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背面天井側にある煙避けか何かだと思っていた壁、そこが更に棚になっており、調理器具はそこに並んでいた。浅い料理鍋と深い寸胴鍋が二つずつ、調理器具も様々なものがそこには置かれていた。奥には保存のきく調味料も置かれており、至れり尽くせりと言わんばかりである。
そこから浅い料理鍋を取り出して、コンロの上に置く。
「バターバター……っと」
調理器具が並んでいた棚の下、ちょうど前に立つと向こうの壁にムトが眠っているところが見えるような場所に置かれた今回使う食材たちの中から、バターを一つ取り出す。一応ムトとの共有であり、自分たちで後々補充していかなければならないことを鑑みて切り出す量は少なめにしておいた。
というかムトはいつまで眠っているんだ。俺の目が覚めてからもうすでにしばらくの時間が経過しており、相当なまでの物音はたてているはずにもかかわらず起きる気配は全くない。寝返りは時折うってはいるものの、それで起きたかと思ってムトの方を向くと全く変わらない安心した顔でよだれをたらしている。
コンロに手をかざし、中心部に火を灯す。灰が積もる中心にろうそくの先端のように灯ったそれは、昨日の要領で魔力をさらに送り込むことで火力が増していった。
料理鍋をそこに乗せ、バターをひとかけらそこに落とす。じわじわと熱された料理鍋の上で全体に広がるようにバターを溶かしていくと、部屋中に良いバターの匂いがふわりと広がった。背後でムトの動きが少し活発になったような気がするが、においに反応しただけでどうせまだ起きていないのだろう。
料理鍋にバターが十分に塗り広げられたことを確認すると、そこへ卵を二つ、薄切りにした塩漬け肉を二枚並べ、それをはさむようにして落とした。ジウジウと卵は白身から固まっていき、塩漬け肉にもある程度火が通ったら食器へとそれらをうつした。肉から溶け出した脂とバターをしみこませるようにパンを二枚敷く。片面がほとんどの脂とバターを吸いきったことを確認して、もう片面には焼き色がつく程度に軽く焼いた。
窓は開けておいたにもかかわらず、部屋の中は朝食のにおいが充満していた。
「幸せの香りだ……」
できたものを机の方に運びながら一人つぶやく。窓の外から入ってくる外の爽やかな空気と相まって、素晴らしい寝起きになったのではないかと思えるほどだ。もちろん今の時間は昼であり、すでに外は活気のある声と人の歩く音であふれているのだが、それは気にしない。
「んな、今はもう昼か?」
「そうだよ。軽く朝食……っていうか昼食? 作ったけど食べる?」
「んな、食べる。その前にワシ、水浴びをして服を着替えたいんじゃがどこかそれが出来る場所は知らんか」
「知らないなぁ。俺も確かに水浴びはしたいから後で場所を探しにでも行こうか」
目をこすりながらムトはベッドから降りる。普段はあまりそういった顔を見せないのだが、一応ムトも俺より年上とはいえ十三であることを思い出させるような緩慢な、それでいて大きな体をよたよたと動かしながら椅子に座った。
「んな、そうするか。いただきます」
未だに半覚醒状態にあるのだろう。牙が見えるほどに開いた口からは少しまだよだれが垂れていた。
食事がおおよそ終わるころだろうか。ムトも覚醒状態にまで戻ってきており、その短い体毛に寝ぐせはあるもののいつも通り落ち着いた雰囲気に戻っていた。
「んな、今日は何をするんじゃろうな。一応駐屯地の方に顔は出さないといけないんじゃろ?」
「そうだね。夜に警らをしたりはするかもしれないけど、そういえば警ら隊の人って昼間に何してるか聞いたことある?」
「んな、ワシは聞いたことないな。昨日ウィリアムズもいっとったことじゃし、何か仕事があったとてまぁ後回しでもいいじゃろ」
食器類をキッチンですすぎながら、ムトは天井をみあげて一人考えを言ってくる。その後も色々と考えはしてみたが、結局まとまらずに体を洗い流しつつ考えるということになった。
体を洗い流す場所が外にあるかと探しに行こうという結論に至り、俺もムトも屋敷に住んでいた頃の癖のままクローゼットを間違えて開けてしまった。外に出るためにまずは今の服を着替えようという当然の結論に至ったからだ。
結論から言えばその行動は間違いではなかった。衣服自体はそこにあったからだ。ただしかし、俺の方だけはその先にあるものが違った用途を持っていた。
まずムトの方には二人分の衣類がある程度積まれてあった。屋敷で着ていたフォーマルなものとカジュアルなもの、そして今着ている動きやすい薄手の服の三種類がそれぞれ何着かそこには仕舞われている。
食料品といい至れり尽くせりだとムトと笑い合ったが、よくよく考えてみればアルベルト伯爵にとってこの程度は常識なのかもしれない。伯爵、という爵位の凄さはあまり把握できていないが、あの屋敷にあの生活……と言っても俺たちは贅沢をさせてはもらえなかったが、その生活の端々には豪奢な装飾品があり、来賓の人々の服装はたしかに高級そうなモノばかりだったように思える。
そんなわけで自分達の衣類に関しての心配はなくなり、俺の開いたクローゼットだと思っていたそこに俺とムトの興味は行く。
その先は全面が磨かれた四角い石をモルタルで固めた上で整形したような造りになっており、壁には一つ金属でできたような突起が付けられている小さな部屋だった。はめ殺しではあるものの上部には小さく窓が取り付けられており、陽の光が中に差し込んできている。
「んな、なんじゃここは」
「さぁ……あてがわれたところだし、鍵も付いてなかったらそんなに変な部屋では無いと思うけど」
二人で中に入り、壁をペタペタと触る。石材は磨き上げられており、その色とは裏腹に全てがとっかかりなくつるりと撫で上げられるようなものだった。
ムトがそんな中で「んな、なんじゃろ、これ」と言いながら壁につけられていた突起を触る。それはコックのように簡単にひねることができるらしく、ムトはそれを掴んでぐいっと捻った。
その時、天井から水が降り注いできた。雨漏りするような隙間もなければ、むしろ天井から生成されているような錯覚さえ覚えるほどだ。しかもその水は体温かそれ以上に熱されており、服に染み込んでは体表を蒸すように包み込む不快感を味あわせてきた。
「んなっ!?」「おわっ!?」
突然降りかかった湯の雨に俺とムトは驚き一度その空間から退散する。ムトが突起から手を離すとひねられたそれはゆっくりと元に戻り、それに合わせるかのようにして天井から降り注ぐ温水の雨も止まった。
板張りの床に俺とムトの体表から滴り落ちた水が染み込んでゆく。
「なんだったんだ……」
その一室の前でしばらくフリーズしていた俺とムトは、しかし逡巡の後同じ結論に至った。
「なぁ、これって水浴びのために井戸を探す必要がないってことなのかな」
「んな、まぁワシらが使う部屋で、鍵もかかっとらんってことはそういうことじゃろうな」
屋敷にいた頃は汗を流すためには外の井戸で水を浴びなければならなかった。冷え切ったそれは正直あまり大量に浴びたいものではなく、俺、ムト、ジョシュアは各々どれだけ早く洗い流せるかの効率化をおこなっていたほどだ。
ムトに至っては体毛の全てに砂が絡むような日を嫌い、その日は水浴びをしたく無いがためにわざわざ自室で自習を延々と行っていたほどである。それが温水で、しかも水を汲み上げずとも行えるモノだとわかった今、顔を見合わせずとも分かるほどにムトの頬が迫り上がっていることを感じる。
「んな、ワシ、正直この先ちゃんと生きていけるか不安じゃったんじゃよ。もちろんウォルシュにもあるようなそれと同じやつなんじゃが、ワシの年もあるじゃろ? ニーナもジョシュアも年下じゃからな。少し背負いすぎとった気がしとったんじゃよ」
自らの服を脱ぎ捨てながらムトは喜ぶ声で続ける。
「ただ、これがあるならワシ、頑張れる気がする」
服を全て脱いだムトは、そう言いながらその一室の中に入って俺に手招きする。
「はよせんかい。体冷えるじゃろ」
言葉に甘えるように、俺も一緒に温水の雨を浴びることとした。
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