魔大陸へ
翌日。昨日は家で大人しく養生していた事もあり、体調は万全だ。
『マスターに報告です。『オークションに参加』の条件を満たした為、召喚権を一回付与致します』
目が覚めて直ぐにガーベラからその様な報告が上がった。ふむ、新たな『嫁』か。どうするか後程妻達と相談するとしよう。
それはそれとして、昨日休んでいる間に、マリーと協力してマヨネーズの質を向上させ、元の世界の品質に近付ける事に成功した。
という訳で、完成したマヨネーズをジャックに味見してもらうと、
「こっ、これは⁉ 何という濃厚な味だ……この「まよねーず」とやらのレシピを是非教えて下さいっ! 言い値で買い取らせて頂きますよ!」
興奮で顔を紅潮させたジャックが俺に詰め寄って来た。やはりこの世界でもマヨネーズは好評だな。俺はマヨネーズの売り上げを二割受け取るという契約を結ぶことに成功した。ふふふ、これは未だ手始めに過ぎんぞ?
ついでにと思い、王城に向かいガルド王等城の人達にもマヨネーズを試食してもらったのだが、
「何だ……コイツは? こんなうめぇのは初めてだぞ! おい、こいつをもっと寄越せ!」
ジャックと同じ様に城の人達も驚きと興奮で騒ぎ出し、口々にマヨネーズの味を称えた。そして国のトップである国王が野盗紛いな事を言い出す始末。
「もう少しすればジャックの店から販売されます。それまで大人しくお待ち下さい」
そう言って何とかその場を収めた。やれやれ……。
「ああそうだ。魔大陸の『魔王』と繋ぎが取れたぞ。こんなに早く話が纏まるなんてな……お前んとこのヴェロニカ嬢のお陰だ。なんで近い内に魔大陸に使者を派遣するつもりだ。その時は宜しく頼むぜ?」
ほう? 思ったよりも速いな。それ程にヴェロニカの手紙が効いたのだろう。
「承知しました。私達も万全の準備を整えておきます」
早速家に帰り、ヴェロニカの指導の下準備をしていく。
「準備と言ってもねぇ……必要なのは防寒着くらいかしら?」
魔大陸はこの国から見て北西の方向にあり、この大陸と比べて気温が低い。とは言え、この時期は比較的過ごし易い気温らしいが。まあ、念の為に持っておけと言う事らしい。
それから二十日後。王都から賢者殿が我が家を訪ねて来た。
「準備は良いな? 今から魔大陸へ行くぞ」
家に招き入れるなり、挨拶も無しにそう言い放つ賢者殿。もう少し……こう……何かあるだろう? いや、この賢者殿にそう言った気遣いを期待するだけ無駄か。
「では、先ずは西の交易都市へ行くぞ。そこから船で魔大陸を目指す事になる」
船旅か。俺は大丈夫だが妻達が船酔いをしないか心配だな。そう思っていたのだが、
「船酔いはある程度魔法で緩和出来ますので、大丈夫だと思いますよ」
アリスからそう助言された。本当に魔法は便利だな。
「気を付けて。無事に帰って来て下さい…です」
留守番を任せるシオンの見送りを受けて、俺達は交易都市ガポールへ移動した。勿論、賢者殿の転移魔法でな。
町へ入り人混みを掻き分け港へ向けて歩いていく。今回の俺達はシャムフォリア王国の正式な使節団だ。したがって転移魔法で直接魔大陸に乗り込むのは不作法に当たる。だから少々面倒でも、正式な手順を踏んで入国する必要があるのさ。
港には一隻の大きな帆船が停泊していた。港に停泊中なので帆は畳まれた状態だ。この船で魔大陸へ渡るのか。
「ほれ、見惚れてないで早う船に乗らんか」
俺達がじっくりと船を観察している間に賢者殿は一人でさっさと船に乗り込んでしまう。やれやれ……忙しない事で。
俺達が乗船すると、船が錨を巻き上げ出港の準備に取り掛かる。そして大きな帆を展開すると、ゆっくりと港から離れていく。
港から少し離れた位置に来ると突然船の後方から帆に向かって突風が吹き始めた。その風を受けて帆船の速度がみるみる上昇していく。あれは……風を起こす魔道具か? 成程……これなら天候に左右されにくく、速度も出せるな。
あっという間に港が見えなくなり、帆船は大海原を進んで行く。幸いにして天候は良好で穏やかな風が俺の頬を撫でている。これなら重度の船酔いを心配する必要はないかな?
「小僧。魔大陸に着いてからの事を教えておくぞ。よく聞いておくのじゃ」
穏やかな海を眺め風の心地よさを感じていると、ゆっくりと賢者殿が近付いて来てそう言ってきた。ここで打ち合わせか?
「何処で話し合おうと同じじゃ。それに簡単な流れを説明するだけで、大した時間は掛からん」
「分かりました。それでは説明をお願いします」
「基本的にはワシが受け答えをするのじゃ。お主はミザーマと直接やり取りをしたのであろう? 彼奴についての細かい説明をお主に任せるのじゃ」
「承知しました。こんな事もあろうかと、奴の顔を描いた物を用意しておきました。きっと会談で役に立つでしょう」
魔王国との会談が決定して直ぐに、人相書きを描いておいたのだ。妻達に確認してもらったが、良く似ていると絶賛されたよ。自分でも良く特徴を捉えた良い出来だと自賛してしまった程だ。
「うむ、宜しく頼むのじゃ。後は……そうじゃなぁ……魔王はウチのガルドと似た気質を持っておる。余程の無礼が無ければ気にせんじゃろうて。気楽に接すると良い。それに魔王とは旧知の仲じゃ、堅苦しい感じの会談にはならんじゃろう」
まさか、魔王と顔見知りだとはね。どこまで広い人脈を持っているんだ?




