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同世界

令嬢の煩瑣もしくは煩累

作者: 猫側縁

なんか、いけそう。と思って書きました。

念願の短編!かけた!!




国母となるにふさわしき人間が持つべきものは幾つもある。

先ずは家柄。

王家に嫁ぐのだから、それなりの血筋で無くてはならない。

次に教養。

指標となるべき人間が、頭の弱い馬鹿では役に立たない。

次いで容姿。

人は誰しも美しいものに感情を抱かないことなどできないから。

更に魔力。

誰もが羨む程の力の使い手であれば、次代にも期待が持てるものだ。


国母とはそれらの素養が求められる。清く正しく美しいだけで成り立つ程、世界は甘くない。必要なのは実用性なのである。

だが、それらを全て兼ね備えた人間など、稀に見るどころか石ころの山から隕石を見つけるようなものだ。

だからこそ、人々は求め憧れ、焦がれる。そんな存在。


「ふう。さてと、ここまでで何か質問は?」


何故か最近、頻繁に王子が遊びに来る。

曰く球根しに来ているそうだ。……ああ間違えた、求婚だ。求婚。

今日も今日とて、執務が終わった休憩時間を狙ってこの男は現れた。……休憩時間、毎日少しずつずらしているのに、この男が現れるタイミングはいつも休憩時間ピッタリ。絶対どこからか見張られている。不愉快。


「質問なんて御座いませんけど、僭越ながら……こんな所にいらっしゃるなんて、王子はお暇でいらっしゃいますか?」

「安心してくれ。君を口説く為に毎日が忙しい」

「あら何という時間の無駄なのかしら。諦めて私の妹を娶ってはいかが?ほら、今日も今日とてあんなに目立つ可愛らしい格好をして貴方に熱烈な視線を送っておりますわ」

「王家が欲しいのはこの家の全てだけど、私が欲しいのは唯一君なんだよ。レイシア嬢」

「あら。この家であればすぐにこんな爵位と一緒に熨斗つけて王家にでもその辺の犬にでもくれてやりますのに」

「私のことが嫌いかな?」

「いいえ?ですがもうすぐ妹が暴走して貴方と結婚出来ないなら私を傷物にして社交界に2度と出られらないようにしてやると言って街に出て逆に暴漢に襲われて帰ってきて、それを見た継母がお父様を巻き込んで私を何処かの豚男爵の後妻に据えようと致しますから、早いところあのお馬鹿で可愛らしい頭の中身をしてる妹に愛想を振りまいてくださる?」


にこり、と笑って言い放てば、王子はくるりと振り返り、割と醜い顔で私を睨んでいた妹を直視し、彼女に対外用の笑顔を見せて、


「アイシャ・ロスティーヌを拘束並びにロスティーヌ現夫人を確保・拘束。彼女らの周辺情報を調べろ。抵抗するならそれこそ傷つけてもかまわん。薬の使用も許可する」


そう従者に告げると、何事もなかったかのように私に先程までの蕩けきった笑みを浮かべて、砂糖菓子のような甘さを含んだ声で、君の心配事は何1つないよ。と言ってみせた。


「私では、不服なのかな?」

「嫌い、の次は不服とお聞きになりますか…。特に貴方を嫌うような発言もしておりませんのに」

「だって君は、頷いてくれないじゃないか」

「ええ。私、先程も申し上げました通り、静かに、寿命で死にたいので、誰かと結婚するなんて死への片道切符要りませんの」

「大丈夫。君が死ぬまで。ううん、死んでも私の部屋から出す気無いから」

「……それ、最早国母がどういう人間で無くてはならないとか、要らないことでは……?」

「うん。だからただ単に、私の好みの話なんだ。私は君を愛してる。君が想像できないほどにね」

「……そんな感情を向けられるほど、私は貴方と接点があった覚えは御座いませんが……?」

「君は無くても私はあるよ。何度も何度も、君を愛し「あー、失礼ですが、そろそろ追っ手から逃れた継母が私の父に有る事無い事吹き込んで怒った父が私を売り飛ばそうと部屋に来ますわ」」「レイシア!いくら妹の方が可愛がられているからと言ってなんて事を!」


怒る父の後ろには、してやったりという顔の継母。呆れつつうしろ、と示してやれば、王子は私の後ろにある鏡で来訪者を見て、分かりやすく苛立ちを隠して笑って振り返る。すると流石に王子の顔は知っていたのか、父と継母の顔色が変わった。


「あれを可愛がってるのは頭のどうかしている方々だけと思いましたが、貴方もそうですか。では夫婦とその娘で仲良く炭鉱暮らしをどうぞ。ご心配なく。この家の当主は既にレイシアですし、曽祖父はもちろん彼女を目に入れても痛くないほど溺愛していますから、私との結婚に大賛成してくれています。ほら、誰も不幸にならないでしょう?」

「あら、大祖父様は私の気持ちを優先していいと言質を取っておいたはずなのに」

「ええ。貴女が自分の元に戻ってくるなら協力は惜しまないと言ってくれました。勿論、貴女の気持ちを最優先する為に、私にしてくれていることといえば、朝の執務と夕食前の執務以外はしなくていいように手を回してくれた事くらいですけど」

「十分過ぎません?政務を削るなんて。私、寧ろ公爵として仕事が増えてしまって城まで行く事が増えているのですけど?」

「それはレイシアが有能だからだよ?すごいね、最年少女公爵様。愛してる」


だから私と結婚しよう?と跪いて両手で包むように握った私の手に口付けた。まるで騎士か王子のようだわ。……王子だけど。


ああ、因みにこうしている間に、お父様たちは王子の部下たちによって速やかに連行されていった。情がないのかと言われれば、父親に対しては多分ある。憐憫と言う名の情ではあるが。


「……情、といえば……。先程王子は何か口走った気がしますが、何か?」

「ん?……ああ、私が君を愛しているって話かな」

「今まで生きていて、王子が私に話しかけるようになった理由についてすら心当たりがございません」

「君には無くとも私にはあるよ。だからね、私と結婚してほしいな、レイシア」

「お断りします。私は静かに、読書をしていたいだけなので」

「私と結婚したら王家の蔵書は読み放題だよ」

「大祖父様は私に甘いので、手紙を出すと直ぐに本を送ってくださいますの」

「……公爵家の仕事とか、しなくていいよ?」

「声をかければ代わりになる人間なら既に確保しておりますから、偶に息抜きできますし、公爵家の仕事は嫌いではありません」

「………………レイシ「申し訳ございません、王子。そろそろ捕縛を色仕掛けで振り切った妹がナイフ片手に私を殺しにやって来る頃です」」


バンッと音を立てて、一応身分としては公爵令嬢の筈の妹が、私の部屋に乱入してきた。その右手にはナイフが握られている。無作法極まりないと思ったけど、この子マナーの授業サボりまくってたから、普段からこんな感じだったなと、正直どうでも良かった。

なぜ公爵令嬢がナイフなんかで姉を殺しに来るかといえば、あの子、100度も繰り返しておきながら、魔法の使い方をマスターできなかったのよ。それどころか繰り返すたびに魔力コントロールは下手に、魔力量は減少していくの。彼女は喚きに喚いたけど、外では私に才能をとられたとか言って、弱い魔力をアピールしつつも、健気に頑張る姿とやらを見せて、異性をたらし込んでいた。お父様は魔力少ないし、私はお母様に似たから莫大な魔力を有しているだけで、腹違いの彼女の元々の魔力が少ないのは当たり前なのにね。


「この泥棒猫っ!私の王子様に一体何を言ったのよ⁉︎まさか繰り返しすぎてバグったの⁉︎それならまたアンタを殺してリセットしてやるんだから‼︎」


それにしても、影で日向で色々言われてきたけれど、泥棒猫は初めてだわ。

また殺して。と言うところに、おや。と思わないでも無いが、私が何か言う前に、ブチッと何か切れてはいけないものがキレたような音がした。

何だか部屋の温度が下がった気がする。


「……アイシャ・ロスティーヌ、一応聞くが、君は何をしようとしているのかな」


口調は柔らかいが、俯いているので王子の顔は見えない。ただ、口元に浮かんだ笑みに悪寒がする。


「ロイド様!ちょっと待っててください!すぐにそんな女始末して、新しく始めますから‼︎このルートでは貴方は私のなの!このルートにくるまで100回もかかっちゃったけど、多分そのせいで今回はちょっとおかしくなっちゃったから、一旦リセットしなくちゃ!大丈夫!直ぐに忘れて貴方は私を愛してるって言ってくれるんだから!」


そう言って飛びかかるように勢いよく私にナイフの切っ先を向けて突進してきた彼女は、私に届く前に、見事に転んだ。どうやら王子が彼女のドレスの裾を踏みつけたらしい。またもやおや?と思う。

顔面を打ったらしい彼女は顔を真っ赤にしつつ、何が起きたのか分からずキョトンとしているばかりである。

転んだ自分の足元、スカートを踏みつけている足、手元から離れて側に落ちているナイフ、それから私を交互に見て、最後に、スカートを踏みつけている足の主の顔を見上げて、蒼褪め、小刻みに震え始めた。


……今までで、こんな事あったかしら?


しかしどうにも、100度も繰り返すと、過程なんて然程覚えていられるものでも無い。死因と痛みは忘れないのに、おかしな話だ。

今まで、妹の犯行を手伝って私を貶めたり、殺したりする事はあっても、妹が狙った相手が私に求婚しまくることや妹に危害を加えることは一度たりともなかったのに。


目の前で見たことのない景色は続く。


「私が君を愛するだって?虫唾が走るような冗談は、例え冗談でも想像すらしないでほしいな。

幾度振り返っても君の行動は唾棄すべきものでしかなかった。漸く私のルート?とやらにしてくれた事だけは感謝するが、これまで私の愛するレイシアに100度も嫌がらせに虐めを行い、その上自分はレイシアに虐められたなどというありもしない法螺を吹聴し、剰え殺してきた。

天の神はどんな過ちですら3度は許すらしいが、100度ともなれば話はきっと別だろう。相応しい沙汰が君には下される。まあその前にこの世の地獄に入ってもらう」


王子が合図すると、扉からだけでなく天井や窓の外からも、手練れと思われる覆面たちが入ってきて、呆然とする彼女を縄で拘束していく。


「ど、うして……?私の、私の方が貴方に相応し「何故君如きが、私に相応しいと思うのか、理解に苦しむよ。私のレイシアの耳が穢れる。正直同じ部屋の空気も吸わないで貰いたい」」


王子が更に合図すると、彼女は口答えできないように口を布で塞がれた。あらら。一応鼻は塞がれてないから、ちゃんと息はできる。よかった。何度も殺されている身として、死ぬ感覚は理解できても、目の前で死人を見て平気でいられる自信はない。


「100度世界が繰り返して、唯一君がレイシアに、誰から見ても明らかに勝っていた部分を教えてあげよう」


愛想の振り撒き方?男の落とし方?

容姿……は、多分いい勝負だと思うけど。


「性格の醜悪さだ」


その言葉は、多分最高のトドメになったかと思う。何せ彼女は、何度目の世界でも、自分はこの世で一番美しくて優しくて愛されるヒロインなの。が口癖だったから。

しかも、彼女が度々、「散々殺したのにまだロイド様ルート開かないんだけど」と言っていた事から、彼女が一番気に入っていたのは王子だったのだろう。そしてその王子からの、死刑にも等しい言葉。

彼女は青褪めるどころか、その顔色は蒼白になっていた。何が起きたのか分からないと言いたそうだったが、私もよくわからない。

王子が目で退室を指示したのだろうか、彼女は拘束されたまま、連れていかれた。


「レイシア。散々邪魔が入ったけど、私は君を愛してる。それはもう、君の忘れてしまったであろう100度の君の行動を1つ残らず、1度目から詳細に述べられる程に」


どうしよう。困ったことになった。ただの色ボケ王子かと思っていたが、これはちょっと違う気がする。


「ねえ、レイシア?私は言ったよね?何度も何度も、君を愛していたんだ」


いえ。聞いてないです。王子のセリフ、全部途中で途切れてたんで。


「邪魔者もいないし、いい加減私が君を手に入れてもいいと思うんだ」


王子が何か言ってるけど、聞かないが吉だと思う。私は100度繰り返して培った機動性を駆使して、緊急事態だからと自分に言い聞かせて、3階の自室の窓から逃亡した。

焦ったように私の名前を呼ぶ声が聞こえるけど、知らんぷり。それよりも捕まる前に早く避難しなくちゃ。大祖父様に相談したら、なんとかしてくれるだろうか。

部屋から逃げる前に一瞬、前髪の分け目から見えたあの仄暗い瞳を思い出す。……うん、逃げられるだけ逃げよう。逆に逃げるのが面倒になるまでは。


だって、100度も繰り返した結末が、王太子妃なんていう面倒な役だとは思わないじゃない?

ああ、でもそう考えるなら、悪役として退場する今までは、ある意味楽だったのかな?……まあ、そうだとしても……。


煩瑣な事に変わりはないか。

読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] この王子様、主人公が100回死んでいるのを今まで阻止できなかったのはなぜなのでしょう。強制力とかで、ルートに入らないと関われないのですかね?王子様もルートに入ったことは感謝してるみたいですし…
[一言] 王子視点からしたら恋い焦がれたものが100回も(悪意で)零れ落ちる様を見ていたのだからそうなる。
[良い点] あー王子さんも100回分も記憶あるんだ。 記憶がある+主人公さんスキーのヤンデレ王子=愚妹ちゃんに憎さ万倍。 これは百回分の生き地獄(物理)を味合わされてしまいそうw 愚妹ちゃんの両手…
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