良い事をすると気分がいいな
「ところでレオン殿、聞きたい事があるのだが?」
「はい、何でしょうか?」
何だ? 神妙な顔をして。何か不都合な事でもあったのか?
「うむ、戦闘訓練は直ぐに初めても大丈夫かね? 早く昔のカンを取り戻したいのだが……」
何か重大な異変でもあったのかと身構えた俺が馬鹿らしくなってきたな……。
「数日は様子を見て下さい、今回は脚だけでしたが後日全身を調べてみますので、鍛錬はその後にして頂ければと思います」
「承知した。再び剣を握れると思い気が急いてしまったな、わっはっはっ!」
そう言って豪快に笑う伯爵。
「父上が……父上の脚が……うっ、ううう……」
「ああ……ローリエ、良かったわ……ぐすっ……」
ローリエとアリス姫が二人で抱き合い、人目も憚らず涙を流している。色々と思う所があったのだろう。
ふとガルド王を見ると、天を仰ぎ体は小刻みに震えていた……「貸し」一つだからな? 後でしっかりと返してくれよ?
「小僧、見事じゃたぞ。久々に良い魔法を見せてもらったわ」
そう言ったのは賢者殿だ……いい笑顔だなぁおい。必要以上にこちらの手札を晒されている感じ、嫌な気分になるな。掌の上で踊らされていると感じる……。
「私は自分の出来る事をしただけですよ」
「うむ、そうだな。お主にしか出来ない事よな? 実に興味深いぞ」
ちっ、一言余計だ。これ以上こちらの手札を見せるのは危険だな。まあ、既に手遅れな気もするが……。
「レオン殿……」
ローリエとアリス姫が傍までやって来た。二人とも泣き腫らして目が充血していたが、とても晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「ありがとうございます、何とお礼を申し上げれば良いか……父上があのように笑ったのはいつ以来でしょうか」
「私の力量では、おじ様の怪我を治して差し上げる事が出来ませんでした……正直な事を申しますと、私は諦めていました……もうおじ様の脚を治す事は不可能だと……自分の力不足を何度嘆いたか……」
成程、ひょっとしたらアリス姫が治癒魔法を修練しようとしたのは、伯爵の怪我を治したいという思いからかもな。
「いいえ、王女殿下に治癒魔法の事を教授頂いたからこそ、伯爵の脚を治す事が出来たのだと思います。王女殿下が努力を続けたからこその結果です、自信を持って下さい」
それにこれはただ単に「知識」の差だ。魔法の腕前自体はアリス姫の方が上だよ。そう思えば、昔学校で習った事は、決して無駄ではなかったな。
「……レオン様」
俺の励ましの言葉を聞くと、アリス姫は俺の顔をじっと見つめていた。気のせいか、その瞳は熱を帯びている様な……ローリエも同様だ。そこまで感動してくれるとはね。少しでも二人の役に立ったのならば幸いだよ。
「それで小僧、お主はこれからどうするのじゃ?」
和やかな雰囲気の中、賢者殿にそう問われた。ふむ、既に予定は決めていたので、俺はすんなりと答えた。
「取り敢えず『ダンジョン』に潜ってみようかと思います。王都周辺に幾つかあると聞いていましたので、王都から離れ過ぎず、ローリエ殿と王女殿下の鍛錬にも最適かと」
それにダンジョン自体にも興味がある。ふふふ、未知の世界に飛び込むのは幾つになっても興奮するな。この世界に来た時然り、初めて魔法を使った時然り……これもこの世界に来た目的の一つだからな。
「なら今日の所は城に泊まっていけ。少しでも恩を返したいからな」
ガルド王がその様な提案をしてきた。こちらも泣き腫らした為か、目を真っ赤にしていたよ。
「……お言葉に甘えまして、お世話になります」
特に断る理由も無い。それに、王宮に泊まるなどそうそう経験出来るものではないからな、嫁達も喜ぶだろう。
「よしっ! それじゃあアリス、レオン達を客室まで案内してくれ。それと今日は飯も豪勢にするから期待していいぞ?」
「お任せ下さい、御父様。それではレオン様、御案内しますね」
「私も御一緒します」
ローリエを伴い、アリス姫の先導で客室へと向かった。折角世話になるならばと、途中で城の厨房に寄り道してもらいダッシュバードの肉を提供した。すると料理長に感謝されたが、それ以上に感謝・感激していたのはローリエだった。
「レオン殿! 感謝しますっ! ああ……ラッシュバードのお肉ぅ……」
普段の彼女からは信じられないほど浮かれていた。それはもう今すぐに踊り出しそうな程だ。
「ふふふ、ローリエは本当にラッシュバードのお肉が大好きですね」
慰問団来訪の宴で、他の誰よりも多く肉を胃袋に収めていたのは確認済みだ。本当に好きなんだろうな。
アリス姫に案内された客間は、天井が高く、広々としていて調度品なども高級そうな物が揃っている。恐らく他国の王族等が泊まる部屋では? 所謂「迎賓館」とか「貴賓室」と言われる物だな。しかしこの部屋は何人が泊まる想定なのだろう、天蓋付きの大きなベッドが二つあるのを見れば、多分二人部屋なのだろうが……。まあ、自国の権威を示す為にはしょうがない所もあるかな。質素な部屋に来賓を泊めれば「無下に扱われた」と騒ぎ出す輩もいるだろうしな。
「凄いお部屋ですね……」
「ワタクシは懐かしく感じますわね」
「……広すぎて……落ち着かない……」
「ふふ、このベッドは凄いわねぇ、何人まで一緒に寝られるのかしらぁ?」
嫁達は思い思いの感想を呟いた。マリーとリラは普段の生活との違いに驚いているようだ。プリムラは元お姫様なので驚きは無いが、懐かしんではいるみたいだな。ソニアは巨大なベッドに興味津々の模様。
折角なので、ここで明日以降のスケジュールを決めてしまうか。
「先ず初めにお二人には冒険者登録をしてもらいます。その後ダンジョンに潜り実地で訓練をしてもらう予定です。そこで同時に冒険者としての生活に慣れて頂きます」
「「はい、わかりました」」
真剣な表情で頷く二人。そこまで厳しいものではないが、まあやる気があるのは良い事かな。
「帝国に行った際は、安宿や野宿の可能性が高いのでこの国にいる間に慣れて欲しいと思います」
帝国の首都――帝都で活動する時に、高級宿なんかに泊まれば目立ってしまうからな。敵の総本山の可能性がある以上、目立たず静かに過ごさなければいけない。
「時間は沢山あるので焦る必要はありません、大丈夫ですよ」
俺の予測では早くても情報収集に二ヶ月は必要だろうと思っている。スマホやパソコンが無い世界での情報伝達の手段は基本『足』だからな。とは言っても俺は例外的に「それ」が可能な物があると踏んでいるが。




