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2-3

「理由は、って広く聞かれると難しいか。君たちがアビゲイル警ら隊の即戦力としてギリギリ足りえる存在になるために一番最初に理解すべきこと、と言い換えた方が良いかもしれないね」


「うーん……」「んな……」


 二人して腕組みをしながら悩むも、全く思い浮かばない。俺もムトも全く違う魔法紋を持っているにもかかわらず同じ理由でこの原理を説明された。例えば俺にウィリアムズがやったような方法で魔力を注入することは何かに仕えるかもしれない。


 対人で肥育に関する魔法なんてどのようなタイミングでどのような用途として用いるのか全く分からないが、例えば魔力を相手の体に流し込んでそれを脂肪として変換できる、なんて使い道ができるだろう。


 ただ、じゃあムトに同じ説明をした理由が分からない。ムトのそれは鷹の目(イーグルアイ)に近いものであり、他人に魔力を注入するようなものというよりも自己を強化する類のものだ。


「うんうん。ここで僕が予言をしてあげよう。二人とも、自分の持っている魔法紋と教えられたことの組み合わせかたは思いついている。違うかい?」


「そうですね……。千里眼になることとさっきのがどうつながるのかさっぱりで」


「んな、ワシはむしろ体内での魔力操作が肥育魔法にどうつながるのかを悩んどったんじゃよ」


 俺たち二人は顔を見合わせる。どちらもがどちらもの目を「そんなことは簡単な事じゃないか」という目で見ていた。その様子にウィリアムズはこらえきれなくなったのか、思わず吹き出して笑う。


「んな、失礼じゃよ。答えを知っている立場の人間が問題について悩んでいる生徒を笑うでない」


「いや、ごめんごめん。そうだよね。説明するから許して。まず一つ。教えた理由は個々人が思いついた通りだ。あのやり方は応用魔法のさらに発展形で、基礎魔法とそれを応用する力を持った人物がそれをどう使っていくかを知るための方法なんだよ。さっきの風魔法も手のひらにさらに魔力を移動させて魔法の威力を増大させたんだ。ウォルシュ、君の足に僕が魔力を送り込んだようにね」


 さっきかけられた動かなくなった足もそれの応用だという訳であるということだ。ムトはそれに対して「そんなことは分かりきっている」といわんばかりの顔でウィリアムズを睨んでいる。……俺はあまり分かっていなかったが、それは顔に出さないようにした。


「んな、つまりワシの目に魔力を流せばそんな感じのことが出来るんじゃろ? でもウォルシュは肥育……まあ多分誰かを太らせる魔法なんじゃよ。そんな概念的で他人任せな具現化なんぞできるもんか?」


「むしろ俺は自分の中の魔力を目に移動させるなんて方が全く思い浮かばなかったよ。なんというか、全身どこだろうと魔力が均されていない状態が分からない」


「じゃあ二人は自分がなんでそう思ったか、分かるかい?」


 もう使う機会は終わったのだろう。ウィリアムズはデク人形たちを片付けながらこちらに問うてくる。そしてシンキングタイムを設けるようにデク人形を倉庫へとゆっくり運んでいった。


「ムト……どう思う? 俺は全く分からなくてお手上げなんだけど」


 両手をばんざいのように挙げて俺は大げさにお手上げのジェスチャーをする。ムトはそれにハイタッチをしながら考え込んでいた。


「んな、ワシもさっぱり分からん。全く同じ考えが思い浮かぶ人なんでおらんのじゃから、これが普通だと思うんじゃがな」


 俺とムトが向かい合って万歳をし両方の手のひらを合わせる。その不思議な光景に戻ってきたウィリアムズはぎょっとした顔を見せた。


「なん……あの、新興宗教の類ならよそでやった方がいいよ。一応イルカにも宗教はあるからね」


「んな、違うんじゃよウィリアムズ。ワシらの励ましの儀式じゃ。お手上げした奴にこうやってみんなで元気を昔から分けてたんじゃよ」


 そう言いながらムトは合わせている俺の手をそのまま繋いで下ろす。


「んな、まぁでも考えられるとしたらこれじゃよな。そうじゃなければウィリアムズがワシらに言う必要が無いんじゃ」


 俺の手の甲をじっと見つめながらムトはつぶやくように言う。そのまま考え込むように俺の腕を無理な方向へと引っ張り出したので繋いでいた手を戻してムトの見やすいように掲げた。


「んな、そういえば」


 何かを思い立ったかのようにムトは俺の手を離す。


「ワシ、こんなデカい、まぁ言ってしまえば太っとる図体じゃからな。元々運動能力は見りゃ分かる通り低いんじゃ。動くこと自体あんまりじゃしの。身体強化魔法の存在は知っとったが、なんで使う気も無かったそれが一番最初にそれが思いついたんじゃろ」


「そう、それが正解。君たちの中には魔法紋を刻印された時点で深層心理に常識としてそれをどう活用すべきか刷り込まれているんだよ」


 これが二つ目の理由でもある、そうウィリアムズは言う。


「つまり一番上達が早いものだ。もちろんこれだけを極めるだけだったら警ら隊としての任務はこなせないから、他にも剣術も応用魔法も順を追って覚えてもらうんだけどね」


「ちょっと待ってください。そんな刷り込まれてるほどなんて、別に俺変な事アイガーさんにはされてないですよ」


 ワシもじゃよ、と覆いかぶさるようにムトも後ろから同意する。


「アイガー、という人物が多分刺青師だって前提で話を進めるけど、じゃあ君たちはなぜそんなにすぐに自分の魔法紋とさっき見せたそれをすぐさま組み合わせたんだい? 僕は見せてこれが最初に覚えるべきものだとしか言っていない。魔法紋じゃなくても警ら隊なら足腰の強化だったり、すこし突飛な発想だったとしてもその魔力で悪漢の重心をぐらつかせて鹵獲する、なんてことが思いついても良いはずだ」


「言われてみればそうですね……。最初に思い浮かんだのは確かに魔法紋との組み合わせでした」


「んな、つまりこれはあれじゃな。ワシらはこの思いついた通りのことを練習すりゃ一応の即戦力にはなるんじゃな」


「そういうこと。ってなわけで、アビゲイルが帰ってくるまでまだまだ時間がありそうだから一人ひとりもう少し詳しく思い浮かんだことを教えてくれないかな? そこから上手くどう使えば実践で使えそうなものになるのか考えていこう」


 ウィリアムズは先ほどカードゲームをしていたうちの一人を呼び、ムトの方にあてがった。俺たちほどではないかその体躯は細くしなやかと表現するのが的確なほどに絞られていた。


「身体強化魔法が得意なラッドだ。ムトは彼に教わってもらっても良いかな?」


 言われるがままラッドとムトは挨拶を交わしてそのまま二人で先ほどまでの部屋へと戻っていった。


「じゃ、ウォルシュ。ここから先は君の勘違いを少し直していくところから始めようか」


 一言目からウィリアムズは不安な言葉を発してきていた。

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