想像の先に
「シエルは想像したものを現実にする力を持っている」
「このことが軍にばれれば、シエルは連れていかれ戦争の道具になるだろう」
「ああ、だからこのことは俺たち五人だけの秘密にしよう…」
「おい、聞いたか?アースガルズが攻め落とされたらしいぞ…」
「…なぁリヴァイ。この先の戦い、俺たち五人だけの力で…勝てるのか?」
「…何が言いたい?」
「いや…すまない、忘れてくれ…」
「…ただいま…シエル。」
「また、お前が想像した、人形劇を見せてくれよ…」
「みんなが大好きな、お前の人形劇を…」
「うん、大丈夫だよ。またすぐに平穏な日々が戻ってくる」
「行ってくるね、シエル…」
「シエル」
「…シエル」
「おい、起きろ!シエル!!」
「…ん…そうか、僕は寝ていたのか…」
馬車に揺られながら見ていたのは孤児院の頃の思い出。もう十年も経つのか…。…思い出?
いや、あの人たちのやりとりを僕は聞いていない。
…願望か。
この期に及んで僕はまだ、誰かに止めてほしいと思っているのか?
「よくこの状況で寝れるな、さすが志願兵は肝が据わったもんだ」
僕を起こした男が、隣で余裕のない顔つきで話しかけてきた。
僕は淡々と答える。
「…死ぬわけがない」
「はっ?」
「これから僕達が行く場所は今後の世界を左右する最前線だ。起きたこと、起こしたことは全て、未来永劫語り継がれることになるだろう」
「そうかシエル、お前も英雄ってやつになりたい口か?」
受け答えをしつつ、僕はまったく上の空で違うことを考え、突拍子もない話を切り出した。
「…もしも死者が蘇ったら、いや(それは無理だったんだ)、死ぬという概念がなくなったら…この世界、あんたはどうなると思う?」
突拍子もない質問に男はきょとんとした顔を見せ、
間もなく答えてきた。
「…死ぬことがなくなったら?戦争が無意味になるかもな。そうなれば俺も戦争に行かなくてよくなる。志願兵のお前と違って、俺は大助かりだぜ」
「…そうか。けど、死がなくなれば、様々な連鎖が止まる。僕達が普段食べている牛や豚、それらは生という形を失い初めて得ることができる。ナイフや銃、この馬車だってそうだ、人を殺す用途ではなくとも、偶発的にそれを起こしうるものは死がなくなっても存在しうるのか?
今ある形のほとんど全てを失って得る生を、生と呼べるのか?」
男は変人を見るような目でこちらを見ながら、少しして言葉を返してきた。
「シエル…すまないがまったく話が見えない。何の話だ?」
正しい反応だ。
想像しても無駄なことだ。
無駄な想像だ。
けど僕は違う。
僕には想像したものを現実に生み出す力がある。
けど、生み出すものが正しいとは限らない。
だから僕は問いたい、もっと多くの人に。
世界に見られているこの戦地の最前線、
そこで僕は世界に問いかけたい。
僕はまだ、誰かに止めてほしいと思っているのかもしれない。
だから止められるのであれば、
止めてみろ。
僕はもう二度と、
リヴァイ達を失った時のようなことは繰り返さない。
この世界のあり方を
僕の想像で変えてやる。
【…
…その声は届く。
遥か遠く、
常人が想像しえない場所に。
別世界。違う可能性の世界。
そして、繋がる。
別世界にいるその男は、
墓の前で手を合わせていた。
その墓に刻まれるのは五人の名前
メイス
ラクス
ギール
ミラ
そして、シエル】
「お前が生き残る世界もあったんだな…」
男は下を向き複雑な笑みを浮かべた。
普通の人間であれば、到底理解できない、
想像しえない状況を、男は一瞬で理解した。
シエルが願い想像し、そしてそれが別世界にいる自分、そしてまた別の可能性の世界で生き残ったであろうかつての仲間たちの元に届いたことを。
「また、あいつらに会えるかもしれない…。」
男は悲しそうに笑った。男の名は、リヴァイ。
今、物語が始まる。