再びの「合成獣」
全速力で前へ前へと疾走する。そして前線に到着すると、凄惨な光景が俺達の目に飛び込んで来た。
「う……うう……」
「いたい……いたいよぉ……」
「だ……誰か……助けて……」
戦場の至る所に負傷した兵士が倒れ伏していた。剣は折れ、鎧と盾は砕け散っている。それが魔物の攻撃の激しさを物語っているな。肝心のキマイラだが、以前戦った個体よりも、二回り以上大きくなっているな。
「ぬーーーんっ!」
この戦場で立っていたのは、ノーバス伯爵ただ一人。その伯爵は勇敢にも魔物と激しい戦いを繰り広げていた。
おっ? 良い一撃が入ったな。キマイラの腹部に大きな傷を付ける事に成功だ。堪らずキマイラは上空に退避する。今のうちに彼と接触しよう。
「ノーバス伯爵」
「おお! レオン殿。戦況は見ての通りだ。情けない話だが、兵士達では歯が立たなかったよ。それにしても奴は厄介だな……見ろ」
そう言われ空で優雅に旋回しているキマイラを観察する。するとノーバス伯爵が付けた傷が塞がっていくのが確認出来た。再生能力は健在か。
「先程から傷を付けては逃げられ回復される……その繰り返しだ。残念だが、私では決め手に欠けるようだ」
「ここは私共にお任せ下さい。伯爵は負傷した者達と共にお下がりを」
「……無念ではあるが……致し方ないか。分かった、貴殿を信じて下がるとしよう。後は任せる」
無念さで顔を歪ませながらも、ノーバス伯爵は負傷した兵士と共に後退していく。現在の状況から冷静な判断が下せる優秀な指揮官だよ。
幸いにも兵士に死者はいなかったようで、何とか全員後退する事が出来た。これでこの場には俺達家族と、
「実際に動いている所を見れるとはのう。何とも僥倖じゃ。ほれ、さっさと戦わんかい。ん? ワシか? 勿論、見学させてもらうぞい」
野次馬根性丸出しの『賢者殿』だけだ。まあ、下手に手出しされて連携が乱れるよりマシだと思う事にしよう。何事もポジティブに考えよう。
「ダメねぇ……魔法の効き目が弱いわぁ」
先程から上空に居るキマイラに向かって魔法を放っていたソニアが、頬に手を当てながらそう呟いた。どうやら奴の魔法に対する防御力は想像以上に堅牢なようだ。
「こっちもダメさね。あんだけデカいくせに素早くて、まともなダメージが与えられないよ」
魔物の滑空攻撃にカウンターを合わせたセフィラも白旗を上げてしまったか。体が大きくなった事により敏捷性が低下すると思いきや、逆に素早くなるとは。勿論、巨体になって防御力もアップしている。本当に魔力って凄いよな。
上空にいる時は口から火球を放ち、隙を見て滑空攻撃を仕掛けてくる。こちらはそれに合わせて魔法や攻撃を放つが、大したダメージを与えられない。よしんばダメージを与えても、直ぐに回復されてしまう。見事なまでに八方ふさがりだな。打つ手なし。お手上げだ……他の者だったらな。
「……俺がこの様な状況を想定していないとでも? 誰だか知らんが……舐められたものだ」
今回の襲撃を裏から糸を引いている者よ、どうせ何処からか見ているのだろう? いいだろう見せてやる。俺の切り札の一つをなっ!
俺がこの世界に来てこれだけは絶対習得したいと思った魔法が三つある。
一つは『雷』の魔法。魔物は勿論、対人も強いし防ぐのが困難な便利な魔法だ。弱点はゴーレム等の硬い非金属に弱い所。
二つ目は『重力』の魔法だ。これは防御力が高く巨大な敵を想定した、破壊力を重視した魔法だ。弱点は空を飛んでいる敵と素早い敵だ。直接触れて付与するという方法もあるが、魔力を限界まで高め放つという動作が必要な為、現実的な手段ではない。
今回の敵であるキマイラだが、重力魔法が決まれば倒せるだろう。だが奴は空中にいる事が多く、素早過ぎて当てる事が困難だ。先程試しにと『重力圧壊』を使ってみたが見事に避けられてしまったよ。
そこで登場するのが、三つめ『磁力』の魔法だ。上記二つの魔法が効かない敵を想定したトリッキーな魔法だ。まず初めに右手で創った「N極」の磁力場を敵にくっつける。飛ばす磁力場は途轍もなく速いので躱される心配は無い。次に左手で創った「S極」を適当な地面や壁に貼り付ける。そして最後に、魔力を使い高磁力にすれば……敵は地面や壁に貼り付けになるという寸法だ。俺の想像力ではこれが限界だった。まだまだ改良の余地はある。日々精進だな。
この三つの魔法にある共通点は「理論を解明しての防御が不可能」な点だ。勿論、この世界での話だぞ?
例えば雷。この世界の住人は、荒れた天候の時に雷が落ちる事は知っていても、その雷がどういった物かは分からない。これはアリスとローリエの二人に聞いて確認済みだ。雷の特性を知っていれば絶縁体で体を覆う、みたいな防御方法がある。
重力は言わずもがなだな。以前に我々は地面に引っ張られているという話をソニアにした事があるが、終始頭に「?」を浮かべていた。彼女程聡明な人物でも重力の話は理解出来ていなかったのだ。
磁力に至っては、実生活でこれを意識する事は殆んど無い。存在すら知られていない物の対処法なんてある筈も無い。ある意味究極の魔法だな。
前置きはこれ位にしよう。名前は……そうだな……『磁力領域』とでも名付けるか。
「喰らえ! 『磁力領域』!」
早速キマイラに磁力場を張りつけ、続けて近くの地面にもう片方を貼り付ける。準備は完了、俺は魔力を高めて高磁力場に変化させる。
すると空中で優雅に旋回していたキマイラの体がぐらつき、徐々に高度を落としていき、地面に激突した!
キマイラは何とかその場から離れようと藻掻くが、地面に縫い付けられている様に離れる事が出来ない。
「今さねっ!」
その隙を逃す嫁達ではない。セフィラの号令と共に一斉攻撃と波状攻撃を一身に受けるキマイラ。防御も回避も出来ずに再生能力を上回る攻撃を浴び続け……やがて動かなくなった。
残念だがこれが『俺』のやり方だ。卑怯とは言うまいな?




