ピエロのような男
リヴァイ達はラクスと別行動を決め、数日のうちに最初の目的地"カストル"に到着した。
「ふぅー、とりあえず着いたけど、夜も遅いし情報収集は明日からか?」
キョロキョロと宿を探すリヴァイにオビはすかさずマウントを取りに行く。
「馬鹿か。夜の情報収集って言えば酒場だろ?出来上がってるやつなんてペロッとデカい情報落とすかもしれねぇんだ。行かねえ手はねぇだろ。
俺はそこの酒場に顔出してるから。リヴァイは俺の分の宿も見つけてから合流しろよ。」
リヴァイは元来負けず嫌いな性格だが、こと酒場は経験がない為、少し不満そうな顔で手を上げて了解のサインを送る。
オビと解散後入った近場の宿からは、慌てた様子の亭主が出てきた。
「いらっしゃい。…バタバタしててすまないね。」
「構わないですけど、どうしたんですか一体。」
リヴァイが質問をすると、亭主はバツが悪そうに少し考え込み、言葉を絞り出した。
「…アンタ、ここの人間じゃないんだろ?だったら悪いことは言わない。早朝にはこの街を出た方がいい。」
「…なんだ、酒場じゃなくてもあるじゃん。」
「えっ?」
「いや、すまない。こっちの話だ。
シエルの…(いや、アレはどう言えば伝わる?)
世界を作り変えるっていう声が聞こえたんだろ?それと関係があるのか?」
「…まあ、そうだな。」
「…
…信じてもらえるかわからないけど、俺たちはその声の主と家族みたいなものなんだ。そしてここには何者かに誘導されるように来た。もしかしたら関係があるかもしれない。
…その話を詳しく俺に教えてくれないか?」
亭主はすぐには言葉を返さず、リヴァイの目をじっと見ている。リヴァイも亭主と目を合わせ逸らさない。
亭主はしばらくし、根負けしたように溜め息を吐くと、その口を開いた。
「…まあ、どうせ止められる規模の話じゃない。細かい話まではできないが明日この街で大規模な暴動が起きる。」
「あの声がそれを望んだと民衆は捉えたということか?」
「…そうだ。今回の件は国家が怠慢を積み重ね招いた結果。だからまずはそれを正さなくては行けないと判断した。」
その答えを聞いてリヴァイは少なからず落胆した。
あの声が望むものは血で血を洗うような戦いではないと知っていたから。
「…アナタもそれに参加を?」
「…そうだ。」
「…怠慢を積み重ねた、それはそうなのかもしれない。
でもそれに対する答えが暴動だと、あの声を聞いてそう感じたのか?」
リヴァイの問いに、亭主は下を向きながら答える。
「…恩義のある人が先頭に立った。だから俺はそれについて行くだけだ。」
「アナタ自身の考えは?」
「…
…止めれる規模の話じゃないと言っただろ。
…確かに後ろめたい気持ちを誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。それでも俺は行く。明日朝になったら、巻き込まれる前にここを出て行くんだ。…素泊まりならお代はいらない。」
「…」
そういうと亭主は鍵をカウンターに置き自室へと戻っていった。
一方オビは酒場に入り、店内を見渡した。
酔っていて口が軽そうで、相席の出来そうな相手を探す。オビはそういう目利きや勘には自信があった。
「…よし、アイツに決めた。」
オビは店の角で飲みながら、今にも寝落ちしそうな青年に声を掛ける。
「よぉ、相席いいか?」
オビの予想とは裏腹に、青年からの反応はなく、下を向き沈黙している。その後しばらく沈黙していた青年だったが、突然笑い出した。
「…くふ。くふふ…。」
反応を見てオビは、青年が酔っていなかったことを察した。
「…何者だテメェ。」
「ぷふー!!!目利きには自信があったんだろぉー?オビィイ。
声をかけてしまった時点でお前の負けだ。そして断言してやるよぉ。お前はこの先も俺には勝てない。」
オビの名を知るその男は見知らぬ、見覚えもない、ピエロのような男だった。