第51話 仇撃ち
集落の長、タージから全身が岩で出来た魔物がこちらに逃げたという情報を元に探しに来ている。ただアイツを見つけるのに時間はかからないだろう。なぜならアイツはご丁寧に自分の痕跡をそこかしこに残しながら移動しているから。
そこらじゅうにアイツが暴れたのであろう痕跡が残されている。おそらく獲物を取れなかった鬱憤を晴らすかのように八つ当たりしたのだろう。
少し調べるか。あいつの体の破片でも残っていれば良いのだが……
「キュイ!」
「おっ、あったか!でかしたぞテン!」
「キュキュキュ!」
テンの頭を撫でてやると気持ちよさに、思わずといった感じで鳴き声が漏れ出す。ずっと撫でてやりたい気持ちを抑え、手で掴める程度の大きさの岩の破片を調べる。
結構軽いな。そこまで密度は高くないのか?これならそこら辺の同じ大きさの岩の方が重いぞ。なら耐久性はそこまでか?
周りにあった岩に身体強化を使って投げる……が傷がついたのは投げられた岩の方でアイツの破片と思われる岩には傷は付かなかった。なるほど、軽いのに頑丈というのはかなり厄介だな。ただ……
「テン、この岩の破片を溶かせるか?」
「キュキュイ! キュー……キュ!」
テンが生み出した酸の玉が岩の破片に触れた瞬間に溶け始める。
「さすがテンだな。これが無理ならあまり使いたくない能力を使うしか無かったが、これなら倒せるな。」
「キュ!」
こちらの攻撃が通りそうな事も確認出来たしアイツの追跡を再開するとしよう。
☆
近くなってきたな。少し前から全く隠す気のない荒ぶれた気配を感じていたが、より近くになってまず間違いないだろうと確信する。
そしてもう少し近づいた所でその姿を確認出来た。体高は3メートルほどだろうか、確かに全身が岩で覆われているな。一目見て不機嫌なのが分かるほど荒ぶっているな。あんなに存在感を表していればそりゃあ周りの生き物は近づかないだろうに。それほど腹が減っているのかもな。
「テン任せた。」
「キュ」
相手に駆け出すと同時に3つの酸の玉を生成するテン。そのまま背後から近づいていき背中に酸の玉をぶつける。
「グルアアアア!」
酸の玉がぶつかった所から溶け始め、ようやく攻撃されたことに気づく。
「グルゥ」
テンを視界に入れ、探していた獲物がようやく見つかったと顔をニヤける。今はまだ自分が狩る側だと思っているのだろう。余裕の表情だな。背中が溶け始めたが、溶ける速度以上に再生される速度のほうが速い。このこともまた、目の前の敵が自分に有効打を加えられないと思わせ、余裕を持たせる一因なのだろう。
そこからは相手も攻撃に移る。聞いていた通り、自慢の体を用いた体当たりをしようとテンへと走る。テンは立体的に逃げるが相手もその見た目とは裏腹な機動力で、急な方向転換もお手のものだ。ただそれでもテンに攻撃が当たることはないのだが。
「グルァ!」
目の前の敵にいつまでも攻撃が当たらないことにイライラし始めた。そしてアイツの周囲に魔力が貯まり始める。そして充分に魔力ご貯まると直径1メートルほどの岩が2つ生成される。
「グルル」
勝ちを確信したのだろう。口元を歪ませテンへとその岩をかなりのスピードで発射する。1つをそのまま直線的に発射するのと同時に視線を隠し2つ目の岩を見えないようにする。そして本命の2つ目の岩を相手の避けた先へと狙う。へえ、意外と頭を使うことが出来るのだな。
「グァッ!?」
だがテンにはそんな攻撃も通用しない。2つ岩が生成されたのを確認しており、1つ目を避けた後も油断せずに2つ目も躱す。
アイツは今までそれで獲物を仕留めてきま必殺の一撃だったのだろう。驚いた様子でテンを見る。そして余裕の表情がみるみるうちに消えていく。自身の攻撃手段が通用しない事を悟ったのだろう。
だが決定打が無いのはこちらも同じだ。テンの攻撃が致命傷とならないのはこちらも同じ事だった。だが今の相手の攻撃で打開方法が分かった。
「テン、相手の足を攻撃しろ!」
「キュ!」
「グルアア!」
酸の玉を相手の右脚に当てバランスを崩す。
「次は顔面だ!」
「キュ!」
「グルアアアアアア!」
「いいぞ、そのまま顔面を集中的に攻撃し続けるんだ!」
やはりな。相手の体が再生してたのは再生する能力があるからではなく、岩を生成する能力で再生させてただけだ。再生する能力なら自動的に回復するのだろうが、自分で生成させる必要があるなら少しでも気が逸れれば回復が遅れるだろう。その予想はやはり当たっていたようだ。
「キュイキュイ!」
「終わったか。お疲れ様テン。今回はかなりタフな相手だったがよくやってくれたな。」
「キュキュイ!」
さて、倒したコイツは食える所があるのか分からないが一応持って帰るとしよう。帰るのは転移を使えば良いから一瞬だ。ゾンとルアは良い子にしていたかな。




