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魔王を名乗る者

 その後も穏やかな船旅が続いたのだが、遠くに陸地の影が見え始めると同時に、空が少しずつ曇り始めてきた。

「もう少しで魔大陸に到着じゃ。皆の者、下船の準備をしておくのじゃぞ」

 もう到着か。随分と早かったな。俺は船内に散らばっていた妻達に声を掛け、甲板に集合する。

「先程までは澄んだ青空だったのに……こんなにも天候が急変するとは……」

「ああ、それはな。あの大陸には『嵐』の名を冠した竜種が住んでおるからじゃ。故にあの大陸は年中雲に覆われておる訳じゃな」

 ほう……竜種か。いつか会ってみたいものだな。今は会談を優先しなければならんし、いずれ日を改めてという事になるか。

 大陸の影が大きくなると同時に、立派な港の姿も確認出来始めた。帆船は港に近付くと、ゆっくりと入港を開始。何事も無く港に到着する。

「よし、では降りるとしようか。迎えも到着しているようじゃしのう」

 そう言って賢者殿は港に視線を向ける。そこには鎧を着込んだ一団の姿が見えた。

「ようこそ魔国へ、シャムフォリア王国の方々。私は魔王親衛隊の隊長を務めていますカインと申します」

 船を降りた俺達をその一団が迎える。その中で一番豪奢な鎧を着た偉丈夫がそう名乗った。魔族の特徴である角が側頭部に映えている。しかし……随分と大物が来たじゃないか。これではまるで国賓待遇だ。

「うむ、久しいのうカイン坊や。壮健そうで何よりじゃ」

「ええ。エフィルディス様もお変わりなく」

 そう言って魔王親衛隊隊長が恭しくお辞儀をする。それにしても坊や呼びとは……本当にどうなっているんだ? この『賢者殿』は……。

「お主にも紹介しておこう、こやつはレオンじゃ。我が国の新たな英雄じゃな」

「ほう……この方が噂の……」

 こいつは……無駄にハードルを上げてくれるな。それと噂だと? 一体どんな噂なのか、知るのが少し怖い気もするな。 

「レオンです。英雄だなんて恐れ多い、しがない冒険者ですよ。宜しくお願い致します」

 俺はそう言ってカインの前に手を差し出す。一般人アピールを忘れずに。

「それはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします」

 彼とがっちりと握手を交わす。力強い握手だ……これだけでも、この男が優れた武人である事が伝わってきたよ。

「魔王陛下は既に城でお待ちです。城までは我々がご案内致します」

 そう言って城に向かおうとしたその時だった、

「あら? 妾には何の挨拶も無いのかしら?」

 今の今まで大人しかったヴェロニカが、そう言いながらカインの目の前に進み出て来た。

「……ヴェロニカ殿も、お久しぶりです」

 カインが苦虫を嚙み潰したような表情で挨拶を交わす。親衛隊隊長に何て顔をさせるんだ、ヴェロニカは。

「ふふふ、少し見ない間に強くなっているわね。どう? 久しぶりに手合わせしてみない?」

「今は御客人を案内する最中ですので、お断りさせて頂きます」

「そうよねぇ、昔みたいに妾に負けて泣き喚く訳にはいかないものねぇ?」

「……子供の頃の話を持ち出すのは止めて頂きたいですね」

「まあいいわ。今日は夫を支える妻として来ているのだしね。からかうのはこの位にしてあげるわ」

「レオン殿……彼女を妻に迎えた貴殿を、私は尊敬しますよ……心の底から……」

 やつれた様な表情と遠い目をしながら、カインがそう言ってきた。この男にそんな表情をさせるとは……一体ヴェロニカは魔大陸でどの様に過ごしていたんだ? 聞くのが怖すぎるぞ。




 そんなやり取りを終えて、一路魔王国の王都へと向かう。王都へ向かう道中の町で魔族の暮らしを見る事が出来たのだが、案外と人族と変わらない生活をしている。田畑を耕す者、商店を営む者、兵士として城に勤める者、様々いる。角が生えていたり、他の種族より魔力が高めだったりするが、基本的には我々と大差無い。うむ。本を読んで得た知識だけでなく、自分の目で見ることが出来て良かった。

 王都への移動は徒歩での移動となった。本来は先方が馬車を用意してくれていたのだが、

「若い者が、今から馬車に頼ってどうする。自分の足を使わんかい」

 と言う『賢者殿』の鶴の一声によって徒歩での移動と相成った。魔族の方々……申し訳ない。

 長閑な街道をひた進み、遠くに立派な城壁が見えて来た。あれが魔王国王都か。シャムフォリア王都の城壁よりも堅牢な造りではないか? 城門の外から見える城も、この世界に来てから見た城の中で一番大きいな。

 王都の城門前に辿り着く。俺達は門番に止められる事も無く城内へ進んで行く。まあ、当たり前だがね。

 多くの人が行き交う城下町を抜け、城の目の前にやって来た。

「既に陛下は謁見の間でお待ちです。休息も無い忙しなさで申し訳ありませんが、ご了承ください」

 城に入るや否や、即座に謁見の間に通される。何とも急な話だな……そこまで切羽詰まっているという事か。

 謁見の間にある玉座に一人の男が座っている。年齢は……見た目は若いのだが、魔族やエルフの実年齢は分かりづらい。流石は魔族と言わんばかりの魔力を保有していて、威厳を感じるその男が『魔王』なのだろう。

「余が今代の魔王、ローランである。本来なら歓迎の食事会でも開いてもてなす所だが、今は時間が惜しい。済まないが早速本題に入らせてもらうぞ」

 それ程大きな声で喋っている訳では無いのだが、腹の底にズンッと響く重みのある声色だ。これが『魔王』か……この世界に来て二人目だな。これ程の畏怖を感じる人間は。もう一人? それは無論、今隣に居る『賢者殿』だよ。

「やれやれ、遠路はるばる旅をして来たワシ等にろくな休息も無しとは……老人には優しくするものじゃぞ? ローラン坊や」

「……貴女は変わりない様子で安心しましたよ、エフィルディス殿。それと、いい加減「坊や」呼びは勘弁して頂きたいですな」

「かっかっか。ワシから見ればお主はまだまだ小童よ。そういう台詞は、後三百年は生きてから言うのじゃな」

 この人は本当に……他国の王にフランク過ぎだ。いや……今更過ぎるつっこみか。

「挨拶はこれ位にしておこう……さて、本題に入る前にまずは謝罪させて欲しい。貴国から最初の知らせが来てから時間が掛かってしまって申し訳ない。こちらも調べる事が多くて手一杯だったのだ」

 初手に魔王が謝罪を述べて来た。まあ、理由はよく分かる。いきなり他国の人間が「お前んとこの国民がうちの国で悪さしてるんだけど? どういう事?」と言ってきたのだ。そりゃ慌てて調べるよな。最悪のケースとして「戦争」にまで発展する可能性があった。証言の裏取りはしっかりしないといけない。

「結論から言えば、他国で暗躍している同胞は「先代魔王」の信奉者だった」

 先代魔王? おいおい、話が大きくなってきたぞ。

「先代……ああ、あの愚か者の事か。レオンよ、お主は先代魔王について知っておるか?」

「いいえ。寡聞かぶんにして存じません」

 流石に先代魔王の事までは調べていないぞ。

「そうか。では余が説明しよう。先代魔王は重度の『魔族至上主義者』だったのだ。この世界で一番優れている魔族こそが、世界を統べる資格がある……余からすれば馬鹿馬鹿しい考えだがな」

 選民思想か。どこの世界でも居るよな、こういう考えの人間は。

「だが悲しい事にその考えに賛同する同胞が、思いのほか多かったのが問題だった。その妄言を現実にする為に、全ての国力を注ぎ込み様々な研究を行っていた」

 どこぞのSFアニメで似た様な事を聞いたな。そんな事をすれば戦争に勝とうが負けようが地獄だぞ。

「他国を支配する為に戦争しようにも、魔族対他種族となれば、彼我の戦力差は数十倍以上違う。故に最初に行われた研究は、その戦力差を埋め研究だった」

 ふむ、話が見えて来たぞ。

「我等魔族は、他種族に比べ体内に保有する魔力が多いのが強みだ。その強みを更に高める為、後天的に魔力を増やす研究を進めた」

「魔石を体に埋め込む……ですか?」

「その通りだ。だが無理矢理魔力を増やした反動で、身体や精神に異常をきたす者が続出し、研究は頓挫とんざした様だがね」

 成程。ミザーマはその研究を続けていて、どうにか完成近くまで漕ぎ着けたのか。

「次に、様々な魔物の特徴を組み合わせ、強力な生物兵器を生み出す研究。しかし、無理に継ぎ合わせた為、生命活動時間が著しく短く、知能も低下した為に、戦力にはならないと判断されこれも頓挫した」

 ふむ、俺達が以前遭遇した「キマイラ」は十分な知能を備えていたと思ったが?

「続いてだが、敵対する有能な人材に魔道具を使用し、洗脳して配下にする計画だったが、一定以上の魔力を持つ者には無効だった事が判明し、これも失敗とされた」

 つまり、俺達が出会った謎多き魔物は、それら研究の成果だったとでもいうのか?

「少々宜しいでしょうか? 私共が出会った魔物に、それらの特徴を持つ個体がいました。そのどれもが倒すのに苦労した強敵揃いでした。魔王陛下の話通りの失敗作とは考えられません。それ即ち……」

「ああ。貴殿の想像通りであろう。我々が詳しく調べた所、それらの研究成果が盗まれていた形跡を発見した。そして何処かに潜伏し、研究を続けている者達がいるのであろう。報告にあったミザーマなる者もその一人とみている」

 つまり、だ。その者共の狙いは、

「連中の狙いは先代魔王の志を継いで「魔族による世界征服」を行うという事でしょうか?」

「余もそう考えている。そこで我が国は、貴国を始め周辺国に全面協力を約束する。その代わり……」

「国として加担している事実は無いと、周辺諸国に喧伝する事……ですか?」

「うむ、その通りだ。余としては平和な世界が一番だと考える。一部の愚か者の為に国民を不幸にするわけにはいかんのでな」

 妥当な判断だ。最悪、戦争に発展する可能性もあっただろう。

「それと、今回の事を期に貴国との貿易も増やしたいと考えている」

 良い機会だから、ついでに両国の関係を深めようという事か。これに関しては俺では無く『賢者殿』の管轄だ。そう思い彼女に視線を送る。その視線を受けて『賢者殿』が一歩前へと進み出る。

「随分と急な話じゃのう。今迄お互いに深く付き合おうとはしなかったというに」

「このままでは我が国に先が無いと思っただけですよ。先代の暴走による被害は回復出来ましたが、我が国の民に、明るい未来を見せたい……そう思っただけですよ」

 ピンチをチャンスに変える……言うのは簡単だが、それを実際に行える者はそういない。

「まあ、ワシとしては問題無いと思うがのう。ガルドには了承するように伝えておこう」

 それは俺としてもありがたい。魔大陸産の珍しい品々が手に入りやすくなれば万々歳だ。


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