裏で手を引く者
「うむ。良くやったの、見事じゃ。それに「良いモノ」も見れたしのう? ホッホッホ」
この魔法を使う上での一番の懸念は、隣でニヤニヤと悪い笑みを浮かべている『賢者殿』に見られた事だな。
「一体どういう原理の魔法なのか……詳しく聞いてみたいのう」
「……それよりも、これで終了でしょうか?」
「あからさまに話を逸らしよる……まあよい、今度しっくり話を聞くとしようか」
この手の人間は素直に同意するのは悪手。かと言って完全に無視するのも悪手……非常に繊細な返答が要求される……うん、面倒臭いな。
「うむ、私も知りたいね。是非、ご教授願いたい」
「「「!」」」
突如、聞き覚えの無い男の声が聞こえてきて、俺達は慌てて声のした方に振り向いた。するとそこには魔族の男が一人、ポツンと佇んでいた。年齢は……良く分からんな。エルフもそうだが魔族も実年齢が分かりづらすぎる。いや、それよりも……一体いつの間に? 俺たち以外の人の気配は無かった筈だぞ?
「(ふるふる)」
確認の為に桔梗にアイコンタクトを送るが、彼女は小さく首を横に振るだけだった。彼女が気付けなかったのならしょうがない。何かしらの魔法を使ったのだとは思うが……。
「ふむ……お主、見覚えがあるぞ? 確か……先代魔王の側近で、名前は……「キャプラー」とか言ったかのう?」
「おお! 世界中にその名が知れ渡っている賢者様に、私如きの名前を憶えて頂けているとは。光栄の極みですな」
ほう……先代魔王の側近ね……。つまり、
「先代魔王の、信奉者のお一人ですか」
「然り。もっとも今は唯の年寄りだがね。今日は研究の成果を試す為と、挨拶に伺った次第だ」
「挨拶……ね。それは貴方達の目的を達成する際の障害となる『賢者殿』の力を見極める為か?」
「鋭い考察だ、お若いの。第一の目的は君の言う通り。賢者様の力は予想以上……いや、規格外と言わざるを得んな。それと君の事も知りたかったのだよ、レオン君」
面識が全く無いこの男が俺を知りたがる。いや、俺とこの男を繋げる者が一人いるか。
「ミザーマ経由ですか」
「うむ。あの若造が突然血相を変えて私の研究所に飛び込んで来たと思ったら……。人族の男に計画を邪魔されたと騒ぎ散らしおっての。その話を聞いて、君に興味を持ったのだよ」
ふふふ、俺の名前が俄かに広がり始めたか。計画通りだ。
「それで、どうでしたか? 私の力は」
「十分に我々の障害になり得ると判断する。それで、先程の魔法はどういった物なのだ?」
おいおい。作戦が失敗して貴重な研究成果も失ったのにこの態度……マッドサイエンティスト気質か? 己の研究が第一で、それ以外はどうでも良いと考える。ならば、こう言えばいいかな?
「それは是非、御自身の手で解明して下さい……出来るものならね」
「はっはっは……煽りよるわい。良かろう、その挑戦受けて立とうではないか」
この手合いの人間は興味ある事を見つけると、今までやっていた事を全て投げ捨ててそちらに飛びつくのだ。これで幾分かの時間が稼げる。
「今日の所はこれでお暇するとしよう。早速研究を始めなければならんのでね」
それだけ言うと、キャプラーは瞬く間にその場から消え去った。やれやれ……。
「ふ~ん……あれがキャプラーね」
「うん? ヴェロニカは面識が無いのか?」
「ええ。話で聞いた事があるだけね。妾が物心ついた頃には、既に魔王領から姿を消していたのよね」
成程。相当な時間をかけて準備をしているのだな……だとすれば一つの疑問が生まれる。奴らの活動資金は何処から出ているのだ? 研究を続ける為には、それなりの資金が必要になる筈。そこが解明されれば奴らのアジト等も分かるかもな。
「後の事は任せても? 我々は撤収しようと思うのですが」
「良かろう。褒賞については後日渡そう」
城で待っているであろうシオンを迎えに行かなければな。悪いが早めに切り上げさせてもらおう。
「私達はここに残ります」
「まったねー」
オリーブとユッカは残るそうだ。二人と別れの挨拶をして城に向かう事にした。




