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だいぶんと投稿が遅れてしまいました。急いで書いたものなので後で細かい修正は入れる予定です。
落ち込んでいてもしょうがない、と気持ちの切り替えができたかと聞かれればできなかった方が強い。ただそれでもどうしようもないことは理解できた。他の三人と比べてやや劣るかもしれないそれも、どこかで使い道があるかもしれないからだ。
「お、ウォルシュー! すっげぇ時間かかってたけどなんかあったのか?」
アイガーに感謝の言葉を述べ、部屋を出てすぐのところで向こうから歩いてくるジョシュアと目が合う。
どうやら俺の時にだけ相当時間がかかっていたことを心配して迎えに来ていたようだった。その後ろにはニーナとムトも立っている。
「んな、アルベルト様と話してただけじゃないかのってワシも言ったんじゃがな」
「残念ながらそんなんじゃないよ。ほら、なんかこんなのになっちゃって」
俺はそう言いながら手の甲を三人へ差し出す。
「うわ、なんだそりゃ。蛇が巻き付いてるぞ」
ジョシュアはそう言いながら俺の手を掴んでまじまじと見つめる。傍から他の二人も覗き込んできた。
「んな、ほんとじゃ。ワシらのとは違うの」
「魔法紋は魔術文字の畜産系のものに近い気がするわね。アイガーさんはなんて?」
三者三様の反応をしながら、教会に戻る道で俺は三人へ自分の経緯を話す。制約であること、不殺と対人強化がなされていること、そして魔法紋との相性が最悪であること、ソレらを赤裸々に語った。
「んな、まあ気負いせずともええじゃろ。魔法紋が才能を伸ばすものなんじゃったら、ソレをブーストさせるのがその制約ってヤツなんじゃろ? てことはニーナの魔法紋とそれほど変わらぬよ。あれも魔術文字を理解せにゃならんって点じゃあウォルシュの言っとる制約となんら変わりゃあせん」
ムトはそう言いながら俺の肩をポンと叩く。
「それに、ウォルシュ。その魔法紋がどう作用するかじゃない? まずは何ができるか知るためにもその関係の魔法を知ることから始めないと。って言うわけなんだけど、畜産の魔術文字で言ったら……」
ニーナがまた長くなりそうだと思ったムトによってその口が塞がれる。
「まあ、なんとかなるんじゃねーの? 俺も一点特化でめちゃくちゃ強いの欲しかったぜ……万能って何やればいいかわかんねぇ」
頭を掻きながらジョシュアは悩ましそうに地面を見やった。ムトがどうかはわからないが、ニーナも魔術文字に深く傾倒していなかったら俺と同じような悩みを抱えていたかもしれなく、ジョシュアもある意味では俺と同じように自分の魔法紋で悩んでいる、励ましかも知れなかったがその事実に少し安心感を覚えた。
「んな、そんなことより早く教会で色々やってくるんじゃよ。四人揃わんとそこから先の手続きに入れぬのじゃ」
「あ! そうだ。ウォルシュ呼びにきた理由はそれだった! 早くしてくれよー! 俺めっちゃ待ってるんだからな」
ジョシュアがそう言いながら俺の背中をぐいぐいと押す。後ろでニーナが「ムトの方が待ってるのに、なんでアンタがそんなこと言ってるのよ」と呆れていた。
最初に訪れた教会の中は、その時と比べると明らかに人の量が増えていた。ムトが言うにはここの開放時間より前に俺たちが着いたからここには人がいなかったらしい。ちょうどニーナが終わるタイミングで教会は開いたそうだ。
燭台には明かりが灯され、きた時とは違い話し声やそれらも相まって人を迎える暖かさがそこには充満していた。その中で一人、俺たちと目があった神父がこちらに近づいてくる。
「ウォルシュさん、ですね。手のひらには……ちゃんと魔法紋もついてますね。転写紙にその魔法紋と……おっと、制約もうつさせていただきますのでこちらに手をかざしていただいても良いですか? 魔力印紙と同じ要領で行えば大丈夫ですので」
神父は手に持っていた分厚い本を開く。そこには三つの魔法紋が既に刻まれており、手をかざして魔力を込めるとその横にもう一つ、俺の手の甲と同じ、それでいて俺のものだけ周りの紋様も含めて印されていた。
「はい、ありがとうございます。では皆様はこれから先、イルカの住人として受け入れられました。住居に関してはアルベルト様が準備なさっておりますので、まずは先に所属の方から決めていただきますでしょうか」
神父はそう言い、職業案内所への道順を示した。どうやらこの教会は王都中心部の城以外にも様々な場所と繋がっているらしく、屋根から出ることなく職業案内所兼イルカのギルドへと四人で赴くこととなった。
都会とはどう言うものなのか、という実感はこれまで馬車の中、そして教会の前でしか見てこなかった俺たちにとって、その喧騒はまるで雷雨の中に居るような感覚にさせられる。ギルドというものは様々な設備を内包した大きな建物のことで、つまりそこにはこれからクエストに行く者や採集したアイテムの鑑定に来た者、そこで売っている物を買おうとしに来た者など多岐にわたって大量の人々が常に代わる代わる居ることになる。
「私、これに慣れるまでに五回は吐くかも」
そうつぶやくニーナには同意しか出来なかった。
そんな人混みの中、目的の職業案内所へとたどり着く。既に何人か並んでいる人々の後ろの列に並ぼうとしたジョシュアに対して、ムトが襟を引っ張って違う方を指差した。
「んな、我々はあっちじゃよ」
そう言って指差す先には、扉の向こうから覗き込むようにしてこちらに向かって手招きする女性が立っている。口が「はやく」と動いているのを見て、俺たちは急いでそちらへと向かった。
全員が入り終えたことを確認して、呼びかけていた女性は扉に「現在休憩中」と看板をかける。
「祝福の子さんたちですね。ムト、ニーナ、ウォルシュ、ジョシュア、はい四人全員揃っていることを確認させていただきました。魔法紋に関してもこちらに届いております。それでですね……」
そう言いながら女性は多くて数枚、俺には一枚の紙を渡してきた。
「それがあなたがたがこれから就くことのできる職業のリストになってます。気になったところに行って見学するもよし、今日このまま突撃するもよし、ジョシュアさんなんかは様々な冒険者チームの方からお声がけがかかっているので、そっちの方がいいかも知れません。あとはご自由にしていただいて、特にアポイントは取らずとも、そこに載っている方々なら喜んで受け入れてくださいますよ」
受付の女性は忙しいのだろうか、そう言うとカウンターに呼び鈴のような物を置いて奥へと引っ込んでしまった。ソレを押そうとするジョシュアをニーナが襟を掴んでおさえながら言う。
「魔術文字研究所かなぁ、私は。ジョシュアはどう?」
「じゃあ俺はちょっと冒険者チーム見てくるわ。ギルドで何組か待ってるっぽいし」
俺もどこにしようかと紙に目を通す。いくつかの候補は上がったものの、どこに行くべきかとんと見当がつかないまま時間だけが過ぎ去っていった。既にニーナもジョシュアもそこから居なくなっており、ムトだけが緩やかに俺の決定を待っている。
「んな、悩んどるんか? それならワシの見学についてきてくれんかね。一人じゃと寂しゅうて寂しゅうて」
そんな俺に助け舟を出すようにムトが肩を叩いてきた。そうしながらムトは持っていた紙の一つを指差している。そこにはアビゲイル警ら隊と書かれており、ちょうど俺の考えていたリストの中にあるものと同じものだった。
「ん、そうだね。じゃあ着いて行こうかな。俺のにもその名前あるし」
「んな、じゃあ一緒に行こうかね。ただしワシもウォルシュも、合わなかったら入る、合ったら入らん、そのつもりでやるんじゃよ」
職業案内所から出、ギルドの喧騒の中でムトはそう言って歩き出した。あくまでも自分がこれからやりたいことを見つける、そういうつもりだろうことはひしひしと伝わってきていた。
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