サンテキア王国
走ること二時間。俺達はサンテキア国との国境にある関所に到達した。大きくて立派な門のある建物だ。これはもう「砦」と言ってもいい規模の建物だぞ。
ここまで立派な関所を建造したのにはちゃんとした理由がある。前にも言ったがサンテキア王国は資源大国だ。その資源を狙い、違法採掘や違法採取そして密輸出が横行し国の経済に甚大な被害を与えた。それを取り締まる為に大掛かりな関所を建造したのだそうだ。
「ふむ、冒険者か。この国には何をしに?」
関所に詰めている獣人の兵士からの質問にさてどう答えたものか……。
馬鹿正直に「貴国が怪しい動きをしているので調べに来ました」なんて言える訳は無いか。まあ、俺達は冒険者だ。理由など幾らでも作り出せる。
「サンテキア王国には初めて来るので、観光がてら依頼をこなして稼ごうかと思いまして」
ギルドカードを見せながらそう言うと、
「ほう、Aランクか……心強いな……」
俺のランクを確認した後、何か小声で呟いていた。
「通っていいですよ。ただ、今は王都周辺の魔物が活発に活動しているので、一応注意しておいてください」
「はい。ご忠告有難う御座います」
ギルドカードを受け取り、サンテキア王国への入国を果たした。
関所から王都への街道を歩いて進んでいた時、
「レオン殿。先程の兵士ですが「心強いな」と呟いていました。あれはやはり?」
ローリエが先程の会話について質問して来た。
「そうだな。少なくともこの国で何か厄介な事が起こっているのは事実だろう。Aランクの冒険者を必要としているのだからね。それと先程の兵士の証言、王都周辺での魔物の活発化……俺が思っている以上に事態はひっ迫しているのかもな」
俺の言葉が真実であると告げるように、王都へ近付くにつれ魔物の襲撃が増えてきた。
これは異常だ……俺達は主要街道を進んでいるのだぞ? それなのにこの襲撃数。それに俺達以外の旅人の姿が殆んど無い。それに街道沿いの村や町の重苦しい雰囲気、これは町の人に話を聞いておこう。
町の人の話では、国から「近い内に魔物の襲撃がある」と告知がされたそうだ。俺が避難しないのかと尋ねると「俺達の町は俺達が守ってみせる」と意気軒昂に徹底抗戦を主張した。それ自体は立派な考えだが、果たして『大氾濫』の前では……。
更に進み、王都付近で見慣れない魔物の襲撃を受けた。巨大で真っ白な体色の蜂型魔物だった。突然上空から素早く急襲してきてかなり手強い魔物だったよ。
そして俺達は目的地であるサンテキア王国王都「サンテキア」に辿り着いた。王都は高い城壁に囲まれ「東門」「西門」「南門」と入り口が三か所存在する。俺達がいるのは南門だ。
「……よし、通っていいぞ」
随分とあっさりした対応だな。それに門番の兵士の顔色がかなり悪いな。恐らく疲労と寝不足によるものだろう。元居た世界でもあんな顔色をしたサラリーマンが沢山いたな……。
王都の中は他の町と比べれば幾分かは落ち着いた雰囲気だった。あくまでも他の町と比較すればだがな。物々しい雰囲気には違いない。
俺達はまず、王都にあるギルド「サンテキア王都本部」にやって来た。ギルドは国境を跨いで組織される世界共通の機関だ。つまり俺のギルドランクは、どこの国でも通用するステータスなのだ。
ここの素材買い取り所で道中倒した魔物を換金しようと、アイテムボックスから魔物の死骸を取り出していた時だった、
「こ、これは『フロストビー』じゃないかっ⁉ アンタ達こいつを何処で?」
例の蜂型魔物を見て買い取り所の職員が慌て始めた。
「王都周辺ですね。この魔物がどうかしたのですか?」
「こいつは北西にある険しい山の山頂にしか生息していない希少な魔物だ。そいつが王都付近に現れるのは異常としか言いようがない」
普段現れない魔物の出現か。それはつまり、
「……『大氾濫』か」
「だろうな。今、国中で対策を講じているが間に合うかどうか……」
カルディオスの町を襲った時も、異変から数日の期間しかなかった。ならば今回も同様の期間と考えておいた方が賢明だな。
買い取りを終えて、今後の事を全員で話し合う。
「恐らく数日後には『大氾濫』が起こる筈だ。そこで俺達はどうするべきか話し合いたい。一旦カルディオスへ戻るか、それともここに留まるかを」
「わたくしはここに留まるべきだと思いますわ。『大氾濫』が起こった際に素早く対処する為に」
「私もプリムラの意見に賛成です、旦那様」
プリムラやマリーを筆頭に、ほとんどの妻がここに留まる意見だ。
「ウチはその『大氾濫』っていうのがよく分からないからご主人君に任せるね」
唯一賛成しなかったのはカトレアだ。彼女は中立と言うか棄権票かな? まあ彼女の知識では判断できないし、今回は良しとしよう。
ではこの国に留まるとする。少し速いが今日は宿を取って休むとしようか。
町の人に宿の場所を聞きその場所に向かうと、
「これは……」
宿の看板には『最高級宿・極楽 サンテキア支店』と書かれていた。この金箔を塗った様な派手な外装……間違いない。王都にある宿とそっくりなのだ。
「いらっしゃいませ~。お泊りですか?」
中に入ると店員が小走りで近付いて来た。どうやらこの男がこの宿の支配人らしい。王都にある宿の支配人とそっくりな外見をしているな。そうこの男に伝えると、
「あそこの支配人は私の兄でございます」
だそうだ。兄弟で宿の経営をしているのか。面白い兄弟だな。
俺はギルドカードを見せ、十一人で宿泊したいと伝えると、
「ランクAの冒険者様ですか! 十一人? 問題ありません。当店の「ゴージャス・スイートルーム」は団体のお客様にも対応しております。その分少々お高くなっておりまして、おひとり様一泊1200G頂戴しております」
それを聞いて俺は無言で金貨十五枚を渡した。少々多く渡したのはチップ代だな。
「ありがとうございます! ではお部屋にご案内いたしますね」
支配人の男に連れられて、最上階にある部屋へと通された。
「こちらが「ゴージャス・スイートルーム」になります。夕飯のお時間はいつ頃にしますか?」
そう問われた俺は、チラッとカトレアの顔を見た。ふむ、いつもより多少早い時間ではあるが、
「すぐに夕飯の支度をお願いします。それと食事の量を多めにお願いしますね」
そう言って俺は新たに金貨一枚を支配人に渡した。
「! 承知しました。すぐに準備いたします。少々お待ちください」
支配人は満面の笑みで部屋を退出していった。これでよし。
「夕飯が来るまでに装備のメンテナンスをしてしまおうか」
明日に備えて、装備に汚れや傷が無いかを点検する。
全員特に問題は無いみたいだな。『洗浄魔法』を使って装備を綺麗にして夕飯を待つ事にした。
「お待たせしました」
夕飯が配膳されて来たのだが、支配人自らとはね……。金払いの良い上客へのアプローチという訳か。
「では、何かありましたらこの「ベル」でお知らせください」
と言い残し支配人は部屋を出て行った。
用意された食事は、どれも美味しそうで特に「魚」があった事に驚きを隠せなかった。
この世界に来てから過ごしているシャムフォリアという国は、海からは離れた位置にあり大きな河川や湖も無い。その為川魚を始め海の幸とも縁が無かった。
見た所この魚は川魚のようだが、それを串に刺して塩焼きにした物だ。
「うむ! 美味いな」
早速串を持って魚にかぶりつくと、ふっくらとした魚の身が口いっぱいに広がる。塩加減も絶妙で幾らでも食せてしましそうだ。それと肉や野菜も美味しかったが何とデザートとしてカットされたフルーツの盛り合わせが用意されていたのだ。
リンゴに似た物やパイナップルに似た物等があり、一つ手に取って食べてみるとどれも甘さが強めの果物だったよ。無論、味は最高だったさ。
夕食の質も量も高く、金貨一枚は奮発し過ぎたか? とも思ったが、これならむしろ安い位だな。
「ん~、どの料理も美味しいね~」
料理を口いっぱいに頬張り幸せそうなカトレアを見ると、俺の選択は間違いじゃなかったと確信出来るな。
夕飯を平らげ、渡されたベルを鳴らしスタッフを呼びだして、食べ終わった食器を下げてもらった。
高級宿という事で、当然風呂は完備されている。俺達に入らないなんて選択肢は存在しない。
「え~っと……こうでいいのかな?」
今は風呂に入り、カトレアに体を洗ってもらっている最中だ。大きな胸がひしゃげる感覚が最高だな。
風呂から上がり、今日は早めに就寝する。夫婦の営みは当然だが今夜は無しだ。万が一に備え体力を温存しなければならない。
そして各自ベッドに入り、ゆっくりと眠りに就いたのだった……。




