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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第三章 告白バトル!
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3.4 告白バトルの開催だあ!

「ね、これでほんとに解決するの?」


 卓也の隣を歩くのは居心地が悪くてたまらない。人目を惹くルックスだから、隣を歩いているだけで注目を集めてしまうのだ。この夏、広田くんと散々出歩いたから耐性がついたかと思ってたけど……全然だめだ。


 だが卓也はいたってのんきだ。


「ああ。俺に任せておけって」

「ね、私やっぱり心配だよ。二人のお誘い断っちゃったんだよ? すごくひどいことしちゃったんだよ?」


 言いながら泣きそうになってきた。


 一度は請け負ったことだったのに、私は野田くんのお手伝いを断ってしまった。最低なことをしてしまった。それに広田くんのことも。自分を飾り続けてしんどいんだとヘルプを送ってきたのに……断ってしまった。他に助けてくれる人はいないというのに。


 しかもお断りして以来、二人からの連絡がぱったりと途絶えている。


「ね、ほんとに大丈夫なんだよね?」


 シャツの裾を引っ張ると、前を歩く卓也は斜め後ろにいる私の方を振り向いた。なぜか笑顔で。


「……どうして卓也が楽しそうなの」

「え? だって愛華とこうして歩くの久々だからさ。さ、手をつなごうぜ」

「どどど、どうして」

「かわいいなあ愛華は。ま、ここまで来たら大船に乗ったつもりでいろって」


 強引に手を取った卓也はすたすたと校舎に入っていった。


「わ、あの人なんかよくない?」

「ね、どこの高校の人かな。ザ・男って感じでたまんないよね」

「ああ、でも彼女いるんだ。残念ー」


 わいわいと人が群れる廊下を突っ切っていくと、歩くたびにいろんな声が耳に入ってくる。


「卓也っ。やっぱり恥ずかしいよっ」


 中学生のくせに私よりも大人っぽい卓也といると、自分が地味だということを自覚させられて困ってしまうのだ。卓也は悪くない。悪くないんだけど……。


「気にしない気にしない」

「でも私、こういう目立つこと嫌いだもん。知ってるでしょ」

「でも目立たないと二人のことは解決しないぞ」

「……そうなの?」

「そうなの! もうちょっと俺のこと信じろよな、ったく」

「う……うん」


 ためらいながらもうなずくと、「いいこだ」と頭をなでられてしまった。


 卓也は私を年下扱いするのが好きなのだ。どうやらお兄ちゃんと妹という設定に憧れがあるらしい。「愛華のこと守りたい」「年下扱いされるのは嫌だ」なんてよく言ってるから、きっとそうなんだろう。最近は言わなくなっていたけれど。


 でも卓也といると本当に目立つんだよね。空手で全国大会に出場するだけあって体ががっちりしてるし、顔つきも中学生には全然見えないし。それがどうにも気になっちゃって……自分勝手なのは分かっているけれど、気づいたら距離を置くようになっていた。


 でも卓也はそれから平日の夜は決まって我が家に食事を摂りにくるようになった。両家の親を丸め込んでしまうあたり、さすがは文武両道で名高い中学に通っているだけのことはある。ま、家の中でなら落ち着いて過ごせるからいいんだけど。


 でもこれで卓也とはほとんど毎日一緒にいることになってしまった。元々日曜日は卓也と私の家族同士で遊ぶのが習慣となっているからだ。


「ね、卓也はなんで彼女作らないの? 部活が忙しいからなの?」

「はあ?」


 ああもう、そんなふうに睨まないでよ。


「家族ぐるみの付き合いなんてさ、卓也は気にしなくてもいいんだよ。そろそろ自分のしたいようにしたらいいのに」

「……それができたら苦労しないって」

「え? なんて言ったの?」

「いいや? さ、行こうぜ」


 くん、と手を引かれたその時。


「待て……!」

「立花さん、待って!」


 目の前、角を曲がって突如現れたのは野田くんと広田くんだった。

 二人で仲良くバスケでもしてたんだろうか、シャツは崩れてるし髪は乱れてるし、全身で息をしている状態だ。


 いつもクールな野田くんが、額から流れる汗を腕で乱暴にぬぐうや叫んだ。


「立花さんっ!」

「は、はい!」


 思わず姿勢を正したくなる言い方は、さすが野田くん。


「そいつ誰っ……!」


 息を整えながらの追求に、私はいつものごとく素直に答えようとした――のだが。

 その前に卓也に肩を抱かれていた。


「いつも一緒にいる関係って言えば分かる?」

「な、なんだと?!」

「昨日も一昨日も俺たち一緒にいたもんな。な、愛華」

「う、うん。そうだね」


 昨夜の夕食はとんかつ、その前の夕食はチキンカレー。うちのお母さんの料理はいつだっておいしい。そりゃあ卓也が毎日我が家に来たくなるわけだ。


 というか、卓也は家でも外でもスキンシップが多いから困る。案の定、周りの注目を余計に集めてしまって周囲に人だかりができてしまった。ほんと、自分が目立つタイプの人間だってことを自覚してもらわなくちゃ困る。


 そこに突然割り込んできたのはみっちゃんの彼氏の高須くんだった。


「ちょーっと待ったあ!」


 人をかき分け飛び出てきた高須くんの後ろから、遅れてみっちゃんも飛び出してきた。


「あれ、みっちゃん?」

「愛華、ごめんっ。ちょっと小太郎、走るの早いって!」


 あれれ、こっちの二人もバスケしてたのかな。みっちゃんが膝に手をついてはあはあと息をしている。対する高須くんはさすが陸上部、軽く息が乱れているだけだ。


 たくさんの人に囲まれている中で高須くんがびしっと卓也のことを指さした。


「そいつは立花さんの彼氏なんかじゃない! ただの従弟だ! しかも中学生! な、立花さん」

「う、うん。そうだよ。卓也が彼氏だなんてそんなのあり得ないよ」


 みっちゃんたら高須くんに何をしゃべったんだろう。まさかほとんど話したことのない高須くんから卓也のことを訊かされるとは思ってもいなかった。


「おいお前! 立花さんが天然女子だからって適当なことを言うな!」


 あれ? 何か変なこと言われてる気がするんだけど……気のせいかな。


「ちっ」


 あれ? 卓也、なんでそこで舌打ちするの?


 しかも野田くんと広田くんからは不穏な空気が発せられている。それって怒ってる? ねえ、怒ってるよね?


「あのあのっ。野田くん。広田くん。ごめんなさい!」


 何事も誠実に。私は急いで頭を下げた。


「あのね、実は二人から文化祭誘われちゃってどうしたらいいか分からなくなっちゃったの。そしたら卓也が家族と一緒に過ごす方を優先したってことにすればいいんだって言うから、それで……」


 途端に周囲がざわついた。「えっ、野田って立花さん狙いだったのか」「広田くんも立花さんが好きだったの?」「俺、広田が図書館で告白してたの見た」「えええっ! マジ?!」とか、全然見当はずれな声が至るところから上がる。


「違うよ、そういうことじゃないよ!」


 二人は私のことを恋愛対象として見ているわけじゃないんだよ?

 それに一学期のことは告白ゲームだったんだよ。冗談だったんだよ?


 でも私がどんなに否定しても、声が小さいせいで聞いてもらえなかった。


 しかも広田くんと野田くんがにらみ合いを始めた。


「広田、お前また抜け駆けか?!」

「そっちこそどうなんだ! こそこそとせこいマネをするな!」


 ――その時だった。


 高須くんが「それではこうしよう!」とひときわ大きい声を発した。

 さすがはみっちゃんの彼氏、その一声で誰もが口を閉ざした。

 大勢の注目を集める中、高須くんが堂々と言い放った。


「では勝負をしよう。立花さんとキャンプファイアーで一緒に過ごせる権利を賭けて告白バトルをするんだ! 高須小太郎の名の下、本日これより告白バトルを開催する……っ!」


 こぶしを突き上げ高らかに宣言すると、もうこの場は高須くんの独壇場になっていた。


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