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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第三章 告白バトル!
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3.5 告白バトル!

 そして二年一組に場所は移る。


 私はなぜか自分で縫った真紅のプリンセスドレスを着せられて教室の中央に置いた椅子に座らされていた。


 その隣にはノリノリで語る高須くんがいる。


「はいはい、お待たせしました!」


 しかも私の目の前には王子様の衣装に身を包んだ三人の男子がいる。

 どうしてこうなったの――?


「勝負は簡単です。こちらのプリンセスに今から一人ずつ王子に扮した男たちに告白してもらいます! 誰がプリンセスの心を一番動かすことができたかで勝負は決まりまーす!」


 やおら高須くんがポケットから手のひらサイズの機械を取り出した。


「これは非接触タイプの温度計測器です。これで告白前後のプリンセスの頬の温度を測ります! 温度変化が一番大きかった人の勝ち、というわけです!」


 えーと、高須くん。

 どうしてあなたはそんなものをポケットに入れているの?


「それだと一番最初に告白した人間が有利だろう」


 広田くんの疑問に野田くんが答えた。


「いいや。すでに立花さんは相当興奮しているから誰もが同じ条件だろう」


 ううう。確かにさっきからほっぺがほてっているけど、それを興奮って。ちょっと恥ずかしいよ。


 でも確かに私は興奮していた。だって三人ともとてもかっこいいのだ。広田くんは白を基調としてゴールドの飾りを添えた衣装なんだけど、ほんと爽やかな王子様って感じだ。でも黒を基調として赤の飾りを添えた衣装をまとう野田くんもものすごく似合っている。王子様の衣装をこれほどまでに着こなせるなんて、二人とも一体どういう生活を送ってきたらそうなるんだろう。


 しかも卓也も卓也のくせにすごくよく似合っている。深緑のサテンは冒険かなと思いながら仕立てたのだけど完璧に着こなしている。道着姿とかラフな普段着姿しか知らなかったけど、こうして見ると驚くほどかっこいい。


 うん、そう。実は三人の衣装も私がデザインし仕立てたものなのだ。


 自分が作ったものをこんな風に素敵に着こなしてくれている三人の男子。これで興奮するなっていうほうが無理があるんじゃない?


 なんでまた告白バトルなんていう遊びをすることになったのかはよく分かっていないし目立つのはすごく嫌……なんだけど。間近で三人の姿を見ていられるのは正直とても嬉しかった。


「ところで今回のバトルですが、立花さんに触れたら即負けですからね! 言葉と身振り手振りだけで闘うこと、それが条件です!」


 私の頰の温度を機械で測りながらも高須くんは説明を続けていく。


「あと王子とお姫様っていう設定は必ず守ってくださいね! それと勝負は三分です! 三分たったらストップをかけます! はい、では誰がトップバッターになりますか?」


 高須くんの問いかけに卓也が手をあげた。


「じゃ、まず俺から」


 教室の中にも外にも人がたくさんいて、ざっと数えても百人くらいいそうなのに、さすがは卓也、勇気がある。年上相手に堂々としていて、ほんと中学生とは思えないよ。


 卓也は私の正面に立つと、じっと私のことを見つめてきた。


「お前のことが好きだ」


 長い沈黙からのいきなりのストレートな台詞に、外野が一斉にざわついた。「おおー」「カッコいいな」と感嘆のため息がそこかしこから聞こえる。私も同じ気持ちで、嘘だと分かっていても頬がぽぽっと熱くなった。


 卓也の力強い光を放つ瞳に――吸い込まれそうになる。


「ずっと好きだった。お前のことをずっと見てきたのは俺だ。お前を護れる男になりたいと、それだけを願ってきたんだ。今の俺があるのはお前のおかげなんだ」


 力強く語られていく台詞のすべてにキュンキュンする。うう、まずい。従弟なのに、ただの台詞のはずなのに自分自身に言われているようにぐらぐらしてきた。勘違いしちゃいそうだよ……。


「どうかこの手をとってほしい。俺にお前を護らせてほしい。お前だけなんだ、俺のプリンセスは……!」


 卓也が大きな声で言いきると、きゃああ、と何人かの女子がかん高い声をあげた。私も外野だったらきっと同じように叫んでいただろう。卓也のくせにほんとかっこいい。でも何とか我慢した。


「はいはい、三分経過ー! トップバッターありがとうございました!」


 高須くんが大きく手を振りながら私と卓也の間に無理やり入ってきた。


「ちょいワイルド系の王子、なかなかよかったんじゃないですかー?」


 すかさず高須くんが私の頬に機械を向けてきた。


「なるほどなるほど。はい、では次に行きましょう!」

「……まったく、小太郎ったら調子に乗りすぎ」


 ずっと腕を組んでしかめっつらをしているみっちゃんがぼそっとつぶやいた。


 ああ、彼氏が文化祭デートそっちのけで盛り上がってたら彼女としてはちょっと嫌だよね。ごめんね、みっちゃん。でも私にもよく分からないの。どうしてこんな騒ぎになっているのか。


「じゃ、じゃあ俺が……」


 やや緊張した面持ちで広田くんが手をあげると、正面に陣取っていた大勢の男子が一斉に拳を突き上げた。


「頑張れ広田っ!」

「お前のすごさを見せつけてやれっ……!」


 あ、見覚えのある顔ばかりだ。そうだ、みんなテニス部の人だ。


 広田くんは私の前に立つとごくりと唾を飲み込んだ。すごく緊張しているようだ。


 と、気づいた。広田くん、本当は私みたくこういう目立つことが苦手なんじゃないかって。友達の手前頑張っているけど、本当はこんなことしたくないんじゃないかって。


 広田くん、と言いかけて慌てて口を閉ざした。


 そうだ、今はお姫様と王子様という設定で振舞わなくてはいけないんだった。


「あ、あの。王子、様」


 ひえー。現実でこんなことを言う日が来るなんて思わなかったよ。

 呼びかけに広田くんがはじかれたように顔をあげた。


「あ、あのね。無理しないでね。無理、しなくていいから」

「え……?」

「広田くんの気持ち、分かってるから。だから無理しなくていいから」


 やっぱりなんでこんな状況になっているか分からない。告白バトルっていったいなんなの? 一体こんなことをして誰が得するの? 喜ぶの? 告白って本当はゲームやバトルにしていいものじゃないよね。大切な言葉は大切な人にだけ伝えるべきだよね。


 精一杯の思いを込めて見つめると、察してくれたのか、広田くんがはっとした顔になった。と思ったら、なぜか感極まったように涙ぐんだ。


「ありがとう。やっぱり君は俺にとってたった一人のお姫様だよ……」


 分かってるよ。他の誰にも素の自分を見せられなくて、それで辛かったんだよね。イケメンだからって嫌な役回りばかりさせられて……辛かったよね。


 しっかりと広田くんの目を見つめてうなずいてみせると、広田くんは静かに目を閉じた。


「……うん。もう大丈夫。君から勇気をもらったから大丈夫だ」


 それから閉じていた瞼を開けると、広田くんは魔法にかけられたかのように凛々しい顔立ちになっていた。そして広田くんは私の前に片膝をついた。まさにすべてが王子様そのものの所作だった。本物の王子様になんて会ったこともないけれど……そう思った。


「姫、私はあなたをずっとお慕いしておりました。あなたを一目見たその日から、私はあなたのことばかりを考えております」


 よどみなく紡がれていく甘い言葉に、私の胸が素直にきゅんと鳴った。え、広田くんってもしかして演劇経験あるの? 即興でこれってすごすぎない?


「昼も夜もあなたを思わない時はありません。そしてあなたと過ごす時のなんと甘く美しいことか……。日々はバラ色になり、私にはもうあなた以外の人は見えません。どうかこの手を取っていただけないでしょうか。あなたのことをきっと幸せにしてみせます」


 片手を胸に添え、もう片手を私に差し出してきた広田くんは、これ以上はないくらいにかっこよくて胸が震えた。


 考える間もなく手が前に出かかったのと、外野の女子がまたきゃあきゃあ叫びかけた、その時。


「うおおおおー!」


 野太い雄叫びが一斉にあがった。テニス部の男子たちだ。


「さすがだよ広田あ!」

「俺はお前に感動した!」

「感動を……感動をありがとよおお!」


 むせび泣いている人までいる。


 びっくりしすぎて固まってしまった私の前に、高須くんがどや顔で割って入ってきた。


「はいはーい! 三分たちましたよー! 正統派の王子、また違ったいい感じの告白でしたね!」


 そしてまた私の頬にぴっと機械を向けて。


「おおー、こちらもなかなかいい結果ですね。では最後、いってみましょう!」


 それに野田くんが小さくうなずくのが見え――私はさっき伸ばしかけていた手を胸の前でぎゅっと握った。


 ゆっくりと前に出てくる野田くんに、あれほど騒がしかったみんながしんと静まり返った。一歩一歩前に出てくる野田くんのことをみんなが注視している。それは私もだ。野田くんとの距離が近づくたびに緊張で心臓が痛くなってきた。あれ、どうして野田くんの時だとこんなにドキドキするんだろう。


 野田くんは私の前で立ち止まるとそっと自分の胸を押さえた。


「……はじめてあなたを見たその日」


 語り出しはとても静かだった。だけどその分抑えきれない感情を感じられる始まりだった。その証拠に誰もが固唾を飲んで野田くんを見つめている。


 それはもちろん――私もだ。


「こんなにも可憐な人がいるのだととても驚いた。思わずその場であなたの姿を描いたほどに」


 ああ、さすがは野田くん。写真を撮る人はこういう時にも芸術的な表現ができるのだ。


「あなたとすれ違うたびに、遠目から見かけるたびにこの胸は高鳴った。話したこともない人にどうしてこんなに惹かれるのか、分からなくて苦しかったこともある。……好きになってはいけない人なのに」


 野田くんが小さく目を伏せた。

 だがそれは一瞬のことで、顔を上げた野田くんはしっかりと私を見つめた。


「あなたとはじめて言葉を交わした日のことは今でも覚えている。その時確信した。あなたを想うこの気持ちは真実なのだと」


 目を逸らせない。怖いくらいまっすぐに見つめてくる野田くんから――目を逸らせない。


「そしてあなたはこの心にためらうことなく触れてくれた。美しいとそう言ってくれた。……確かに人は誰一人同じじゃない。そのことに傷ついたこともある。想いを共有できずに苦しんだこともある」


 ああ、きっとこの言葉は野田くんの本心だ。気づくと胸が締めつけられた。広報委員になって初めての作業の時、野田くんが言っていたのだ。写真を撮るのは好きだけど自信がない……と。


 でも見せてもらった野田くんの写真はどれも本当に素敵だった。色も光も構成も、何もかもが素晴らしかった。だから私は野田くんに正直な感動を伝えた。その時の野田くんは傷つく直前のような顔をしていたけれど――傷つく必要なんてどこにもないのだと、あなたの写真は素晴らしいのだと、引っ込み思案の私にしては珍しく言い募ったのだった。


 三人の告白はどれもただの演技、バトルという余興でしかない。野田くんの告白も、だ。分かってはいる、分かってはいるけれど――あの日の野田くんの表情の変化を思い出してしまうと切なくて仕方がない。曇天が一転して晴れ渡ったかのような、そんな心からの笑顔を思い出してしまうから――。


 野田くんは真摯に語り続ける。


「だがあなたには強い共感を覚える。違う人間なのになぜか強く惹かれる。これほどまでに心惹かれる人は……あなたしかいない。あなただけだ」


 野田くんが胸を押さえていた手を私に差し伸べた。


「どうかこの手を取ってほしい」

「あ……」


 私、さっきからおかしい。

 操り人形のように手が伸びていく。


 誰か私に魔法をかけたの?

 どうしてこの手は野田くんに向かって伸びていこうとするの――?


「はいはい、終了でーす!」


 高須くんの声で夢から覚めたかのように体が動かなくなった。伸ばしかけた手をもう一方の手で握りしめて引き寄せる。心臓がどくどくと跳ねている。


 高須くんが止めなかったらきっと――。


 高須くんは私の頬の温度を計測すると、「皆さん、結果を発表します!」と厳かに切り出した。


「三位は――従弟の卓也くん!」


 途端に卓也がむっとした顔になった。負けず嫌いだから内心すごく悔しいんだろう。あとで美味しいものを食べさせてご機嫌とってあげなくちゃ、と思っていると、高須くんが続けて結果を告げた。


「二位は――広田!」


 うああああ、とテニス部の男子たちが一斉に崩れ落ちた。まるで我が事のように嘆き悲しみだす様子に、私はもう告白ゲームの件で彼らを責める気にはならなかった。うん、これに懲りたらもう広田くんのことそっとしておいてあげてね。


 広田くんは半ば放心していた。


 広田くん、大変だったよね。本当にお疲れ様でした。ね、また今度一緒にお出かけしよう? 可愛いものをいっぱい摂取すればきっと元気になるはずだよ。


 高須くんが続けて叫んだ。


「そして一位は……野田っ!!」


 その名が呼ばれた瞬間――ひときわ大きい歓声があがった。

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