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エッセイ集  作者: 山木 拓
3/3

仕事をしていて「あああああああああ!」ってなる一日の流れ


 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、本当に、マジで関係ありません。


 私は、朝の出勤の際憂鬱な気分に対抗する方法を編み出した。それは、あえて仕事の事を考えるという手法である。朝電車に乗りながら『今日終わらせたい作業』と『時間のかかる作業』と『今日上司や取引先に確認・質問する項目』を携帯電話のメモ機能に書き出す。そうすれば、やるべき事が明確になりそれら全てが完了すれば帰宅できる、という発想に切り替わるからだ。以前までは頭でなんとなくやる事を割り出しておく、程度はやっておいたのだが、両方を実際に文字に起こすという部分が大事なのだと気づいた。途中で仕事を頼まれたらすぐに書き加えて更新する。一日の仕事が終われば書き出した横に◯を、終わらなければ△、手もつけられなければ×を書いておく。△と×は帰りの電車の中で翌日分の仕事メモとして書き残す。そして次の日の出勤時に前日の△と×を移動させ、また追加で思い出した項目を書き記す。これだけで仕事の漏れが全くなくなった。

 これはただの、ToDoリストだ。これの作成は仕事における基本中の基本で、当たり前の話なのだが、この作り方が自分にあっていると理解したのは最近のことだ(仕事の項目ごとにポストイットにメモするとか大きい紙に全部メモするとか色々試したのだが、どれも整理が粗くなったり期限がルーズになっていた)。


 そしてここからは、このやり方を編み出した後に職場が変わった際の話である。


 ————————————————


 朝の通勤電車で、いつものように仕事の項目をピックアップしておく。『今日終わらせたい作業』の数的に、定時に帰れそうに思える。しかしまぁ、やり方がわからない部分も多いのでペースも落ちるだろうし、定時退社は期待しないでおこう。

 会社に着くと最初にやる仕事は、掲示板のチェックだ。自分の業界は仕事の発生が特殊で、業界の人間全てに掲示板によって情報を開示し仕事を引き受ける引き受けないの意思表示をする必要があるのだ。この掲示板の更新状況をチェックし、引き受けそうな案件をピックアップして内容を確認、部署の全員に内容情報を流す。ただしこの案件が無い日もあればやたら大量に発生している日もあるし、午前中の忙しさはこれだけで決まる。そして今日は、やたら大量に発生している日。案件の情報はPDFファイルのページの中から読み取る必要があるので、5分10分では終わらない。下手をすれば午前中かかるほどの量だ。

 とりあえず各案件のPDFファイルを印刷し、読み始める。一案件読み終えると、大体このぐらいのタイミングで先輩上司が出社してくる。一案件ごとに必要情報を文字に起こし、報告書みたいなのを作らなければならない。今日はこれが5件。午前中には終わりそうだが『今日終わらせたい作業』には手をつけられそうもない。

 全員が出社して定時を迎え10分ほど経つと、部署内で軽く案件情報のすり合わせを行う。私は今日発生した案件の報告と、過去の案件内容のリマインドを行う。先輩たちは引き受ける引き受けないの選定、引き受け金額の大まかな設定を行う。私はしばらく黙っている時間が続き、打ち合わせが終了する。


 この時点でおおよそ9時30分。


 まだ案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルのページ数によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。それに、なかな必要な部分が見つからないとイライラしたりもする。

 しばらく読み込んでいると、正面の先輩Xがデスクトップ越しに声をかけてきた。

「ちょっとさ、A社のB部署にこの書類の郵送お願いしていい?」

「わかりました」

 私はこの手の仕事を先に終わらせる。5分以内に終わるような作業はさっさとやってしまうのが自分の中の鉄則だ。送付状を作成し、封筒に送り先を記入し準備。あとは総務の方に渡しておけば切手やら投函はやっておいてくれる。チャカチャカと進めて完了した。


 この時点でおおよそ10時。


 まだ案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルのページ数によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。なかなか必要な部分が見つからなかったりすると、読み飛ばしたのではないかと不安になる。

 しばらく読み込んでいると、横の先輩Yがサーバー越しに声をかけてきた。

「Zさんって、この書面作成したことあります?」

「いや、無いですね」

「あーじゃあちょうどいいのでやり方ざっと教えますね」

「ありがとうございます」

 会社の共有フォルダに〜とか、このエクセルファイルがあって〜とか、これ雛形なので〜とか、過去に作成した内容がここから見れるので〜とか、この部分は客先に聞かないとわかんないので〜とか、この部分は部長に聞かないとわかんないので〜とか、まさしくざっと教わった。

 

 この時点でおおよそ10時40分。


 まだ案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルのページ数によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。しかし、なんとか必要情報をピックアップして、それと余分に書いて怒られることはないので無駄かもしれないがより多めの情報を取り出しておく。なんとか1件終わった。

 すると自分のデスクトップ横の固定電話が光った。別部署の事務の方が一瞬で出てくれた。

「Zさん、C社からお電話です」

「わかりました」

 内容は、以前メールで送った書類の日付を書き直して欲しいとのことだった。私のミスとかではなく、C社の事務処理の都合上そうしないといけないらしい。私はこの手の仕事を先に終わらせる。5分以内に終わるような作業はさっさとやってしまうのが自分の中の鉄則だ。さっさと日付を書き直し、再送した。


 この時点でおおよそ11時15分。


 まだ他の案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルの種類によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。全ての情報を一つにまとめている案件もあれば、2つ3つ確認しないといけないやつもある。ありがたいことに、この一件に関しては大事そうな部分は全部別添の表にまとめてくれていた。

 すると自分のデスクトップ横の固定電話が光った。今度は私が電話に出た。

「D社のMです。あのー、そちらの商品のOの型番PがQした時のR時間とTの消費量を知りたいんですけど」

 察するに、担当はうちの部署のものではなさそうだ。あといきなりそんなに聞かれても、困る。

「…えっと、以前にD社のM様を対応した当社の者の名前とかって、お分かりになりますでしょうか?」

「んー、いやファックスには書いてないなぁ」

「承知いたしました。少々お待ちください」

 私は立ち上がって、別部署に声をかけてみる。

「あー、D社はVさんが担当だなぁ。でも今日戻ってこないみたいよ」

「ありがとうございます」

 自分のデスクに戻る。

「お待たせしております。担当者不在ですがいかがなさいますか?」

「じゃあ折り返しお願いしていいですか?」

「承知いたしました」

 私は電話を切ったあと、VさんにD社から電話があった旨をショートメッセージで伝えておいた。

 まだ他の案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルの種類によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。ただしこれは表にまとまっていたので、それを文字に起こして報告しておいた。


 この時点でおおよそ11時45分。


 ここで先輩Xと先輩Yが声をかけてきた。

「こないだW部長が言ってた中華、Zさんもいきましょうや! ちょっと早いけどね」

 うちの会社はこのあたりが若干ルーズで、11時30分には昼食に行ってしまう人が何人かいる。

「わかりました、いきましょう」

 予想以上の量と予想以上の金額に苦戦しつつも、なんだかんだ食べ終えてきた。少し早めに昼食に行ったので、少し早めに仕事を再開する。

 まだ他の案件確認は終わっていないので続きを再開する。PDFファイルのページ数によっては内容情報の読み取りだけでやたら時間がかかったりする。

 昼休みの時間が終わる間際、外回りに行っていたW部長が戻ってきた。

「おかえりなさーい」

「まぁ、またしばらくしたら出るんだけどね。Zくんさ、E社とF社とあとG社って挨拶したことある? 多分ないよね。顔出しがてら紹介するよ。午後出る準備しておいて」

「承知いたしました」

 程なくして報告を終えた。残りはあと2件。

「じゃあ、行ってきまーす」

「行ってきます」

 私は会社を出発した。


 この時点でおおよそ13時5分。


 行き先は3件。両方都内だったので電車で移動。私の自己紹介と、お互いの会社としての仕事の現状を軽ーく話す。そんなに長話ではなかったのだが、E社とF社は若干離れていたので思ったより時間がかかった。

「戻りましたー」

「戻りました」

 用が終わると、当然会社に戻ってくる。


 この時点でおおよそ17時15分。


 その日は、事務の女性が早上がりの日だったので既に退社済みだった。会社の席について早々、また電話が光る。

「H社のNです。あのー、(以下、前回の電話とほぼ同じ流れ)

 あとまたPDFファイルを開き、内容を確認する。これはなかなか面倒な書き方だった。別紙記載とか別紙参照とか色々あって、ファイルをあっちゃこっちゃ読み回ってやたらと時間がかかる。目が疲れてきたので、一旦席を立ち外に出た。缶コーヒーでも買ってこよう。私はタバコを吸ったりしないので、こんな感じで息抜きをする。

 デスクに戻って、またPDFファイルを開き、なんとか半分ぐらい内容確認ができた。


 この時点でおおよそ17時55分。定時は過ぎた。


 先輩X、先輩Y、W部長がいった。

「おう、新人なんだからやることねーだろ。早く帰りな」


 …

 ………

 ……………

 ……………………

 ………………………………


 あああああああああ! もう! 結局あんまり進んでねーじゃねーか! 誰が悪いとかは別にない。全くない。なのに、結局あんまり進んでねーじゃねーか! てゆーか、朝発生した案件チェックしか進んでねぇー! 『今日終わらせたい作業』と『時間のかかる作業』も全然進んでねぇー!! 『今日終わらせたい作業』は『今日終わらせたい作業』ってだけだからまだ期日は来てないけど、今日定時のうちに終わらせたかったーーー!! あと『今日上司や取引先に確認・質問する項目』もやってねぇーーーー! 午後電車ずっと乗ってたからーーーー!!! W部長の方はすぐなんとかなるけど、取引先は定時過ぎてるから流石に電話しづれぇぇぇえぇ!!!!!!


 あああああああああ! もう!


 ————————————————


 以上が、仕事をしていて「あああああああああ!」ってなる一日の流れだ。

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