車椅子の男01
外套に包まれたキトラを抱きかかえて室内に入る。
そして車椅子の男に案内されるまま背付き長椅子に座った。
「お茶はいるかな?」
「結構だ」
「だよね。そうだと思ったけど、それでも確認はしておかないとね」
車椅子の男は車輪を器用に操って室内を動き、机を挟んで反対側に陣取った。
こうして面と向かい合うと余計にクラウスの面影を感じる。
「最初に言っておくが、俺は侵入者じゃないぜ。ちゃんと招かれて入ったんだ」
「ふむ……そうか。どうやら母が迷惑をかけたようだね」
やはりこいつ、あの王妃様の息子か。
つまりは王子様でクラウスの異母兄弟ってわけだ。
周りをキョロキョロ見回すキトラの頭を撫でながら話を続ける。
「なんだよ、知ってたのか」
「いや。簡単な推測だよ。
第一に、君のその衣装は略式だが礼服だ。
第二に、爆発音がした部屋も母上の客を泊める貴賓室の方だった。
第三に、今日は珍しく母上に来客の予定があった。
そして第四に、そんな邪気のない子供を連れて荒事に来る人はいない。
おそらくだが面会の際何かがあって母上が腹を立て、君の就寝中に手を出したんだろう――そう思ったんだ」
「はん。概ね当たってるな。となると逆に気になるんだが、よくあることなのか?」
「と言うと?」
「王妃様と話をしに来た客が城内でいなくなる――とかさ」
「まさか。さすがにそんなことはないよ」
車椅子の王子様はポットを手に取り、自分のカップに紅茶を入れる。
「よかったぜ。そこまで良識がないわけじゃあないんだな」
「母上の交友関係はすごく狭いからね。そもそも客が滅多に来ないんだ」
「いやそっちかよ」
「はは。冗談はさておき。僕の知る限りではないよ。君はよほど母上のウィークポイントに触れたらしい。何があったんだい?」
話していいものか少しだけ悩んだが、まあいいか。
逆に話して反応も見ておきたいしな。
「お願いをしたら逆に仕事を頼まれてな。『クラウスを殺してくれ』ってさ。んで、それを断ったらこうなってね」
「――それは」
さすがに予想外だったのか、王子様は苦々しく顔をしかめた。
「うん――なんというか、本当に母上が迷惑をかけたね。よく断ってくれた」
天井から盗み聞いてた限りにおいても、こいつ自身はクラウスに悪意がなさそうなんだよな。すべて演技なら大したもんだが、おそらくそれはないだろう。
「『シースルー』を使っていたところを見ると、上級の付与魔法使いなのかな。それで母上に目をつけられたとか?」
「残念ハズレ。俺は魔導師だ」
「え、本当に?」
「本当だよ。見えないとはよく言われるがね」
――魔法には三つの系統がある。
まず、魔力によって何らかの性質を強化する付与魔法。
いわゆるバフやエンチャントがこれに含まれる。
次に、自然に起こる現象に介入して操作する自然魔法。
氷や風を操ったり、光を放ったり、特殊なのでは黄金のコードである『時間干渉』なんかもこの自然魔法に分類される。
最後に、特殊な例外たる契約魔法。
精霊や魔神など人間を超越した存在と契約し、その力を借り受ける魔法。
失われた神聖魔法や女神からの祝福もこれに当たる。
で、それら三つを一通り修めた魔法使いの称号が魔導師というわけだ。
さらに言えば、その中で当代最強のものを【大魔導師】という。
ま、俺とキトラのことなんだが。
当のキトラは退屈を持て余して足をプラプラさせている。目もしょぼしょぼしてきたみたいだし、いったん宿に戻るかねえ。
それで、今の部屋を取ったまま別の部屋をこっそり借りるか。
「そうか……実は僕も魔法を少しばかり学んだ身でね。健康だったら、教えを請いたいところだったけど」
「電脳魔法は頭さえ無事なら支障はないだろ。本当に必要だってんなら、近々授業の予定があるから請け負うぜ」
シアンに魔法のあれこれを教える約束をしてるからな。
生徒が一人から二人になるくらいなら誤差みたいなもんだ。
気に入らない人間のためには指一本動かす気はないが、気に入った相手になら少しくらいは手を貸すさ。最近の俺は優しさマシマシだからな。
「しかしどうしたんだ、その足は。竜虫にでも襲われたのか?」
「……遠慮ないね。そういうの好きだよ」
こういうのは腫れもの扱いされる方がイヤなもんだろう。
クラウスの今後にも関係するかもしれないしな。タイミングを逃さず事情を聞いておかないと。
なんて考えていたら。
「この足はね、ドラゴンに食べられたんだ」
んんんん?
王子様、今なんとおっしゃいました?




