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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第四章 告白ハロウィンパーティー!(FA御礼)
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4.1 かぼちゃのスイーツ楽しみだなあ

 私、立花愛華は今すごく困っています。


 ものすごく困っています。


「そのくらい分かるっつーの」


 ううっ。

 卓也が冷たい&鋭いっ。


 リビングのソファでスマホをじっと睨んでいただけなのにどうしてわかるの?


「で、どんな衣装にするんだよ」

「うーん。やっぱり黒猫の着ぐるみにしたいなあ。……って、どうしてそこまでわかるの?」


 今週末、お友達のみっちゃんの彼氏、高須小太郎くん家で開かれるハロウィンパーティーに着ていく衣装で悩んでいたのだけれど、どうしてわかったの? まだ何にも言ってないのに。


「まあまあ。で、それにするのか?」


 向かいのソファから隣に移動してきた卓也が私のスマホの画面を覗き込んできた。


「うん。これがいいなーって思うんだけど。どうかな?」


 さっきから購入しようかどうか迷っているのは、着ぐるみというか、全身をすっぽりと覆うパジャマみたいなやつ。


 らくちんそうだし、今着ているものの上からでも重ね着できるから着脱も簡単だと思うんだ。フードに猫の耳がついているのが唯一仮装っぽい感じなんだけど……どうだろう?


「だめかな?」

「だめじゃない。これがいい。うん、これにしな」

「ほんと? よかったー」


 自分のセンスには自信がないから、卓也のお墨付きをもらってほっとした。


「今度の土曜日だろ? 早く買った方がいいぞ」

「うん。わかった」


 思いきってショッピングサイトの購入ボタンをぽちっとする。金曜には届くみたい。ああよかった。これでパーティーもへっちゃらだ。


「愛華がかわいい恰好をするのは俺の前だけでいいんだ。あいつらにはそれで十分さ」

「何か言った?」

「いーや?」


 ところで、と卓也が肩と肩とを合わせてきた。


「日曜は俺とでかけてくれるんだよな?」

「もちろん。ていうか、いつもの家族ぐるみでのお出かけでしょ? お母さんが言ってたよ。箱根に日帰りだって。温泉、楽しみだね」


 にこっと笑うと、なぜか卓也は眩しいものでも見たかのように目を細めた。



 *



 パーティー当日は高須くん家の最寄り駅でみっちゃんと待ち合わせだ。


「みっちゃん、お待たせー」


 先に着いていたみっちゃんを見つけて駆けよったら、挨拶よりも先に「どうして普段着なの?」と突っ込まれてしまった。


「これを服の上から着るんだよ」


 手持ちの袋から黒猫の着ぐるみの一部を取り出して簡単に説明すると、今度は「えー……」と残念そうな顔をされた。


「もっとかわいい恰好にすると思ってたのに……」


 そう言うみっちゃんはセクシー系の魔女さんに変身していて、実は一見してみっちゃんだとはわからなかった。


 今日は週末ハロウィンってことで、いろんなところで仮装をしている人をちらほら見かけるんだけど、その中でもみっちゃんはひときわ輝いていた。紫のサテンのミニ丈ワンピも、網タイツに膝上までのロングブーツも、いかにもな魔法使いの帽子も、同性の私ですらどきどきしちゃう色っぽさだ。


「でも私には高須くんみたいな素敵な恋人はいないし、頑張る必要なんてないし」

「へ?」

「だからいいんだ」


 全然もてない私が告白ゲームをされたのは夏休み前のことだった。広田くんっていう、当時名前だけは知っていた爽やかな男子にゲームで告白されて……ちょっと傷ついたんだよね。


 だけどそれがきっかけでひそかにいいなと思っている野田くんと仲良くなれた。


 そうそう、半月前の学園祭では告白バトルもあったっけ。バトルと名付けたのは今日のパーティーの主催者である高須くん。でも実体はゲームであることには変わりなくて、野田くんと広田くん、それにいとこの卓也まで入れて三人に演技で告白してもらうというものだった。


 あれはすごくどきどきしたなあ……。演技だとわかっていても胸が高鳴って仕方がなかった。


 だけどそれ以来、野田くんと広田くんの顔をちゃんと見れなくなってしまった。メールやメッセージもこれまでのように気軽に送れなくなったし、二人からの連絡も気づけば途絶えてしまった。そんな私に卓也は「俺と一緒にいればいいんだ」と事あるごとに言ってくる。まだ恋なんて早い、家族同士で遊んでいればいいってことなんだろう。はあ……。


「あのね愛華。こういうのは恋人がいるからするってものじゃないんだよ」

「うん、わかってる。ていうか、私にはみっちゃんみたいな恰好は似合わないから」


 似合わないし、誰も私のそういう格好を見たくないと思う。


 そう言うと「ほんと自分のことわかっていないね」と呆れたようにため息をつかれた。


 ああ、優しいなあ。みっちゃんは。でも私のことは私が一番よくわかっているから。卓也にもよく言われるんだ。「愛華のことをこんなにかわいいと思うのは俺だけだ」「俺のいないところで不必要に着飾るな。勘違い女だとバレるぞ」って。何気にひどいんだよね、私のいとこは。本当のこととはいえ、言い方ってものがあると思う。




 道すがら「今日は誰が来るの?」と訊いた。実はパーティーに招待されたはいいものの誰が来るのか全然知らなくて。


「え? 言ってなかったっけ?」


 マスカラとアイラインで強調された目をさらに大きく見開いたみっちゃんが「まずったなあ」となぜか呟いた。


「まずくないよ。高須くん家の料理は美味しいって評判なんでしょ?」

「……え?」

「ずっと楽しみだったんだあ。特に今日の目玉、かぼちゃのスイーツ! みっちゃんがそう言うから今日も衣装はお腹周りが楽なものにしたんだよ?」


 でもハロウィン用の衣装というと体にぴたっとしたものが多くて、それで選ぶのに苦労したのだ。


「さ、今日はいっぱい食べようね!」


 ぐっとこぶしを握ってみせる。

 もう頭の中は食べ物のことでいっぱいだ。


 そんな私だからみっちゃんが頬をひきつらせていることには気づかなかった。



 *

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