奴の高すぎる魔法防御力を貫く攻撃力と……普通に考えれば、無理難題に思えてくるような条件だよ。
先に結論から述べるが、奴には『自壊』して頂く。合体した事による巨大化を逆手に取らせてもらうとしようか。
ここまで言えば、俺が使おうとしている魔法が何か分かるだろう。答えは『重力操作』だ。奴の重量を何倍にも増やし、自身の重みで潰れてもらおう。
イメージは、奴の頭上から地面に向かって押しつぶす感じで。ちなみにイメージには元の世界で有名な漫画の一場面を参考にさせてもらったよ。修行の為、重力を百倍にして鍛錬するアレだ。
「よしっ! 全員下がれっ!」
俺の号令でミスリルゴーレムの周囲から全員退避する。そして高めた魔力を、一気に魔法を解き放つ!
すると、ミスリルゴーレムが動きを止め、その場で立ち尽くす。その後、がくがくと震えだして膝をつき地響きと共に地面に倒れ伏した。
地面が陥没し、ミシミシッという音を響かせミスリルゴーレムの装甲がひび割れていくのを、全員でじっくりと眺める。
「……これでは足りないか?」
効いてはいるのだろうが、致命傷と言えるダメージには遠いと感じる。よかろう、ならばもう一方からも力を加えてやるっ!
「おおぉぉぉぉっ‼」
気合の籠った咆哮が俺の口から放たれる。それに合わせて更に魔力を滾らせ、追加で魔法を発動させる!
追加の魔法は、地面から頭上に向かって突き上げる感じで重力を加える。上下から同時に高重力で挟み込み、一気に圧壊させてやるっ!
ガキャガキャッ! キリキリッ! バキンッ‼
辺りに響く不快な金属の破砕音。
「このまま一気に……砕け散れっ‼」
止めとばかりに追加で魔力を練り上げる。すると遂に限界を迎えたのか、ミスリルゴーレムはバラバラに砕け散り、一際大きな魔石を残し消え去った。そして転移魔法陣が現れ、部屋の中央に宝箱が忽然と姿を現した。最下層のボスを倒した後の宝箱、期待していいよな?
「……むっ?」
魔力を使い過ぎたのだろう、俺は脚に力が入らなくなり、尻もちをつき地面に座り込んでしまった。
「旦那様っ⁉」
事の成り行きを見守っていた嫁達が、慌てて駆け寄って来てくれる。
「大丈夫だ。魔力を消費し過ぎた反動だろう、少し休めば元に戻るさ」
「もう……あんまりおねぇさん達を心配させないでねぇ?」
「ああ、済まない」
何か毎回このやり取りをしていないか? まるで成長してないじゃないか、俺は。
「ところで……オリーブは?」
そう言うと、全員部屋の隅の方向に顔を向けた。そこでオリーブは地面に座り込み、何かを集めているようだった。今はそっとしておこう。
「少し休憩しよう。その後に宝箱を開けてみようか」
水分を取り、保存食を食べて一息入れる。丁度良い機会なので、今の戦闘の反省会を行う。
「私達の武器構成ですと、今回の様な硬い敵が相手だと苦戦してしまいますね」
「ワタクシ達は剣を用いての斬撃が中心ですものね……」
「……役に……立てなかった……」
「攻撃を防ぐのが役割とはいえ、全くダメージを与えられないのは情けない限りです」
「こればかりはしょうがないさ。俺も含めて、今回のボスは相性が悪すぎた」
打撃武器を装備していたのは、ゲストのオリーブのみ。これは次召喚する『嫁』の方向性はきまったな。
「それよりもぉ、さっき旦那君が使った魔法、おねぇさんに教えてくれない?」
「私も、お願いします」
先程の魔法――『重力圧壊』とでも名付けるか、これを三人同時に使えばもっと楽に倒せたかな? 『水圧破斬』含め、他の構想段階の魔法も教えておくと後々生きてくるか。というか、ソニアならにわかの俺よりも使いこなす事が出来るはずだしな。
「……お待たせして、すみませんでした……」
反省会も終わりを迎えた頃、オリーブがこちらに戻って来た。手にはギルドカードと、何かの破片を握りしめていた。
「そのギルドカードは、仲間の皆さんの物でしたか?」
「……はい。全員分のギルドカードを見つけました。それと僅かに残っていた装備の一部も……」
そうか……それはせめてもの救いだな。
「あなた様……ワタクシ、あの宝箱の中身がとても気になるのですが」
プリムラがそう言うと、沈んだ空気だった場が少し和んだ。恐らくプリムラの気遣いだろう。
「では、開けてみるとするか」
「でしたら先ずは、私が罠の有無を調べますね」
そう言ってアリスが宝箱の前に座り、魔法で探知を開始する。ボス討伐の御褒美で出た宝箱だ、流石に罠は無いとは思うが念の為だ。
「……罠はないようですね。鍵も掛かっていません」
「わかった……プリムラ、開けてもいいぞ?」
「宜しいんですの? で、では……いきますわっ!」
緊張しているのか……プリムラはゆっくりと蓋を開けて行く。中に入っていたのは、一着のドレスだった。
「まあ……綺麗な純白のドレスですわ。ですが……装飾等の飾りが一切ありませんわね」
「だが、微かに魔力を感じるな。それに、最下層のボスから出た物だ。それなりの性能がありそうだな」
鑑定するのが楽しみだ……それとこの大きな魔石、等級はいくつだろうか?
「この魔石は三級か?」
「……どうだろう? でも、大きさから見て……三級以上は確実……売らずに持っておいた方が……いいかも」
ふむ、確かにこれ程の等級の魔石は希少性がありそうだ。金には困ってないし、何かの役に立つかもしれないな。アイテムボックスに保管しておこう。
さて、そろそろ地上に戻るとするか。
「オリーブさん。もう大丈夫ですか?」
「はい。仲間たちの仇も取るとこが出来ましたし、これで心残りはありません。地上に戻りましょう」
晴れやかな笑顔でそう告げるオリーブ。なら、帰るとしよう。
全員、魔法陣に乗り地上へと帰還する。苦労はしたが、今日も楽しい探索だったな。
「雷魔法」に続いて私がどうしても使いたかった魔法の二つ目。それが「重力魔法」です。ようやく出せましたよ。
「重力」を選んだ理由は「雷」と同じく、防ぐことが困難な為ですね。
戦いにおいて一番効果的なのは、何をしたか分からない攻撃――即ち「初見殺し」だと思っています。
雷も重力も、その「初見殺し」にピッタリな物。これらの魔法は、これからの冒険に欠かせない物となっていくでしょう。




