旅
「なぁ、リヴァイ。」
「なんだよ、メイス。」
「この戦争が終わったらやりたいこととかあるか?」
「戦闘が今から始まるって時に何だよ…」
「…だからこそだよ。
リヴァイはあんまりそういうのなさそうだしよ。」
「…お前はあるってのかよ?」
「あるぜ俺は。
…俺は旅ってのをしてみたい。
もし戦争終わってよ、やりたいことが見つからないなら、俺の旅にリヴァイも連れってやるよ。」
(…
…あぁ、そんな話、メイスによく聞かされたな。)
リヴァイは昔のことを思い出しながら、オビに尋ねる。
「…なぁオビ。」
「あっ?」
「これって旅か?」
「呑気な言い方するんなら、まあ旅なんじゃねぇか?」
「…そうか。」
「…終わり?…なんだよこの会話。」
リヴァイの時間は、仲間を失った日から止まっていた。文字通り歩みを止め、剣を振り続けたのだ。
「(…あいつらのいない世界でやることなんてないと決めつけてた。
探せば、…思い出せばきっと…あいつらとの会話の中に答えはあったんだろうな。)」
唐突な話から下を向くリヴァイの様子を見て、オビは直感的に言葉を返す。
「…旅がしたいんだったらよリヴァイ。」
「ん?」
「こんなんじゃなくて、全部解決した後に俺が連れってやるよ。」
そう言ったオビの表情はまるでメイスのようだった。
リヴァイは寂しげに笑った。
「俺はこれが解決したら元の世界に帰るんだ。
…それに、俺は旅については色々教わってるから、少しうるせーんだぜ。」
「…例えば?」
「…そうだな、旅では夜仲間と焚き火を囲いながら酒と美味い肉を食べるんだ。」
「はっ、酒と肉なんて旅じゃなくて食べるだろ。」
「…えっ?」
「…えっ?」
オビは懐から小瓶を取り出しリヴァイに見せる。
「酒は常備だぜ。」
「…マジかよ。」
「今晩呑んでみるか?陽も落ちてきたし今日はもう少し進んだら休もうぜ。」
「…随分と落ち着いたなオビ。」
「…最初は慌てたけどよ、腹も決まったし慌てたって飛んでいける場所じゃない。それにユダの生存を聞いてもお前らが慌ててなかったのは、信じてるからだろ?シエルから託されたその剣を。」
「…ああ、信じてる。
この世界のシエルに呼ばれたんじゃない。俺がこの剣に願ったからここにいるんだ。」
リヴァイはそう言うと剣に気を込める。剣はそれに応えるかのように力強く輝きだした。
「俺と戦った時は使ってない切り札が、まだあるってわけだな。」
オビはその輝きを見て、不満そうに返したが、リヴァイは笑って続ける。
「オビは切り札の使い方をまだ知らないだけだ。
俺はシエルをよく知っている。アイツは無責任にお前らを放り出すような奴じゃない。アイツの願いが、力が、何かしらの形でお前らにも宿ってるはずだ。」
「…さいですか。」
リヴァイの曇りない言葉に、オビは半信半疑で自分の手に気を込めるが、何も反応はない。
「…とりあえずいいや。難しいこと考えるのは性に合わない。
明日に疲れを残さない為に、飯食って酒呑んで寝ようぜ。」
「…酒は飲むのかよ。」
その晩リヴァイは、初めての酒を呑んだ。