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従者キトラ




 太陽が少しずつ高度を落としていく午後の日差しの下。

 馬車に揺られて俺たちは小迷宮に向かっていた。


 クラウスの手配した馬車はかなり上等なものだった。

 中には二つの座席が向かい合うように設置されており、俺とキトラが並んで座り、対面の席にはクラウスが座っている。

 ちなみにシアンは外で御者をやっていた。

 御者の手配が間に合わなかったのか、内々に済ませるつもりなのか。

 それによって彼の評価がまた変わっていくるのだが。


「しかし、本当にいいのですか? 準備などは――」

「できたての小迷宮だろう? だったら手早く済ませちまおう」


 クラウスから迷宮の話を聞いた俺は今から現場に行こうと提案し、であれば日が沈む前にと彼も即座に馬車を手配してくれた。


「小迷宮のうちに叩けるなら、それに越したことはないぜ」


 迷宮は日に日に成長する。

 内部構造がどんどん複雑になり、住み着いた動物たちは魔物化し、最深部にいる守護者ガーディアンも力をつけていく。

 だから可能な限り早く攻略するのがセオリーだ。


「なるほど。専門家らしい意見ですね」

「何言ってんだ。迷宮なんて門外漢もいいところだぜ。派手な魔法をぶっ放したら生き埋めになっちまうからな」


 そう告げるとクラウスは首を傾げた。


「かの特大迷宮ベルカナリアを踏破して破壊したのは貴方たちだと聞いていますが」

「確かに俺たち(・・・)だが、実質的にはほとんどキサラギの野郎の独壇場だったんだ。俺とリーリウスは後ろの方でサポートをしてただけでな」


 【大勇者】キサラギと【大賢者】リーリウス。

 迷惑なことに俺と並び称される化物たち。

 ベルカナリアの攻略は、俺たち【三英雄】全員が揃った数少ない事態だった。


「だからまあ、あんまり俺に期待しすぎるなよ。ベルカナリアでも大したことはやってない。キサラギが七割でリーリウスのババアが二割。俺の貢献度なんてせいぜいが一割だ」

「あの――差し支えなければ」

「ん?」

「そのときの話を聞かせて頂けませんか? それがどのような冒険だったのか、とても興味があるのです」


 クラウスが輝くような微笑みでそう言った。

 それこそリーリウスがいたらきゃーきゃー騒ぎそうな笑顔だった。

 というか建前であれ、俺を本物と認めていないと言っていた話を自分で忘れているらしい。


「見かけによらずミーハーなんだな、アンタ」

「そうですね……立場上、なかなか本当の冒険はできませんから」


 そこでクラウスは俺の隣に座っていたキトラの方にも話を振った。


「従者様。貴方のお話もよければ聞かせてください」

「う?」


 キトラは当然、首をかしげる。

 その反応にクラウスが困惑する。

 だから助け舟を出してやった。


「そいつは何も覚えてないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え――」


 驚いた顔の後に。

 クラウスはひどくつらそうな顔をした。


「それは――すみません。配慮が足りませんでした」

「いいさ。アンタならキトラも許してくれるだろう」

「うー!」

「ほら、キトラもそう言ってる」

「……そうですか、優しい子なのですね」


 そう言ってキトラを見るクラウスの目こそ優しかった。

 キトラに同情していない。

 本当にできた男だぜ。


「しかし、『できなくされている』というのは――呪いの類ですか?」

「呪いだったらよかったんだがな――こいつは祝福(・・)なんだ。だから解呪できない(・・・・・・・・・)

「それは――もしかして、女神様が嫌いだというのは――」


 クラウスが追求しかけたとき――馬がいななき、馬車が止まった。

 信じられないほど完璧なタイミングだ。何者かの作為を感じちまうぜ。

 馬車の窓から外の様子を観察する。


「どうやら着いたみたいだな。降りようか」

「……はい。では話はまた、のちほど」

「ああ。全部が無事に終わったらな」


 俺は真っ先に馬車を降りて、凝り固まった体を伸ばす。

 キトラが続いて降りてきて俺に抱きつく。

 それからクラウスが降りてきて、最後に御者席からシアンがおっかなびっくり降りてくる。いかにも慣れてなさすぎる。

 馬を繋ぐのは手伝ってやったほうがよさそうだ。


 そうして集まった一同の前には、地下に向けて広がる不自然な階段が大口を開けていた。

 周囲の土と同じ色の煉瓦を並べて作られた入り口は、まごうことなき小迷宮のものだ。

 そこの周囲だけ不自然に草が生えていないのもそれを裏づけている。


「扉もできていないし、周囲に魔物が這い出た気配もない。話の通りまだ小迷宮の段階だな。階段の大きさからして、もう少し遅ければ成長してたかもしれない」

「間に合ったというわけですね」

「おいおい。そう言い切れるのは攻略した後だぜ。間に合ったかどうかはまだわからない。中身を見てみないことにはな」

「く、クラウス様をあまり脅かさないでください……」

「おっと、悪いな。性分なんだ」


 お前は悪い方に考えすぎだ、とはキサラギにも言われたっけな。


「じゃあプラス思考で行こうか。なに、俺がいる以上そんなやばいことにはならないだろうぜ。気楽にやろう」


 うーむ。

 普段言わないような言葉だから、逆に不安になってきた。

 そういえばこれもキサラギが言ってたな。



 ――そういうのをフラグって言うらしい。




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