第88話 師匠
「今後はどうするおつもりで?」
「そうだな…呑気に旅とか言ってる場合では無くなってしまったからな。とはいえ現状何か手を打てる訳でも無い。」
「それなら1度東の森の外にあるヒト族の国へと行ってみてはどうですか?」
「どういう事だ?」
「原因を探る術がないとは言え、呪いを見つけたのが森の東の方角ですからそちらを怪しいと見るのが最善かと。更に言えばヒト族が呪いという魔法を扱う可能性がある以上、東にあるヒト族の国はより怪しいと考えます。」
「なるほどな、確かに一理ある。それに当たりを引けなかったとしても情報を得られる可能性はあるか…。」
結局は当初の予定通り、森の外にあるヒト族の国を目指すとするか。目的は最初と違ってしまったけど。
「キュルゥ…」
「あっ!ようやく目覚めた!」
「ちょっとゾン、大きい声だとびっくりさせちゃうでしょ。」
「うっ…ごめん。」
「キュルキュル!?」
目覚めた魔物はこちらの存在に気づいた途端驚きそのまま家の隅まで走って逃げてしまった。
「お腹空いてないかい?この果実をお食べ。」
「キュル?」
僕たちは怖いけど果実は気になるようだ。僕が持ってても近寄りづらいだろうし離れた位置に置いてやる。
「キュル キュルキュル!」
うん、体調は大丈夫そうだな。元気に果実を頬張っている。
「かわいいねー。」
「頬いっぱいに溜め込んでる。」
移動する時は4本脚なのに食事する時は後ろの2本脚で立ち、前脚で果実を抱えて頬張っている姿はゾンとルアを魅了しているようだ。
ルアの言う通りただ噛み砕いて飲み込むんじゃなくて頬に溜め込んで、頬が膨らんでいる姿は確かに可愛いな…ってあれ?なんだか前にもそんな生き物を見た事があるような……
「あ!」
「キュル!?」
「ああごめんよ驚かせてしまって。」
驚いた魔物がまた部屋の隅へと逃げてしまった。
「どうしたのウカノ?」
「完全に忘れていたんだけどこの魔物を以前見たのを思い出したんだ。」
「そうなの?」
「うん。僕が空間魔法を開発できたのもこの魔物のおかげなんだ。」
「「え!?」」
「そうなのですか?」
「ああ、元々この魔物が扱っていた魔法でな。何度も観察する事で僕も開発できたんだ。ただそれも10年ほど前のこと。しかもそれ以降見かけることも無かったから完全に忘れていた。」
「ええすごーい!じゃあこの子はウカノの師匠って事だねー!」
「師匠か。確かにそうかもな。そう思うとこの魔物を今回助けられたのはある意味運命なのかもな。そうだ、折角ならこの魔物に僕の空間魔法を見せてみよう。そらっ。」
「キュルッ!? キュルキュル!? キュル?」
何も無い空間から手のひらに果実を出して見せると驚いたようにこちらに駆け寄ってきて、何度も手のひらを確認し出した。
はははっ、驚いてくれたようで何よりだ。




