敵の正体は……
「さて、主な議題は話し終わったか。では、解散する前に少々世間話でもどうだ? 特に、そこに居るヴェロニカには色々と聞いておきたい事があるしな」
会議が終わり、そのまま解散になる流れかと思われたが、魔王陛下が口角を上げながらそのような事を口にした。その言葉で謁見の間に流れていた重苦しい雰囲気が和らいだ。これを狙って発言したならば良いセンスをしている。
「妾に聞きたい事ねぇ……何かしら? ローラン」
「うむ。余も含め、周りの誰が忠告しても「あの」服から着替えようとしなかったお前が、キチンとした服を着ているのが不思議でな」
ああ……あの全裸同然の服か。ヴェロニカの話ではあの服はお気に入りで、何処でも着用していたらしいからな。それが変わったとなれば不思議に思うのも当然か。
「ふふふ、この服素敵でしょう? 旦那様からプレゼントされた服なの。今はこの服がお気に入りなのよ」
そう言ってヴェロニカが、その場でくるりと一回転してみせる。非常に愛らしい行動で微笑ましくなるが、魔王を呼び捨てにしたことはスルーしないぞ? その辺りの事は、後でしっかりと問いただしておくとしよう。
「ほう? レオン殿は実に多才であるな」
「ええ、そうなのよ。自慢の夫だわ」
その後、貿易については後日改めて話し合いの場を設けるという事で、この場は解散となった。
「……」
魔王国の重臣方が部屋を退出していく中、一人の男が俺の顔を見て頭を下げてから退出していった。あれは……、
「もう……相変わらずね、お父様は。こっちに来て挨拶すればいいのに……」
やはりあの人がヴェロニカの父親か。彼女に似ず大人しそうな雰囲気を感じたが。
「ほれ、ワシ達も帰るぞ。帰りは船では無くワシの魔法じゃ。早う近くに集まらんか」
帰りの船旅も楽しみだったのだが……それならば仕方がない。俺達は『賢者殿』の周囲に集まった。
「うむ。では行くぞ」
目の前が光で溢れ、眩しさで目を閉じ視界が暗転する。数秒後、目を開けるとそこは良く見知った愛しの我が家であった。
「到着じゃ。後の事は国の連中に任せておけい。明日からはお主らの好きなように過ごすがよい」
それは助かる。俺としてもやりたい事が山積みだしな。
「ではワシはこれで……おおっ、そう言えば以前約束しておった「アレ」じゃ。丁度良い、今入らせてもらうとするかのう」
ん? 約束? 入る? 一体何の話……まさかっ⁉
「うむ! お主の家の風呂を使わせてくれるという約束じゃ。今を逃せば次は何時になるか分からんからの」
あの発言は本気だったのか……てっきり社交辞令かと……。
「ほれ、早う案内せんか」
「……分かりました」
このロ○BBAに何を言っても無駄か。俺は抵抗の一切を諦め、素直に風呂へと案内した。
「では、ごゆっくりと寛ぎ下さい」
俺が賢者殿を風呂に案内し、リビングに戻ろうとしたその時だった……その『悪魔の囁き』が聞こえたのは。
「何をしておる、お主も一緒に入るのじゃぞ?」
……ハイ? ナニヲイッテイルノデスカ? イッショニハイル?
「……却下です」
思わず俺の脳が、言われた言葉を理解するのを拒否したよ。何というアホらしい提案をしてくれるな。
「何じゃ? 風呂を共にするくらい何ともないじゃろう? そ・れ・と・も、ワシの『ないすばでぃ』に欲情するヘンタイなのかのう?」
ツッコんだら負け……ツッコんだら負け……ツッコんだら負けだ。常に冷静さを保つんだ、俺!
この手の輩は、こちらが狼狽える姿を見て喜ぶ厄介な人種だ。ならば下手に反抗するよりも、素直に従った方が賢明か。うん、俺は至って冷静だな。
「分かりました。ご一緒しますよ」
という訳で、全員服を脱いで風呂場へと向かう事になった。折角風呂に入るのだ、余計な事は考えない事にしよう。
「気持ち良いすか? 先生」
「うむ、気持ちよいぞ。続けるが良い」
現在、アリスが賢者殿の背中を洗っている。案の定と言うか、先程までの流れで賢者殿が俺に背中を洗わせようとしたのだが、
「私がお背中をお洗いしますね」
と自ら進んでそう名乗り出たのだった。その際に、俺の方を見て可愛くウインクをしてみせた。俺の危機を察知して自らが生贄に……その献身的な行動には、本当に頭が下がる思いだ。
「ふぃ~……いい湯じゃのう……」
体を洗い終わり各々が自由な体勢で湯船に浸かる。今更なので言うか迷ったが、取り敢えず軽く触れておく。
この『賢者殿』のスタイルだが『つるん』『ぺたん』という擬音が頭に浮かぶ程に起伏の無い見事な幼児体型だ。
しかし、改めて見ると『賢者殿』が保有する魔力量は尋常ではないな。このミニマムなボディの何処に蓄えているのやら。何かしらのカラクリがあると思うのだがね……。




