再びの「厄災」
……カーンッ、カーンッ、カーンッ!
「……なんだ? この音は……」
俺は何かを叩く甲高い音で目を覚ました。外を見るとまだ朝日が昇る前だ。
この音を聞きマリー達も順次目を覚ましていく。覚醒した頭で考える。俺は……いや俺達はこの音に聞き覚えがある。
「ご主人君……この音は何?」
カトレアは当然知らないだろう。他にも何人か首を傾げている。だがこの音を知っている嫁達は顔を強張らせている。
「この鐘の音は、魔物の襲撃を知らせる物だ」
俺のこの言葉で、首を傾げていた嫁達も状況が飲み込めたようだ。全員、急いで身支度を終わらせる。
チェックアウトをする為に入り口付近にある受付に向かっている途中で、支配人と鉢合わせる事が出来たのは僥倖だったな。
「お客様! 只今魔物の襲撃を知らせる鐘が鳴っております。お急ぎ城に避難を……」
随分と慌てているな。昨日、俺のギルドカードを見せた筈なのだがな。
「いいえ。我々はこれから町の救援に向かいます。またここに来た時には、次もこの宿を使いたいと思います」
俺の言葉に呆けている支配人を横目に、駆け足で外へと飛び出して行く。
薄暗い中、人々が慌ただしく行きかう町中を、俺達も城へ向かって走って行く。事情を知っていそうな兵士を探す為だ。
「見つけたっ」
松明を持って町の人々を誘導している兵士を発見した。
「魔物はどの方角から向かって来ていますか?」
兵士は俺を見て怪訝そうな顔をしたが、ギルドカードを見せると態度を一変させて、
「北西の方向から魔物が押し寄せて来たとの報告がありました。ですので西門付近で迎撃の準備を進めています」
西門か。ならばそちらに向かおうとしたその時、
「た、大変だっ!」
別の兵士が慌てた様子で駆け寄って来た。
「どうした?」
「ひ、東からも魔物の大群がっ!」
何? 北西からだけではなく東からもだと?
「ば、馬鹿な! 二か所から同時に? おい! お前は急いで城に居る陛下にご報告しろっ!」
「わ、分かった!」
兵士の一人が慌てて城へ向かって走り出した。
「二か所同時なんて……」
残った兵士が絶望感に打ちひしがれ、天を仰いだ。
「よし。俺達も二手に分かれて町を守るぞ」
危険だがそれしか方法が無い。それで組分けだが、
「西門には俺、マリー、ソニア、ローリエ、カトレア。東門にはプリムラ、リラ、アリス、セフィラ、桔梗、エリカ。以上だ」
俺達の中で最大戦力のソニアとセフィラを分けて、後はバランスを見て決めた。最適解では無いかもしれんが、今回は速さを重要視した。今はじっくりと考える時間がない。『兵は神速を尊ぶ』だ。
「そちらのリーダーはリラに任せる。頼んだぞ?」
「……うん……任せて……」
俺達が西門に向けて走り出していると、うっすらと朝日が昇り始めて来た。暗闇の中で戦うのは避けられたか。
西門に着くとそこには既に兵士と冒険者が集まっていた。その数およそ百人。だが、俺達と入れ替わるようにこの場から離脱する兵士がいた。東門に向かって行ったのだろう。最終的にここに残ったのは約五十名。これは……厳しい戦いになりそうだな。
朝日が降り注ぐ中、遠くから地響きが聞こえ始めた。それと共におびただしい数の魔物の影を捉えた!
「な、なんて数だ……」
「この人数で守り切れるのか?」
いかんな。周りの兵士達が及び腰になっているし、士気も低い。
「俺達が前に出るしかない! マリー、ローリエは俺と共に前へ! ソニアとカトレアは俺達の援護を!」
「「「はいっ」」」
「ふむ、槍を適当に振るだけで魔物が倒せるな!」
相棒の『天雷槍』に魔力を込めて、全身を使って槍を振り回す。雷を帯びた槍が周囲の魔物を切り裂き、焼き焦がす。
「少しでも数を減らす事を優先しましょう!」
マリーが両手のダガーを操り縦横無尽に敵を切り刻んでいく。
「今の私は皆を守る「盾」ではなく、未来を切り開く「剣」です!」
ローリエが『魔剣』に魔力を込め、刀身から無数の風の刃を創り出し、周囲の敵を殲滅していく。
「これ以上は、おねぇさんが進ませないわよぉ?」
城門付近まで接近してきた敵をピンポイントで狙い撃ちしているのはソニアだ。ソニアが居るからこそ、俺達は後ろを気にせず戦えるのだ。
「お空の魔物はウチにお任せあれ」
カトレアが巧みに『円月輪』を操り、鳥型魔物を中心的に攻撃をしている。
見事だな。踊りながら次々と敵を倒している。その姿を見ていると、何故だか力が湧いて来る気がするな。
「おお……何と美しい踊りなんだ……」
「ああ、あの踊りを見ていると何故だかやる気が漲って来るぞ!」
俺と同じ様に、カトレアの舞いを見た兵士達の士気が上がっている。これは嬉しい誤算だ。これで総崩れになる危険は避けられるだろう。
だがそれでもまだ足りない。徐々に兵士達が支える戦線が後退し始めた。単純な物量の差が出たか。くそっ! 後一手、何かあれば!




