第89話 席取り戦争
「キュルー!」
「すごい懐いてるー!」
「なんだか凄いベッタリだね。」
「もしかしたら仲間だと思われてるのかな?」
空間魔法をこの子の前で見せてから、さっきまでの警戒心はどこにいったんだって位に懐かれてしまった。今も僕の肩の上で僕の頬にスリスリと顔を擦り付けているので頭を撫でてやる。すると今度は嬉しそうな声をあげながら手に頭を擦り付けてきた。
昔に空間魔法を開発するために観察し続けた時にはずっと1匹で行動していた。この子以外に他の個体を見た事もないし、群れで行動するという習性はないのだろうな。ただそれにしては懐きすぎな気もするけど。
まあ群れで行動しない理由は色々あるのだろう。数が少なければその分食料は多く取れる。他にも様々な場所に散らばった方が、種を残す確率が高くなるなどもある。他には生存競争の過程で家族を失ってしまったという悲しい理由も考えられる。
まあ理由や過去の出来事などは関係ない。これほど懐いているのは愛情に飢えているのだろう。ならば僕たちが愛情を持って接してやればいいだけの話だ。
「キュキュイ!」
「キュル?」
「キュ! キュキュキュ!」
「キュルル!」
「キュイー!」
「ちょっと2匹とも!」
テンが起こり出し肩にいるこの子もそんなテンに歯向かって言い合いし始めたと思ったら、テンが飛びかかってしまった。
「キュッ!?」
「キュルー!」
だが何もせずにやられる事もなく、思わず見惚れてしまうほどスムーズな空間魔法の発動で緊急回避してみせた。更には急に消えて戸惑っているテンに対し反転攻勢を仕掛けるほどだ。
「キュ!」
「キュルゥ…」
だが身体強化など、他の魔法を使っているわけでもなくあっさりとテンに組み敷かれてしまった。目の前から突進し、直前で相手の後ろに転移し背後を取るという初見殺しのような攻撃は良かったのだがさすがテンと言ったところか。……て今は見惚れてる場合ではない。
「ちょっと2匹とも落ち着くんだ。テンも許してやってはくれないか?僕が取られたと思ったのかもしれないが、肩の上じゃなくても膝の上で撫でてあげるから。」
「キュイー」
「君もだ。どうかテンと仲良くしてやってくれないか?」
「キュルー」
なんとか分かってもらえたようだ。これにて一件落着…か?




