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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第六章 初デート!(FA御礼)
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6.5 恋人の秘密:野田視点

「うわ……まじか」


 俺、恋をするとこんなにかっこ悪い人間になるのか。


 それは十七年生きてきて初めて知る事実だった。


 どちらかという顔に感情が出ない方だと自負していたのだが、恋愛に関しては違うようだ。恋をするのもつきあうのも立花さんが初めてだから、仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど……ああでも、好きな女の子の前でこれは恥ずかしすぎる。


 はああ、と深いため息が出た。


 頭をくしゃっとかきむしると自然と苦笑いが浮かんだ。


「ごめん、立花さん。心配かけて」

「それはいいの。だって……その、私達恋人なんだから」


 ごにょごにょとつぶやく立花さんの目がちょっと泳いでいる。自分で言っておいて照れくさいんだろうな、きっと。


「俺、今日はほんとに元気だから。だから大丈夫。顔が赤いのは、その」


 あ……確かにこれは恥ずかしい。


 でもここできちんと伝えないと立花さんには伝わらないだろうから、恥ずかしさを乗り越えてしっかりと言葉に出す。「初デートに浮かれているだけだから」と。


 きょとんとした立花さんに、言葉を換えてもう一度言う。


「立花さんと一緒にいたら楽しくて、幸せを実感して。嬉しくて。そういうのが顔に出てるだけだから。だから俺は元気。というか絶好調。こんなに調子がいいのは人生で初めてかもしれないってくらい」

「そそそ、そうなの?」

「うん。でもポカリ、ありがとう。喉が渇いてたからすごくおいしい」


 にこっと笑うと、立花さんの頬がぽぽっと赤く染まった。


「立花さんも赤くなってる」


 仕返しとばかりの手鏡の鏡面を向けると、立花さんは両腕で顔をかばった。


「やだあ……」


 ちょっと半泣きになってしまった。でもそのうるんだ瞳で見上げられても怖くなんてない。ただひたすらかわいいだけだ。


「さ、そろそろ行こうか」


 あらためて手を差し出す。


 立花さんはしばらく俺のことをかわいく睨んでいたけれど、やがておずおずと手をとった。



 *



 それからは二人で楽しく動物を見て回った。


 動物について語って、写真を撮って。


 もちろん、お互いの話もした。学校のこと、勉強のこと。家でのこと。他にもいろいろ。あらためて購入したソフトクリームを食べ終えてもしばらくベンチで話し込んでしまうくらいには。


「この動物園には物心ついたときからよく来てるの」


 コーンをかじりながらはにかむ立花さんは最高だ。


「よくパパに肩車してもらったなあ。あ、もちろん今はちゃんと自分の足で歩いているからね?」


 そんなの当たり前だなんて、立花さんには口が裂けても言わない。そういうところもかわいいのだから。


 天然で、おっちょこちょいで、勘違いしまくりで。想像の斜め上どころかはるか上を行くような立花さんの言動に俺はしょっちゅう振り回されている。今日だってそうだった。


 だけど俺も含めて誰にだってそういうところがあると思うのだ。なんでこんなことで怒り出すんだ、とか、なんでこの程度のことで泣くんだ、とか。理解できない他人の言動に直面し、唖然とすることはしばしばある。俺もきっと誰かにそう思われたことがあるんだろう。自分では普通だと思っていても、ある人から見れば異常に思えることは得てしてある。


 立花さんを見てると誰しも同じじゃないんだなってあらためて思うのだ。


 でも同じところもある者同士なんだなと思う。


 ごく当たり前の話なんだけど。


 そして俺にはなぜかとても好ましいのである。俺と立花さんとの共通点、そして相違点のバランスみたいなものが。


「そういえば、立花さんは最近はいつここに来たの?」

「えーと、昨年の夏かな」

「ご両親と?」

「ううん。広田くんと来たの。……とと」


 あわてて口をふさぐ仕草は明らかに『言ってはいけないことを言ってしまった』と自覚しているからだ。


 立花さんはしばらくの間口元を強く押さえつけていた。眉をしかめながら。でもやがてその眉を下げ、口を覆っていた手をそっと下ろした。困ったような表情で。


「……野田くんは恋人が何か隠していることがあっても大丈夫な人?」


 ひどく難しい問いかけをされ、一瞬悩んだ。


 でも立花さんと接するコツは素直に伝えること、それに尽きる。


「秘密の種類によるかな」

「種類?」

「うん。絶対に秘密にすべきことだったら、いくら恋人だからって打ち明けたらダメだと思う。僕も立花さんも、自分達以外の人のことを軽んじていいわけではないのだから」

「……嫉妬とか、しない?」


 これには少し驚いた。

 天然な立花さんでもそちら方面に気が向くのか、と。


「嫉妬するときとしないときがあると思う」


 まだ嫉妬という感情を覚えたことがないので、我が事ながら推測になってしまうが、できるだけ誠実に答えていく。


「でも護るべき秘密だったら、やっぱり立花さんは何も言うべきじゃないと俺は思う。ただ……」

「ただ?」

「立花さんの愛情表現が足りなくなったら、俺も愛情不足のせいで些細なことで嫉妬したり不愉快に思ったりすることはあるかもしれないね」


 なんて言いつつも、そんなことはなさそうだなと頭の片隅で思う。立花さんは素直な人だから。表情に声、メッセージの文章なんかでも俺のことをすごく好きだって伝わってくるから。


 立花さんが立花さんであるかぎり、立花さんの浮気も心変わりもすぐに察知できるはずだ。


 そんな日は永遠に来ないことを願うが。



 *

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