第110話 気遣い
「「「……」」」
部屋の中にしばしの沈黙が訪れる。ウカノとしては当初の目的があり、それを聞くタイミングを窺っていた。ただエルフ族の王と姫である目の前の男女が、話す時に心ここに在らずというようにどこか気が抜けた様子のためウカノから口に出せずにいた。
どうしてかは分かる。分かるがそれは僕がどうこうする話ではない。ただ…不器用な目の前の親のためにも環境は整えてやるか。その後どうするかは本人たち次第だ。
「後ろの男、サハンといったか?」
「サハンは俺の名だがどうした?」
「僕と手合わせしたいんだろ?今から付き合ってやるぞ。」
「ぬ?気づかれてたか。とはいえ今は職務中だ、離れる事はできん。」
「い、いいのよサハン。私たちのことは気にしないでいってらっしゃい。」
「で、ですが姫よ」
「大丈夫よ大丈夫、ここに危険はないでしょ?ですから安心して行ってきなさい。」
「そ、そうですか…ならば何かあった時はすぐにでも駆けて来れるよう準備しておきましょう。」
「マーシャもいってらっしゃい、魔物を私たちよりも身近に感じている方よ。何か学べる事があるかも知れないわ。」
「流石に王と姫だけ残してというのは…」
「サハンもいるから大丈夫よ。あなたもサハンの実力は知っているでしょ?」
「そうですね、要らぬ心配でした。では私もいって参ります。」
「ええ、ぜひ色々と学んでくるといいわ。」
「ウカノ、私たちは?」
「ゾンとルアはここで待ってなさい。まだ2人に対人戦闘は早いからね。」
「「う、うん…」」
「では行こうか。」
☆
「まさか貴殿から誘ってくるとはな。武闘派に見えなかったが実は好戦的なのか?」
「はあ…んな訳ないでしょ、アンタは脳みそまで筋肉で出来てるのかしら?ウカノさんの気遣いに決まってるでしょ。」
「な、なんだと!ウカノ殿から手合わせに誘ってきたのだぞ!それがなぜ俺の悪口につながる!」
「だーかーら!そのままの意味で受け取ってるからアンタはバカなのよ。あんなのどう考えても王と姫、そしてゾン君とルアちゃんだけで話せる環境を作るための口実に過ぎないでしょ。そうよねウカノさん?」
「まあそうだな。」
「やっぱりね。ウカノさんはサハンと違って気遣いの出来る男なのね。」
「なんだと!俺だって気遣いくらい出来るさ!」
「普段から戦闘訓練にしか興味のない男が何言ってるのよ。でもいいのウカノさん?あなたにとってゾン君とルアちゃんは大切な子なのでしょう?それはあの子たちのウカノさんに懐いてる様子を見たら否が応でも分かるわ。でももしかしたらあなた達が離れ離れになる可能性もあるのよ?」
「もしそうなるのだとしたらそれは2人が選んだ結果だ。どうなろうと僕は2人の未来を縛る事はしない。長い人生出逢いがあれば別れもある。それは僕よりもアンタらの方が理解っているだろう?」
「あなた…嫌になるくらいいいヒトなのね。ヒト族なんて自分の欲に忠実な種族だと思っていたわ。」
「それは案外間違っていないかもな、僕だって自分の欲に忠実さ。僕にとってゾンとルアが幸せな事が僕の幸せだからな、より幸せな道が僕と離れる事なら喜んでその未来を受け入れるさ。それに僕は孤独じゃないしな。」
「あら、伴侶でもいるのかしら?」
「キュイキュイ!」
「キュ!? キュルキュル!」
「ふふふっ、そうだったわね。ウカノさんには随分と可愛らしい相棒がいたのだったわね」




