交易都市
翌日、シオンを除く妻達を伴って交易都市を目指す。シオンは教会へと向かった為、不在だ。
交易都市は王都から馬車で西に数時間の所にある。俺達の『脚』なら一時間もあれば到着出来るな。
ここで交易都市について少し説明をしておく。書類上はシャムフォリア王国に属しているが、事実上は別の国扱いという変わった場所だ。元はシャムフォリアの貴族が領主として治めていた町だそうだが、その貴族が経済音痴だったらしく、それを不満に思った商人達がその貴族を追い出したそうな。その後、有力な商人達が町を治める「自治都市」として今に至るそうだ。
商人達が町を運営してから町が経済的に発展し、国に多額の税を払う事で商人達による政治体制を黙認させたのだとか。
しかし……十人程の集団が物凄い速さで街道を駆け抜けていく姿は、傍からはどう見えているのだろう? 時折すれ違う人々が、驚きと戸惑いの表情で俺達を眺めているのは……つまりはそういう事だろう。
走り続ける事一時間少々、遠くに高い城壁が見えてき。それと同時に「潮」の香りが風に乗ってこちらに漂って来た。海が近いのだろう。
町の出入り口からは、沢山の人々が行きかっていて大変な賑わいを見せている。俺達は町に入る手続きの為、門番にギルドカードを提示した。
「ほぉ~ん、アンタAランクかい……よし、通っていいぞ。ようこそ『交易都市・ガポール』へ」
と言う感じで、あっさりと町の中に入る事が出来たよ。少しばかりセキュリティが甘すぎる気もするが……この世界の基準で言えば問題は無いか。
町の中は更に多くの人でごった返していた。至る所に露店が並んでおり、店員の威勢の良い掛け声があちらこちらから聞こえてくる。大通りにも多くの商店が立ち並び、交易都市の名に恥じぬ装いだな。
手始めにと、俺達は色々な店に立ち寄りおかれている品々を物色していく。
「これは……何でしょう?」
「見た事が無い物が沢山ありますわね」
妻達も興味深そうにあれこれと喋りながら店内を見て回る。俺達は興味を惹かれた幾つかの品を買った。そのついでにオークションが何処で行われているのかを店主から聞き出した。まあ、その為に店の商品を買ったのだがね。
店主の話では、町の中央にある大きな建物がオークション会場になっているとの事。早速向かおうではないか。
オークション会場の目の前までやって来たが……確かにそれなりの大きさだが、特別驚く程ではないな。
少々の落胆を感じながら、建物の中へ入っていく。中には簡素な受付があり、そこに女性が一人佇んでいる。
「済みません。オークションに出品したいのですが」
俺は中央に位置している受付の女性に話しかける事にした。
「はい。初めての方ですね? ではあちらの階段を進み、その先にある受付で申請して下さい」
女性が指し示した先には「地下」へと続く階段の存在が。成程ね、そう来たか。
俺は女性に礼を言い、地下へと続く階段を下りていく。灯りの魔道具があるお陰で十分な明るさだ。地下だという事を感じさせない。階段を降り地下の通路を進んで行くと、地上にある受付より幾分か豪奢な受付が見えて来た。受付には地上と同じ様に女性が一人立っていた。ここで申請すれば良いのか?
「オークションに出品したいのですが……」
そう言いながら俺はギルドカードを女性に見せる。
「これは……承知しました、では出品する物をご提示ください」
ギルドランクAの力は偉大だな。話が早く進むからな。折角頂いた物だ、有効活用しなければ損というものだよ。
「こちらです」
俺はダンジョンボスから手に入れた魔石二つをカウンターの上に置いた。
「こ、これはっ⁉ 素晴らしい大きさの魔石です! 二級? いえ、一級でしょうか? どちらにせよ、これだけの魔石は久しぶりの出品ですよ! 今日のオークションの目玉になりますね」
受付嬢が興奮気味にそう捲し立てる。
「この二つをセットで出品は可能ですか?」
「勿論出来ますが……一体幾らの値が付くか……想像も出来ませんね」
別々に出品しても良かったのだが……まあ、纏めた方が高値が付きそうだしな。そっちの方が良いだろうという判断だ。
「それではこちらの品はお預かりしますね。それで、出品するにあたりまして、お客様が最低落札額を決める事が出来ますが、幾らになさいますか?」
ふむ、その辺りは元の世界のオークションと同じシステムか。そうだな……。
「何分初めてのことなので……そちらで決めてもらう事は可能でしょうか?」
「勿論可能ですよ。それと、落札価格の一割を手数料として我々が徴収しますので、予めご了承ください」
一割か。随分と良心的な割合だな。それでも十分利益が出ているのか。
「それではこちらの札をお持ちください。オークションが終わりましたら、この札を持ってここに戻って来てください。落札金額と札を交換しますので」
受付嬢から渡された札には、数字の「15」が書かれていた。
「分かりました。オークションの様子を見る事は出来ますか?」
「はい。あちらの入り口から中にお入りください。参加費は無料ですのでご自由にどうぞ」
俺は受付嬢に礼を言い、部屋の中へと歩を進めた。
「ほう、思ったよりも本格的だな」
部屋の中央部には大きな舞台が設置されていて、舞台上に豪奢な机が置かれている。そして部隊の周りを無数の椅子が囲んでいて、舞台に近い椅子には既に多くの人が座っており、オークションの開始を今か今かと待ちわびている様だった。
「俺達は外側に座ろうと思う」
遠くからの方がオークションの様子がよく見えるからな。
座って待つ事数十分。中央の舞台の上に男が一人上がって来た。
「紳士淑女の皆様! お待たせしました。これより本日のオークションを開始したいと思います。本日は一体どの様な逸品・珍品が出て来るのか、私も楽しみでございます。それでは早速一品目のご紹介です」
司会進行の男が、出品された品を紹介していく。そして次々と落札されていき、十四品目まで終了したのだが……。
「何と言うか……面白い物が多いわね」
ヴェロニカが苦笑交じりにそう呟いた。言葉を濁してはいるが、この場にいる妻達は、彼女の言いたい事が理解出来ているだろう。出品されている物は、有用な物が少なくガラクタが多い、正に「玉石混交」と言うに相応しい。少々「石」の方が目立ってはいるがね。
「それでは十五品目の紹介です。皆様! お待たせしました。本日最高の品が登場です!」
そう言って司会者の男が机の上に置いたのは、大きな魔石が二つ――俺が出品した物だった。
「「「おお~……」」」
魔石が登場すると、驚きと感嘆の声が会場内に木霊する。反応は上々の様だ。
「しかも! この二つはセットでの出品なのです。ふふふ、長い前置きは不要でしょう。会場内の皆様も、もう待ちきれないご様子。それでは早速始めましょう! まずは百万Gからスタートです!」
司会者の男が開始を宣言すると、競り値が爆発的に上昇していく。
「さあさあ! 現在四百万Gです! 他にいなければ終了とさせて頂きます!」
ふむ、四百万か。思ったより伸びなかったな。俺の予想ではもう少し高くなると踏んでいたのだが……。
「……五百万」
そんな俺の考えが漏れた訳では無いだろうが、一人の男が新たに五百万を宣言した。
「おお~っと! 出ました五百万! 他にいらっしゃいませんか?……いらっしゃらないようなので、今回の品は五百万Gで決まりとさせて頂きます!」
落札者が決まると、会場内は大きな拍手が響き渡る。落札したのは人の良さそうな初老の紳士だった。身なりも良いし、ひょっとすると貴族か? その紳士が周りの歓声に応える様に軽く手を上げる。
「……くっ、またアイツか!」
「これで何連続だ?」
「良質の魔石ばかり競り落としやがって」
その様子を見ていた俺の耳に、その様な言葉が聞こえて来た。どうやらあの紳士、幾度も魔石を競り落としているらしい。件の魔石買い占めに関与しているのか? それにあの男の魔力……少し調べてみようか。
「桔梗、あの男を探ってくれるか?」
俺の左隣に座っていた桔梗にだけ聞こえる様に小声でそう囁いた。
「もっちろん。あーしにお任せ♪」
そう言うと、桔梗は音も無くこの場から消え去った。
「キキョウは何処に行かれたのですか?」
突然消えた桔梗を不審に思ったマリーがそう尋ねてくる。
「少しばかりあの男を調べようと思ってね。それを桔梗に頼んだのだよ」
その後もオークションは進み、
「これで本日のオークションは終了となります。また明日の開催をお楽しみに」
司会者の男が終了を宣言すると、会場内は大きな拍手に包まれた。そして一人、二人と人々が会場から退出していく。
「俺達も出ようか。お金の受け取りもあるしな」
俺達は会場を後にし、受付へと戻って来た。そして受付嬢に持っていた札を渡す。
「ではこちらが手数料を引いた代金となります。ご確認をお願いします」
札と交換で渡された袋には大金貨四枚と金貨五十枚が入っている。うむ、間違いないな。
「ところで、あの魔石を落札された方は、有名な人物なのですか?」
「ああ、ローカス様の事ですね。あの方はこの町で有名な資産家ですね。何でも魔石をコレクションするのが趣味だとか……」
ローカスね……覚えておくとしよう。それにしても「コレクション」か……確かに魔石は高価で、光り輝く宝石と言えるか。棚に並べて観賞用に取って置く人もいるかもしれないな。
金を受け取って、建物の入り口で桔梗を待つ事にする。何かしらの情報を持ち帰ってくれれば嬉しいが。さて、どうなる?




