プロローグ
僕たちは学級崩壊した。
6月10日の月曜日だった。いつも通りに中学校に行ったが、いつまでたっても担任教師はやってこない。
しばらくすると教頭先生が教室にやってきて、その日の授業のほとんどが自習になることが分かった。
担任は、それ以来もう教室に来ることはなかった。
そんな状況になって、ようやく僕たちは自分たちがいわゆる学級崩壊をしていたことに気が付いた。
なよなよした弱そうな教員の授業の際は各々トランプやスマホゲームで遊び、強面の体育教員の授業はさぼった。
担任には特に"きつく"当たった。「そいつには何を言ってもいい。」そんな風潮があったので、日々のストレスのはけ口となった担任は、理想と現実との乖離に耐えられなくなり学校を去ったのだった。
そんな経緯で、タンドウはやってきた。
タンドウ「皆さんの新しい担任になりました、タンドウですよろしく。」
新たに僕たち2年3組の担任に着任したタンドウ。普段通りなら、新たな教員が【弱い】か【強い】か見極める僕たちだが、その日は違った。
タンドウは顔にひょっとこの面をかぶり、声はしゃがれていた。なんとも年齢や性別が掴めず、不気味な雰囲気を放っていた。
僕たちはそいつに一瞬あっけにとられ、つまらない教員を図る尺度とは違うものさしでそいつを見たが
タンドウ「早速ですが、これからクラスのルールを決めます。ルールは絶対、破れば罰則を与えます。早速ですが、ルールの作り方を・・・」
ああ、なるほど。少し、こいつが身近に思えた。
身なりは奇妙奇天烈だが、こいつは生徒にルールを強制するタイプの教員、か。
蓋を開けてみれば教員は分類できる。分類できてしまえば、あとは退屈に、適当に対応をあてはめるだけだ。
だから、なんとなく期待は薄れていき、退屈な感情が少しだけ押し寄せてきた。
その時、タンドウにシャーペンを投げつけたのはクラスのお調子者、オリカワだった。
オリカワ「あー、すみません!手が滑ってしまいました!」
そいつの反応を見たかったのと同時に、オリカワもほんの少しの退屈を感じたのだろう、自分の尺度で計れる面白さにクラスを持っていこうとしたことが感じ取れた。
クスクスと、数人は笑った。
タンドウ「いえいえ、かまいませんよ!でも、大事な話なので!【次はない】ですからね。」
これは、、
【次はない】と言われてしまえば、同じことをやりたくなる。
オリカワは当然のように、しばらくしてタンドウが目線を切った瞬間、また消しゴムをタンドウに投げた。
事態は急変した。
タンドウに気を取られて気にしていなかったが、紹介のために教室に来ていた教頭の他、スーツを着た男が二人、入り口に待機していた。てっきり教員かと思っていたが、そうではなかった。
屈強な男たちだった。彼らはオリカワに向かって一瞬で突進し、力づくで取り押さえた。
ガッシャン!!
大きな音。しばらくして、教室は静まり返った。
始めて、本気で大人が子供を暴力を以て制している現場を目撃した。
僕たちは、何も言えなかった。
それほどまでに、異常な雰囲気を感じた。大人たちは本気だった。
タンドウ「東丘市は」
タンドウ「今年度から、教育分野を本気で改革するようです。」
タンドウ「どこまで【やっていい】のか、それを明らかにするため」
タンドウ「ちょうど、学級崩壊して、親御さんも学校も見放したような、もうどうにも手につかなくなったクラスを探していました。」
タンドウ「そんなクラスなら、【失敗】しても、だめで元々、ですから」
話し合いをするなら、まず相手を席に着かせる必要がある。
実体験を以て考える。こんなことになるなら、大人しく席についておけばよかったと、僕たちは後悔することになる。