第86話 呪い
どうしてこんな場所に呪いが、という疑問は残るがまずは目の前のことだ。その呪いを身に持つモノ。体長は手のひらに乗るくらいの小さい大きさで、体の大きさほどの尻尾が特徴的なソイツは僕たちに背を向けたまま佇んでいた。だが僕の動揺が伝わったのだろう、こちらに気づいて振り向く。
「うわ、こわ!」
「眼が赤い…」
そうか、テンが呪いを使った様子は2人は見たことがないものな。呪いを受けた生き物の、あの常軌を逸した様子は思わず後退りしてしまう。
「ヂュー!」
相手はこちらを血走らせせた眼でこちらを睨みつけながら威嚇してくる。まるで今にもこちらに飛びかかってきそうな勢いだ。
「すまないな、僕らにはどうすることも出来ないんだ。せめて苦しまないよう出来るだけ一瞬であの世に送ってやるからな。テン、頼む。」
「キュイ!」
「ど、どうしたテン?」
いつも僕の言う事には喜んですぐに実行するようなテンが、今回は僕の言葉に首を振って明確に拒否した。
どうしたのかとテンを見ると、テンはまっすぐに相手を見据えている。その眼にはどのように相手が映っているのだろうか。いつになく真剣な表情のテンに何も言えなくなる。
「分かった、テンのやりたいように任せる。」
「キュ!」
一声鳴くと僕の元から離れ相手の元へとゆっくりと近づいていく。
「キュルー!」
近づいてくるテンに威嚇こそすれ逃げない相手。やがて耐えきれなくなったようにテンへと飛びかかる。
「キュ!」
だがテンは魔法を使う事なく相手より2回りほど大きい体で相手を組み敷く。
そのままどうするのかとテンを見守っていると、テンの体内から魔力が膨らんでいく。
基本的に魔力の動きや雰囲気でどんな魔法か分かる。ましてやテンが扱う魔法なら確実に分かるのだが、この魔力の動きは心当たりが…。
いや、確かテンが4尾に進化した時に手にした魔法がこんな魔力の動きだったか?ただ3尾に進化した呪いと同じように物質を傷付けるようなものでもなく、生物に対して使っても特に何も起こらなかった魔法だった。
結局使い道が分からずそれ以降使うこともなかったのだが、ここでそれを使うと言う事は何かテンに策があるのだろうか。
テンの体内から放出された魔力が、テンに組み敷かれた相手の体内へと吸い込まれる。すると相手の体が内から光り周囲を照らす。
「キュルゥゥゥゥゥ!」
だが相手が光り出すと同時に苦しみもがきだした。抑えられながらももがき続ける相手をテンは微動だにしないまま抑え続ける。
やがて光が収まると相手は気絶したのか全く動かなくなった。もう大丈夫だろうと様子を見に近づくと…
「あ…」
「なに!?」
「ウカノどうしたの?大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ。ただ…」
「「どうしたの?」」
「呪いが祓われている。」
「キュ!」
「「どういうこと?」」
僕の言葉に目的を達成出来たと気付いたテンが喜ぶように僕の元へと駆けてきたのでいつものように撫で、労ってやる。
僕自身思いがけぬ出来事に正気を失いながらも、呪いについて2人に説明する。
いったい何が起こったのだろうか……?




