カルマ参戦
リヴァイが建屋から出ると、大きな歓声が上がっていた。
烏合の衆だった集団の士気を高め、覚悟を決めた表情をしている男が演説を終えたところだった。
「(…今思うとオビ達の時は楽だったな。
向こうから俺に向かってきてくれたし、シンプルに勝った負けたの戦いだった。
…
…この状況を変えるにはまず俺にこの集団の意識を向けさせ、その上で止めなくちゃいけない。今後の可能性を摘む為にリーダーとの接触も欠かせない。
それに暴動自体を万一止めれた場合でも、国がこの規模の暴動をまったく感知してないとは思えない。この人達にお咎めがないようにする必要もあるし、教団のこともある。)」
シエルの願いが間違った方向に向かって欲しくない。
その一つの目的を果たす為に解決しなくては行けない問題は、1人で解くには不可能に近いようなものだった。
それでもリヴァイは僅かな可能性を捨てず、民衆に意識を向けてもらう為大声で叫ぼうとした。
その時だった。
演説が聞こえてきた場所とは違う方向から大きな声が上がる。
「僕の名はカルマ!
…君たちの暴動を止めに来た!!」
その声はオビではないが、同じ懐かしさを感じた。間違いなくシエルの人形劇の懐かしさだ。
民衆は一斉にその男を取り押さえに入るが、男は峰打ちで応戦する。
遠目に見てもカルマと名乗る男の強さは集団ですらそうそう寄せ付けるようなものではない。
思わぬ事態に演説で士気が高まっていた集団は取り乱し、一瞬で烏合の衆に戻る。
リーダーはその場に留まるも、取り巻きが数名程、慌ただしく離れていくのが見える。
リヴァイも声の主が気になったが、声の感じからして、考えもなく中央突破を仕掛けるような男ではないことがすぐにわかった。
千載一遇のチャンスをリヴァイは感じ取りリーダーの元へ走る。
「…アンタ…本当に来たんだな。」
リヴァイの前に立ち塞がったのは宿屋の亭主だった。
「アナタも、自警団だったのか。」
亭主は抜剣しているが戦意がないのは明らかだった。それでもリヴァイは亭主を自警団の裏切り者にさせない為に、みねうちで倒す。
「…リーダーを…頼む。」
亭主は倒れ込む間際に、微かな声でリヴァイにそう伝え、リヴァイは小さく頷いた。
リヴァイはその後も道中で止めに入ってきた者達を退け、リーダーの元に辿り着く。
「…暴動なんか起こしてもシエルは止まらない。アナタ達は別の思惑で動いていた人間に唆されただけだ。
…この暴動に意味はない。」
リヴァイの声に対し、リーダーは瓦解する集団を見つめながら沈黙している。
リヴァイは亭主の顔を思い出し、必死に言葉を捻り出す。
「アナタを慕っている人だって、こんなこと本当は望んでいない。」
リーダーはその言葉には心当たりがあったのか、何かを悟ったように空を見上げ、深呼吸をしてから、口を開く。
「俺達は何か志を持って自警団になったわけじゃない。俺だってこんなことせずに本当はただの領民でいたかった。
けどここの領主は領民を守らない。だから俺達が動くしかなかったんだ…。」
リーダーは多くは話さず、状況を再度確認し、剣を床に置いた。
リヴァイもそれを見て状況を確認すると、信じがたいことに集団は一瞬のうちに個の力に圧倒され、大半の人間が既に立ちすくんでいた。
峰打ちで倒された人間は、腕に自信のありそうな男ばかりで、周囲の心を折るにはこれしかないと言えるほど完璧な手際だった。
自分にはできまいとリヴァイは舌を巻いたが、すぐに切り替えて改めてリーダーへと再び声をかける。
「民衆を引いてくれ、裏で動いた組織には覚えがある。情報も提供できる。今回の件は不問にするよう俺から領主には話す。」
「…最後に決断したのは俺だ。過程にいた人間に責任はないさ。
責任を取る覚悟もないまま、仲間をこんな大きなところに巻き込んだ。そんなことはあってはいけない。」
リーダーは責任を取ることだけは頑として曲げる気はない様子だった。
リヴァイはそれ自体を止めることはできないと理解し、自分の意思を伝える。
「アンタが責任を取るっていうならそれはアンタの勝手だ。それでも、それを助けに行くのは俺の勝手だ。」
「…理解ができないな。なんで赤の他人の俺にそこまで…。」
リヴァイからの提案にリーダーは少し驚いたが、同時に興味も抱き、初めて自分から口を開く。
「…俺はピトー。お前の名前は?」
「リヴァイだ。」
「…リヴァイ?
…。」
ピトーはリヴァイという名前に僅かに反応したが、その後は特に話を広げてくることもなく、取り巻きに指示を出し出頭の準備を始めた。
一方、少し時間は遡り、城に向かっていたオビは、気に入らない男と対峙していた。
オビは自警団が出払い手薄になった街で、火事場泥棒にたまたま遭遇、追いかけ、手を焼いていた。
が、オビが気に入らないのは最終的に泥棒を捕まえた男の方だった。
突然現れた男に火事場泥棒はやられ、地面に突っ伏して失神している。
オビにはシエルといた頃の記憶はある。
シエルに捨てられたという過程があり、オリジナルのリヴァイ達には因縁を感じてはいるが、本来の部分で言うとリヴァイ単体とは気が合う方だと理解していた。しかし、仲間内でも1対1では相性の悪い人間はいる。
「(…その中でも、俺はこいつがそもそも嫌いだった。)
お前の手助けなんてなくても俺は捕まえてたぜ。」
男はオビを相手にする様子もなくその場を去った。
「何もなくこの場に居合わせるはずがねぇ。気に入らない野郎だぜ…ミラ。
…お前もいずれ俺が倒す。」
オビは城へと再度向かい出した。