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私の好きな一輪の花

作者: 杜神

(あかなし)(しの)の短編シリーズです。今回は童話風の微笑ましいエピソード系で書き上げてみました。お楽しみ下さい。

小説 私の好きな一輪の花



私にはお気に入りの花があった。

その花は別に大きなものでもなく、一般的に美しいと言うものでもなかった。

しかし、私にとっては大好きな一輪だった。

この丘は私のお気に入りの一つだった。

一面の草原、もう少しすれば羊や牛の放牧も始まるだろう。

そんな中で草の中に紛れて力強く咲くその花に私は目が行ったのだ。

そう、自然の中では生き続けるのは競争だ。油断をすれば自分の立場は失いかねない。

たまたま学者として自然科学を学んでいた私は自然の驚異を学ぶ内に目の当たりにしていた。

「やはり、いいな。君は素敵だよ。」

私は何時もの様にそう語っていた。

何時しかそう、彼女にそう語るのが癖になっていた。

彼女?いや、正確には女性じゃないのかも知れないが、私がそう勝手に決めてそう語りかけていたのだ。

「今日はどんな感じかな?」

何時もの様に問い尋ねる。もちろん、彼女は人の言葉で返事はしない。

しかし、彼女なりの返事をしている様に私は感じていた。

そんな姿を見ながら私は微笑んでいた。



雨が降るある日、私は何時もの様に丘に行っていた。

何時もの様にあの子を探す。

が、何時もの場所に彼女は居なかった。

まさか?もう、花が落ちたのか?そんなはずは・・・

何時もの花がある場所をよく見るが花どころか葉や茎すら見当たらなかった。

おかしい、何時も姿形を覚えているあの花を私が見落とすはずはない。

そう思って私は辺りを見渡していた。

しかし、その花は見つからない。茎や葉でさえも。

「どうしたというんだ?周囲に荒らされた様子もないし・・・」

わたしはそう言っていた。暫く、呆然とそこに佇んでいた。

雨がしたたかに差している傘に当たる音で私はふと我に返った。

何故居なくなったのか?しかし、私如きが幾ら考えても結論は導き出せなかった。

暫く悩んだが仕方なく家に帰ることにした。



家に着き、身体的というよりも精神的に疲れて溜息を一つ吐きながら椅子に腰を掛けた。

「楽しみがまた減ってしまうな。」

そう、私はぼやいていた。そんな時、家のドアをノックする音が聞こえてきた。

「は~い。どちら様?」

私はそう答えつつ玄関に向かっていた。扉の向こうからはか細い声でこう言うのが聞こえた。

「あの・・・すみません。不躾な質問なのですが、そこの丘で何時も植物とかを御覧になる学者様がこちらに在宅されてると伺ったのですが・・・。」

そう聞いて私はすぐに扉を開けた。そして答えて言う。

「ええ、私がその学者ですが・・・。」

そう言いつつ、先ほどの声の主を探したが自分の目線には姿が見えなかった。下に目線を下ろすと可愛い少女がそこには立っていた。

「え?!こんな所に子供さんが?」

私はついそう言っていた。ここは人里はなれた一軒家で私が研究とのんびり過ごす生活環境のために建てた小さな我が家であった。

近隣の村に行くだけでも歩けば一時は軽く掛かるだろう。そんな場所に小さな子供がしかも一人で来るとは考えにくかったからだ。

「あ、お初にお目に掛かります。」

そう言って少女は丁寧にお辞儀をした。釣られて私もお辞儀をする。そして少女は続けてこう言った。

「私は、シェルフェイラウノーシュミネと申します。人の言葉では長ったらしくなるのでシェミネとでもお呼び下さいませ。」

そう律儀に自己紹介をしてきた。私もそう言われるとこちらも言わねば為るまいと思い言った。

「わざわざ有難う御座います。私はルードヴィッヒ=レウンハウゼン。しがない貧乏学者ですよ。」

ふとそう言いつつ、疑問に思った。人の言葉では・・・?どう言う事だろうか。

しかし彼女は、私を見ながら微笑んで見ていた。その姿を見ると非常に安らぐものを感じていた。

「おっと、雨が降る中こんな玄関で立ち話もなんですね。良ければ、中へどうぞ。暖炉もありますし少しは温まれますよ。」

そう言って、私は彼女を中へと促した。彼女は恐縮そうにおずおずと中に入っていく。

彼女は中に入るなり周囲を見渡しながら感嘆していた。

「沢山の本ですね。」

彼女はそう言う。私は少し恥ずかしい気持ちに為りながら答えて言った。

「そうですね。色々読んで学んではいるのですが、これが中々・・・。自分が探求したい答えが見出せずに居るのですよ。」

「大変なお仕事ですね。素晴らしいと思います。」

彼女はそう言った。嬉しくなり、私は答えて言う。

「有難う御座います。学問は今すぐと役立つものではないかもしれませんが必ず、今生きている、そして今から生きるもの達全てに役に立てる、また訴えれるものだと信じてやってきています。この事は私の生涯やり遂げて行きたい事柄ですね。」

そう言いながら私は彼女に座るように促した。彼女が座るのを確認してから言う。

「お嬢さんは、どうして、そしてどのようにしてこちらに来られたのですか?」

私がそう質問するとシェミネは少し黙り込んだまま俯いていた。

暫くの間沈黙が続く。しかし私はあえて答えを急かさずにゆっくりと答えるのを待っていた。そんな中、彼女がおずおずと声を出して語り始める。

「きつく問い尋ねられないのですね・・・。急に来訪してお邪魔しているのに・・・。」

後ろめたく言う彼女を見て私は可愛いと思っていた。私が答えて言う。

「どうしてそうしなければ為らないのでしょうか。あくまであなたが私を尋ねて来られただけではないですか?で、あれば、何故そんなに尋問する必要があるでしょう。あなたが話したいと思われたらで構わないんですよ。」

出来るだけ、きつい言い回しに為らない様に気を使いながら私はそう言った。答えて貰いたいのにきつく言うなんて私には出来ない。私だってそんな言い方をされたら反抗はするものだ。

シェミネはゆっくりと話し始めた。

「私は、何時もあなたが御覧になっていた花です。」

そう言われて私は暫く何も返答が出来なかった。



部屋の中には男が一人。もちろん私である。そして可愛い少女が一人。シェミネといい、私に会いに来た少女であった。

しかし、驚くべきことに彼女は何時も自分が会いに行っていた「花」だと言っているのだ。

「えっと・・・。すまない。しがない自然学者に過ぎない私としてはこの状況は理解できないのだが・・・。」

私が苦笑しつつ言うとシェミネは同じように苦笑しながら答えた。

「無理もありませんよね。いきなり押しかけてきて、身動きも出来ない姿の筈の花だって宣言されても・・・。」

いや、まあそれはそうなのだが・・・。でも、何と無く、感覚では分かるのが不思議だ。そう、彼女と居るときはあの花と居るときと同じなのだ。

そう、微笑ましく、幸せで、ずっと浸っていたい感覚に。

「シェミネ。君の言いたい事は分かったので、次は私が理解できるように説明してもらってもいいだろうか?つまり、どうして、君がここに来るように、また来れるようになったかを。」

私はシェミネにそう問い尋ねていた。そう、何故来たのかは大体推察できる。私も愛情を注いできた花だからだ。逆を言えばそれくらい分からずに人をやっていると恥ずかしいと思わねば・・・。私はそう思っていた。しかし、どうしてそう言う経緯に為ったのか。それは分からないが故に知りたいと思ったのだ。シェミネは静かに私に語り始めた。

「はい。順を追ってお話します。何時もルードヴィッヒ様が私に愛情を示して下さり私は嬉しく思っていました。そのうちに私には私として出来る以上の事をあなたにしてあげたいと思うように為ったのです。もちろんこれは私の我侭なのですがその思いが非常に強くなり強く願っているときに、精霊王が私の願いを聞いて下さって一つの身体を私に与えて下さったのです。そうして私は以前の身体は失いましたがこうやってあなたの元にいるのです。」

なるほど・・・大体は話が飲めた。しかし、精霊王だと・・・。魔術分野の話は詳しくは無いがかなり高位の存在じゃないか・・・。そんな方からの好意って・・・。しかしちょっと待て。

「ちょっといいかなシェミネ。」

私はそう尋ねた。シェミネは答えて言う。

「あ、はい。何でしょうか?」

「単刀直入に言うが。元の身体を失ってるわけだから、ここに来て、私が動揺して私が君を受け入れなかった時はどうするつもりだったのかい?」

私が、もしあるかもしれない選択肢について言った。もちろん、可能性は低いであろうが。シェミネは俯きながら答えて言う。

「そうなれば・・・悲しい事ですが人の形として枯れ果てるだけです。」

な・・・。そこまでの覚悟でここに来たと言うのか。私は呆れつつ言う。

「シェミネ、どうして私にそこまでする事がある。私はしがないただの貧乏学者だ。大した力がある訳でもない。大した事が出来る訳でもない。」

私がそう言うとシェミネは私にしっかりと向いてこう言った。

「そんな事は御座いません。ルードヴィッヒ様は私に絶え間ない愛情を下さいました。そう、あなただけがあの戦いの場で私に対して深い愛情を下さったのです。私は力を得て励まされそして生き続ける事が出来たのです。どんなに嬉しかったことか・・・。ですから、私はそれを分かる形でお返ししたかったのと、私自身があなたに直接分かり合えるように為りたくてこのような形でお邪魔しているのです。」

そう言いつつ、シェミネは涙を流していた。その涙は美しく宝石のように煌いて見えた。もちろん私のシェミネに対する愛情故に偏見もあるだろうが、美しかったのだ。

「そうか・・・シェミネの言いたい事は分かったよ。で、どうしたいのかな?」

そう言って私たちは今後について話し始めた。



小高い丘の近くには小さな一軒家がある。そこには自然学者と名乗る一人の老人と美しい女性がいると言う。しかも、人々が言うにはそこには美しい光景が見れると言うのだ。

ある人が言うには美しい情愛が。ある人が言うには愛おしい親子の愛情が。ある人が言うには人を超えた愛情が見えると。

私に言わせればそれは全てが正しいと言うだろう。そう、どれも間違えては居ない。

見る者、感じる者によってその表現は異なるからだ。

しかし、私とシェミネの関係は変わらない。互いを愛し気遣い合う関係は。終わりまで続くだろう。そう、お互いに決めたその時から。

「ルードヴィッヒ様。お茶の用意が出来ました。」

シェミネがそう言う。私は陽光を浴びる為に座っていた椅子から起き上がりつつ言った。

「有難う、シェミネ。お茶が済んだらまた二人で丘に行こうか。」

「はい。」

シェミネはそう笑顔で答えていた。

私は最期まで、彼女と共に歩もう。そして彼女に私に示してくれた愛情を返せるだけ返そう。お互いに。お互いに。



丘では今日も様々な生き物が戦いを繰り広げていた。別に丘だけではない、生き物が居る場所ではどこでも。

しかし、彼らが愛情を欲している事については知る者はあまり居ない。

今日も陽光が注ぎ、風が吹き、辺りは春の陽気に包まれていた。

そんな中、二人の姿は美しく景色を彩っているのだった。

如何でしたでしょうか?宜しければご感想などいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう、綺麗な話は良いですねぇ~。ほのぼのとした気分にさせてくれます。それにしても・・・・。私も今度、花に話しかけようかな?(笑) [一言] どうも、久方ぶりです。 私も綺麗な話を書こう…
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