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第二話

「達也、今日ってこの後時間あるかな?」


 それは、帰りのホームルームを終えた後のことだった。


 周囲の生徒同様荷物をまとめて帰り仕度をしている俺に、後ろから親友の深夜が声をかけてきた。


「特に予定はないけど、それがどうかしたか?」


「実は達也に話したいことがあってね。時間に余裕があるなら、この後僕の家に来てくれないかな?」


「俺は別にいいけど……話ならわざわざお前の家に行かなくてもできるんじゃないか?」


「それはその通りなんだけど……実は話の内容があまり人に聞かれたくないものなんだ。だから面倒だけど、僕の家まで一緒にお願いできないかな?」


「まあ、俺はいいけど……」


 あまり人に聞かれたくない話か……いったいどんな話なんだ? 深夜の性格からして物騒な話に友人を巻き込むとは思えないが、気になるな。


 しかし人に聞かれたくない話と言われた以上、おいそれと訊くわけにもいかない。着いてからのお楽しみというわけだ。


「そっか、ありがとう達也。やっぱり持つべきものは親友だね」


「大げさな奴だな」


 苦笑を浮かべながら、教科書と筆記用具を詰めたカバンを肩に担いで深夜と共に教室を出た。


 深夜の家は、学校から徒歩十五分ほどの場所にある一軒家だ。


「お邪魔します」


 そう言ってから深夜と一緒に家の中に入る。


 玄関まで来たが、静まり返っていて出迎えてくれる人は誰もいなかった。俺たち二人以外に、今この家には誰もいないということか。


 玄関で靴を脱いでから深夜に連れられて二階にある彼の自室に入ったところで、俺は疑問を口にする。


「なあ深夜、おじさんとおばさんって……」


「相変わらず仕事で色んなとこ飛び回ってるよ。電話は時折するけど、もう一年以上直接顔は合わせてないかな」


「マジか……」


「まあ親がいないと気楽でいいよ? 家事は全部自分でやらなくちゃいけないのは面倒だけど」


 深夜はあっけらかんと言った。本当に気にしていないらしい。


「けど、前は月一ぐらいで帰ってきてなかったか?」


「僕が中学の頃まではね。僕が高校生になったから、もう世話をする必要もないって思ったんじゃないかな? 妹も先月高校生になったしね」


「ああ、そういえば弥生(やよい)ちゃん高校生になったのか」


 深夜には一人年が一つ下の妹がいる。深夜に似て綺麗な顔をしているのが特徴で、二人は所謂美人兄妹というやつだ。


 ちなみに俺との仲は顔見知り程度。見かけたら挨拶はするが、それ以上は特に何もない。


「うん。しかも僕らと同じ高校だよ」


「へえ、そうなのか。なら弥生ちゃん、勉強かなり頑張ったんだな」


 俺たちの通ってる高校は、結構偏差値は高めだ。弥生ちゃんの成績がどれくらいなのかは知らないが、きっとそれなりに苦労したことだろう。


「うん、夏休みなんかは毎日図書館に通って勉強してたよ。合格できたのは、その時()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだって」


「へえ、そうなのか」


 世の中にはそんな親切な人もいるのか。


「って、そんなことより、深夜は俺に話したいことがあったんじゃないのか? 弥生ちゃんの話もいいけど、先にそっちから片付けようぜ」


「そんなに急かさないでよ。達也、別にこの後用事があるわけじゃないんでしょ?」


「そりゃそうだけど……」


 あまり人に聞かれたくない話なんて言うものだから、こっちはさっきから気になって仕方がない。もったいぶらずに、早く話してほしいものだ。


 と、そこで不意に軽快なインターホンの音が聞こえてきた。


「……あ、帰ってきたのかな? 達也、ちょっと出てくるから待っててくれるかな?」


「了解」


 そう答えると、深夜は俺を残して一人部屋を出て行った。


 カーペットの上に座ってしばらく待っていると、深夜は部屋に戻ってきた。ただ部屋を出た時と違い、深夜の後ろには一人の女の子がいた。


 深夜によく似た綺麗な顔立ち。きめ細やかな純白の肌と、相反するように深い深い黒色の長い髪。白と黒のコントラストが不思議な魅力を生み出し、目が離せない美しさを作り出している。


 街中を歩けば、きっとみんなの視線を釘付けにするだろう美少女。俺みたいな美少女とは正反対の、人に避けられる側の人間には一切縁のない天上の華。


 けれど俺は彼女に見覚えがあった。こうして顔を合わせたのは久しぶりだが、間違いない。


「もしかして……弥生ちゃん?」


「はい、その通りです。榎田弥生です。……お久しぶりですね、相良先輩」


 弥生ちゃんは俺の前まで移動してきたと思えば、慇懃な態度で応じた。


「ああ、久しぶりだな弥生ちゃん。最後に会ったのは……俺が中学を卒業する前だったかな?」


「……そうですね。先輩がそう言うのなら、そうなんだと思います」


「…………?」


 含みのある言い方に引っかかりを覚えたが、特に指摘する理由もないのでスルーする。


「それにしても……しばらく見ない間に随分綺麗になったな」


 改めて弥生ちゃんの顔を見る。最後にあったのは彼女が中学生の頃。あの頃から整った容姿をしていたけれど、高校生になったこともあってか今はあの時以上だ。


「……見え透いたお世辞はやめてください」


「こら、弥生。照れ隠しでも、そういう言い方はダメだよ」


「別に今のは照れ隠しなんかじゃありません」


 相変わらずツンとした態度だ。顔は深夜に似てるけど、性格は二人共正反対だ。


 眦を吊り上げて弥生ちゃんを叱っていた深夜だが、俺の方を向くと申し訳なさそうな表情になった。


「はあ……ウチの妹がごめんね、達也」


「俺は気にしてないからいいよ。あんまり弥生ちゃんを叱らないでやってくれ」


 この程度、女の子に顔を見られて悲鳴を上げられるのに比べれば何でもない。


 俺が中学生の時なんか……あ、思い出したら泣きそうになってきた。これ以上思い返すのはやめよう。


「てか、どうして弥生ちゃんを連れてきたんだ?」


「これからする話には、弥生も必要だからだよ」


 問いに答えてから、深夜は背を向けて出て行こうとする。


「長い話になるから、ちょっとお茶とお菓子の準備をしてくるね。達也はしばらく弥生と二人で待っててくれるかな?」


「俺はいいけど……」


 ちらりと弥生ちゃんを流し目で見る。俺と一緒と言われても、彼女の表情に一切の変化はなかった。


 弥生ちゃんは俺みたいなヤクザ顔負けの悪人面と一緒は嫌じゃないのか? もし無理をしてるのなら、我慢せず言ってほしい。……主に俺の心の平穏のために。


 俺に怯えてビクビクされるのは、精神的にクるものがあるからな。


「弥生もそれでいいよね?」


「はい、大丈夫です」


 意外なことに弥生ちゃんは、深夜の確認に頷いてみせた。しかも即答だ。考える間なんて、ほとんどなかった。


 深夜は弥生ちゃんの返答に満足したように頷いてから「じゃあ、待っててね」と言って部屋を出た。


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