同じ名の男
墓の前、もう一度名前を読み返すと、
そこにシエルの名前はなかった。
代わりの名前が刻まれている。
“リヴァイ”
紛れもなく、自分の名前だ。
「そうか、あいつの世界に来たんだな。」
行くでもなく、飛ばされるでもなく、そこに元々居たかのように、リヴァイは世界を移動した。
この世界で生き残ったシエルは、戦争の最前線で槍の雨を降らせ、誰も近づけない聖域を作り出した。そして世界中の人の心に聞こえるよう1ヶ月後にこの世界を想像し作り変えると宣戦布告をしたのだ。
リヴァイは別世界からその声を聞き、それを止める為に移動してきた。
「同じように移動してきているなら、あいつらがいる可能性があるのは、ここから一番近いのは孤児院だ。
…。
俺を庇って死んだ、あいつらの最後の表情、最後の声が、まだ心に焼き付いている…。」
(「リヴァイ…」)
「…怖い。
けど、逃げ出すわけには行かない。
行かなくちゃ孤児院に。
今度こそ守って見せる…。」
覚悟を決めリヴァイは墓を背に向け歩き出した。
そこに前方から一人の男が歩いてくる。
何か違和感がある。
知らない男だ。
知らない男だがどこか懐かしさを感じた。
すれ違いざまに男は口を開ける。
「…変わりがいない人間なんていない。
なのにあんたらは変わりがいないと思い込み生きている。それが気に入らないんだ。」
全てを知っているかのような口ぶり、リヴァイは戸惑いを感じつつ聞き返した。
「…あんた、誰だ?」
男は冷たい視線で答えた。
「存在意義を否定された“俺たちに”名前なんてない、なくなったんだ。
それでもアンタが死んでしばらくの間、
俺はこう呼ばれていた。
…“リヴァイ”と」
男は名乗ると同時に姿を消した。
男に感じた懐かしさは、
シエルの想像の力で生み出された人形劇だった。