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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第三章 告白バトル!
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3.1 がんばります!

こちらからが「紅の秋」企画参加作品です。

全6話構成です。

 いよいよあさっては文化祭だ。


 私の通う高校では一週間前から通常の授業を準備のために充てる力の入れようで、今日なんて校内は朝からてんやわんやの大騒ぎだ。地味な私もさすがに少しは忙しくなる時期、それが秋だった。


 私が関わっているのは二つ。


 クラスの企画、プリンセス&プリンス喫茶では衣装制作を担当した。お姫様と王子様に扮したクラスメイトがお客様にクッキーとドリンクを給仕をするんだけど、その衣装を何枚か制作したのだ。私みたいに表舞台に出ない人たちも、メニューの準備だったり仕入れだったり、何かしらの役割を与えられていた。


 もう一つは手芸部の展示の準備で、今年はクッションカバーに刺繍をしている。うん、そう、実は私の数少ない特技は手芸なのだ。


 黙々と針を動かしているとそれだけで心が落ち着く。自分一人の世界にこもっている方が楽だから。そうは言ってもミシンの鳴る音も裁断ばさみで布を切る感触も好きで、手芸全般は心から好きだ。完成品を使う日々は毎日を丁寧に生きている気分になるから心地いいし。


 喫茶店のための衣装の方は一週間前にはできあがっていた。残る部活用のクッションカバーも今夜家で縫えば余裕で仕上がる。だから文化祭当日はのんびりできそうだった。


「でも何をして過ごそっかな……」


 私はさっきからそれに頭を悩ませていた。


 教室ではもうやることがなくて、居心地が悪くて逃げ出してきた。でも他に行くところもなくて、校内を一人さ迷っている。


 こんな私にも女友達なら一人いる。みっちゃんだ。幼馴染のみっちゃんはクラスは別だけどお昼ご飯を一緒に食べてくれる大切な女の子。


 でもみっちゃんには高須くんっていう素敵な彼氏がいるから、文化祭で一緒に回るのは無理なのだ。……となると一人で過ごすしかなくなる。ぼっちにとって、学校行事って試練みたいな側面があるよね。


 気づけば人気のない理科室のあたりまで来てしまった。そこで窓枠に肘をつき手に顔を載せると、遠く向こうに山々が連なる様が見えた。夏に比べて全体的に色味が落ち着いてきて、爽やかさよりも哀愁みたいなものを感じられる。あ、もしかして私がそういう気分だからそう見えるんだろうか。でも吹く風に感じられる冷ややかさからも秋の匂いを感じられるから、きっと真実なのだろう。……うん、そう思いたい。


 わが校では秋といえば文化祭、文化祭といえば一番楽しい行事……のはずなのに。私一人が秋をうまく楽しめていない。


「ほんとどうしよっかな……」


 昨年は手芸部の展示の受付をずっとしていられたからよかったけれど、今年は下級生がいるからしなくていいんだそうだ。


 本格的に頭を抱えだした――その時。


「立花さん」


 意外な人に声をかけられた。


「あれ? 野田くん、こんなところでどうしたの?」

「それは俺の台詞。立花さんこそどうしたの」

「え、えっと……」


 口ごもってしまったのは独りぼっちがさみしかったからなんて言えないからだ。それに野田くんのことを意識してしまっているのも理由。夏休み直前、野田くんのことを好きかも、と思ってからは広報委員の仕事の時でも、面と向かってだとうまく話せなくて困ってる。だって野田くん、広田くんの告白ゲームに便乗して私に「好き」なんて言うんだもん。普段まじめな人なのにちょっとひどいと思う。……でも本人を批判する勇気なんてさらさらなくて。


 うーん、恋する女の子ってみんなこんなふうになっちゃうのかな。何が冗談で何が本気か分からなくなるし、ちょっと好意めいた言動をされると過剰に反応しちゃうし。


 だとしたら恋ってどうやったら成就できるんだろう。普段どおりに接することもできなくて、ほら今も目が合っただけで緊張しちゃうのに、一体どうやって?


 野田くんは私のことを束の間じっと見つめていたけど、目を伏せると小さく笑った。


「そうだ。立花さんって文化祭当日は時間あるよね」

「うん、あるよ。どうしたの急に」


 相変わらず推理がうまいな、と思いつつも素直に答えると、野田くんがちょっと言いにくそうに切り出した。


「当日、さ。撮影の手伝いをお願いしてもいいかな」

「撮影って、広報委員の撮影のこと?」


 私たち二人は広報委員なんだけれど、野田くんはこういった行事での撮影を一人ですべて請け負ってくれている。野田くんは元々写真にすごく力を入れている人で、一学期もクラスメイトの様々な表情をばっちり写真に収めてくれた。


「でも私なんかで野田くんの役に立つことがあるのかなあ」


 野田くんは一人でなんでもできる人だし。


 でも野田くんは意外にも力強く言い募ってきた。


「立花さんと一緒に回りたいんだ。それにほら、女子の目線からいいなって思う場面を教えてくれれば、いつもよりもいい写真が撮れると思うし」

「本当に? 本当にそれだけでいいの?」

「うん。俺だけだとどうしても被写体が偏っちゃうからさ。それで……できれば最後のキャンプファイアーまで一緒にいてほしい」


 珍しく熱を込めて語る野田くんは、本当に写真が好きなんだな、と思う。


 だって野田くん、この夏休みもずっと撮影のための旅行をしていたくらいなのだ。実はその写真の一部は私のスマホにも入っていたりする。素敵な素敵な写真ばかりが。


 なんでそんな奇跡が起こったのかというと、終業式で野田くんと連絡先を交換したからだ。講堂から教室に戻る途中、最後尾をぼんやりと歩いていた私に野田くんが声をかけてくれた。写真に興味あるんだよね。俺の撮った写真送ってもいい? 連絡先教えて? って。告白ゲームの後の気まずさなんて野田くんの方には一切なかった。


 私やっぱり意識しすぎてたんだ、それにそんなにいつも物欲しそうな顔をしていたのかな、といろいろ気になりつつも野田くんの好意に甘えたら、なんと野田くん、旅行先から毎日欠かさず写真を送ってくれたのだった。


 あ、そうか。

 相変わらずの回らない頭ではたと気づいた。


 文化祭で撮影のお手伝いをしたら野田くんの役に立てるってことだよね。そしたら写真のお礼ができるってことだよね。


 だったらぜひとも手伝わせてもらおう。きっと微力だとは思うけど。


「うん、分かった。じゃあ文化祭の間はずっと野田くんのそばにいるね」


 両手を握りしめて「がんばります」のポーズをとってみせると、野田くんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

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