第一話
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俺――相良達也は昔からよく人に怖がられていた。別に俺自身、何か怖がられるようなことをしたわけではない。
無論、彼らとてわけもなく俺を恐れたわけではない。ちゃんと恐れるに足る理由があった。
その理由というのが、俺の父親そっくりの顔だ。俺の父親譲りの強面は、他の人からすると恐怖の対象でしかないらしい。
特に問題なのが、まるで睨めつけるかの如し鋭い瞳だ。俺としては睨みつけてるつもりはないが、他人からするとかなり怖いらしい。
おかげで物心ついた頃から、周囲の人間から恐怖の対象として見られ、避けられ続けてきた。
そんな扱いに耐えられるわけもなく、中学生になる頃には俺は周りに迷惑をかけないようにと、常に周囲から少し距離を置くような人生を送っていた。
そのせいか性格は暗く卑屈になったが、容姿はそんな性格に反比例して凶悪になっていくばかりだ。周囲の俺を見る目が変わることもない。
それは中学を卒業し、高校生になってからも変わらなかった。いやむしろ成長期で身長が百八十センチ超えになったことで、圧迫感も追加されてより恐れられることとなった。
そういう扱いに慣れてしまったが、それでも辛いものは辛い。
最近だと、交番の前を通っただけでお巡りさんに呼び止められ職質を受けてたりもした。あの時は精神的にかなり辛かったな。
これは、常日頃そんな感じで順風満帆とは言い難い人生を送ってきた俺と、一人の女の子から始まる偽装カップルの物語だ。
――人は見かけで判断するなとはよく言うけれど、それは無茶なんじゃないかとよく思う。
視覚で得られる情報というのは、そうバカにできたものではない。人間の第一印象というのは、まず外見で決まるからだ。
内面はいい奴だから、話してみれば分かるなんて言う輩もいるが、そもそもその接する機会というのは、第一印象によって得られるか否かが決まることはよくある。
つまり何をするにも、一番大事なのは外見ということだ。強面のせいで街中ティッシュ配りで一度もティッシュをもらえたことのない俺には、何とも世知辛い世の中だ。
「――って、常日頃俺は思っているんだ」
「達也、流石にそれは卑屈すぎないかな?」
持論を黙って聞いてくれていた親友の第一声は、そんな呆れ混じりのものだった。
彼の名前は榎田深夜。中学時代からの友人にして、家族を除き俺と唯一まともに話してくれる奴だ。
時刻は昼すぎの学校。昼休みの二年A組の教室にて、俺は後ろの席に座る親友の深夜と雑談をしていた。
「卑屈で悪かったな。生まれてこの方、色んな奴らに顔が怖いってだけで泣かれてきたんだ。仕方ないだろ」
「それはまあ同情するけど……けどその泣いた人たちって見る目ないよね。確かに達也の顔は怖いけど、別に内面まで外見同様恐ろしいものってわけでもないのに」
「仕方ないだろ。さっきも言ったけど、第一印象が良くないとそれ以降も全部ダメになっちまうんだよ」
これは十年以上生きてきて導き出した俺の結論だ。
深夜の擁護は嬉しいが、誰しもが深夜のような考えを持ってるわけじゃない。そもそも好き好んで凶悪な面構えの俺に話しかけようなんて人間、そうそういない。
「そんなものかなあ……普通目を見れば相手のことなんて、それなりに分かるものだと思うけど」
「現実でそんな少年漫画みたいな人の見極め方は無理だろ」
というか、俺は怖がられていて目すら合わせてもらえないからできないし。
親友の冗談みたいな発言にやれやれと肩を竦めていると、ふと視線を感じた。
何なのかとそちらを振り向くと、数人の女子がこちらの様子を窺っていた。俺を見ていた……なんて自惚れはしない。自分が避けられる側の人間だということは、嫌というほど理解している。
彼女らのお目当ては十中八九俺ではなく、正面にいる深夜だろう。深夜とお喋りをしたいが、強面の俺がいるから近づけないってところか。
深夜はかなりのイケメンだ。多分学校でも一番だと思う。しかしそれを鼻にかけることもせず、優しい性格をしている。
その証拠に、深夜は中学時代から俺の外見だけで怯えたりせず、親友として俺と仲良くしてくれている。
そんな外見内面共に素晴らしいことから、よく女子に告られたりしてるという噂もよく耳にする。ただ誰かと付き合ったという話は聞かないので、多分全部断っているんだろう。
しばらく見ていると、女子たちは俺の視線に気付いたらしい。「ひィ……!」と短い悲鳴を上げて身体ごと明後日の方向を向いた。
……そういう反応をされると、ちょっと泣きそうになるからやめてほしい。慣れてるとはいえ、悲しいものは悲しいのだ。
「どうしたの達也? そんな今にも泣きそうな顔をして」
「いつものことだ。気にすんな」
「気にするなって言われても……ああ、そういうことか」
深夜は俺が先程まで見ていた方向に視線を持っていくと、納得したように呟いてから不愉快だとでも言いたげに顔を歪めた。
察しのいい奴だ。気付かなくていいことまで気付きやがる。
「……ちょっとトイレ行ってくる」
「いいよ、達也。そんな変な気なんか遣わなくても」
席を立ち逃げるように教室を出ようとした俺を、深夜は呼び止めた。
「……何のことだよ。俺は別に気なんて遣ってないぞ。ただ無性にトイレに行きたくなっただけだ」
「そういう嘘はいいよ。どうせ達也のことだから、あそこにいる子たちに気を遣ってトイレに行くなんて言い出したんでしょ? バレバレだよ」
流石に中学時代からの付き合いなだけのことはある。俺の考えなんてお見通しということか。
……何かこういうのは、気付かれると気マズいものがあるな。
「あんな子たちに気を遣わなくていいよ。僕の親友を見た目だけで判断するような人なんて、こっちからお断りだからね」
「深夜……」
ヤバい、ちょっと目頭が熱くなったぞ。ナチュラルにこういうことを言えるとか、顔だけじゃなく心までイケメンってことか。俺が女だったら今ので堕ちてたかもしれない。
この日の昼休みは、親友のイケメンっぷりに感動する昼休みとなった。