3.6 告白ナイト??
そして夜。
校庭の中央ではキャンプファイアーの炎が空高く燃えている。闇色の中、炎の色がひと際映えてとってもきれいだ。赤、オレンジ? ううん。あれは真紅だ。昼間着たプリンセスドレスの色そのものの深紅色だ。
炎の周りにはカップルがたくさん集まっている。ちらほらと知っている顔もあって、見ているだけで興味深い。
「ねね、野田くん。あそこ見て。谷田くんと宮川さんってカップルなんだね」
隣に座る人を見上げると、野田くんは「あ、ああ」と曖昧にうなずくだけだった。
んもう。野田くん、体調が悪いのかな。さっき待ち合わせ場所で会ってからずっとこんな感じなのだ。目も合わせてくれないし表情が硬いし。昼間の反動で力が抜けてしまった私とは大違いだ。すっかりいつもと立場が逆転している。
「ね、写真撮らなくていいの? そのためにさっきの告白バトル頑張ったんじゃないの?」
「……え?」
「野田くんってほんとまじめだよね。クラスメイトのいい写真を撮るためにあんなふうに頑張っちゃえるんだもん。尊敬しちゃうよ」
ややあっけにとられた顔になった野田くんは、やっぱり調子がよくないのかもしれない。
「あ、もし調子が悪いんなら私が撮ろうか? スマホでよければ、だけど」
ポケットからスマホを取り出したら、ずっと直接言いたかったことが素直に口からこぼれた。
「あ、あのね。……いつも写真送ってくれてありがとう」
「……立花さん?」
「毎日送ってもらって迷惑かけてるんだろうなって分かってはいたんだけど、素敵な写真が嬉しくてなかなか言えなかったの。……それに野田くんから連絡が来るのも嬉しくて」
最後にこれを付け加えるのはすごく勇気がいった。
「だから……よかったらこれからも写真送ってくれる?」
「あ、ああ。もちろん……!」
野田くんがようやく私のことを見てくれた。
あ、少し元気になったみたい。よかった。
そうやってしばらく見つめ合っていたら――急に恥ずかしくなってきた。
「昼間、ほんと緊張したね」
ぱたぱたと手で顔をあおぐ。
「あんふうに大ごとになってびっくりしたけど、あれから喫茶店の売れ行きもよかったみたいだしやってよかったよね。もう一回やれって言われたら困るけど」
と、手の中にあるスマホが震えた。
「あ、卓也からだ」
「従弟の?」
「うん。ふふ。早く帰って来いって。今日はうちに泊まるんだって。あ、卓也ね、うちのお母さんの料理がすごく好きなの。だからしょっちゅううちに遊びに来るんだよね。それに妹が欲しかったみたいで私に対してすごく過保護なの。……とと」
またスマホが震えた。
「あ、今度は広田くんだ」
「広田っ? どうして立花さんの連絡先をあいつが?」
「あのね、終業式の日に偶然会ったの。……あ」
「どうしたの」
「う、うん。明日会いたいんだって」
「会う?」
「うん。もうずっと会ってなかったし明日くらいは家族のお出かけはさぼろっと。あー、でも卓也に文句言われそうだなあ……。どんなお土産買って帰ればいいかなあ……」
「ちょ、ちょっと待って。それどういうこと?」
「え? えーと……」
そういえば……広田くんの本当の姿を野田くんは知っているのだろうか。
勝手に言ったらいけないだろうと口を閉ざしたら、野田くんは私との距離をぐっと詰めてきた。
「どうして秘密にするの」
「……えーと」
「さっきの言い方だと広田と出かけたことがあるってことだよね」
「う、うん」
「いつ」
「夏休みだよ」
「どれくらい」
「……うーん」
指折り数えていくと両手で折っても足りないくらいだった。
「……あの野郎。俺がいない隙に」
「あ、でも広田くんには広田くんの都合があるというか」
あれれ。広田くんに秘密にされたことがそんなに悔しいってことは……二人はやっぱり友達なんだね。でも友達同士でも言えないことってあるだろうし……困ったなあ。どうしよう。
「ね、立花さん」
「は、はい」
「俺、さ」
急にあらたまった声を出した野田くんの雰囲気は昼間の告白バトルを彷彿させた。自意識過剰すぎるとは分かってはいるけれど、思わず息を飲んでしまった――その時。緊張感のない曲がスピーカーから流れ出した。
「それでは今年の文化祭は終了しまーす」
文化祭実行委員の終了宣言が聞こえた瞬間、ごちゃごちゃしていた頭の中が一気に整理された。
「まだ写真全然撮ってないよ! 野田くん、急ご!」
「た、立花さん?」
無意識で野田くんの手をとっていることに気づくことなく――私は野田くんの手を引いてみんなが囲む炎に向かって駆けていったのであった。
第三章は遥彼方様の「紅の秋」企画参加作品です。
この機会がなければこのお話は生まれていませんでした。企画ありがとうございましたm(_ _)m