6.4 バレバレなのです!
何もないところで転ぶことはしょっちゅうある。しょっちゅうといっても月に一、二回で、体調に問題があるわけではない。パパには「妖精さんにいたずらされてるんだな」とよくからかわれていたくらいだ。
「立花さん、大丈夫っ?」
慌てて駆け寄ってきた野田くんに笑みを作って「大丈夫」と応じる。実際、しょっちゅう転ぶからこれくらいのことはどうってことない。まあ、ちょっと痛いけど。……でも。
「ああっ……!」
ソフトクリームが!
バニラとストロベリーのミックスソフトクリームが!
手元に残っているのはクリームを失ったコーンだけだった。
ううん、それよりも。
ポカリのペットボトルも落としちゃってる!
「ごめんね。ちょっとこれ洗ってくるから座って待っててくれる?」
すぐそこの手洗い場でペットボトルを流水に当てて汚れを落とす。じんじんとしてきた膝にスカートの裾を少しめくってみると、やっぱり膝をすりむいていた。でも大丈夫。こういうのはしょっちゅうだから、ポシェットには治療グッズの類は常に入れてある。
傷口を洗い、脱脂綿で拭ってから野田くんの元へと戻った。
「はい。どうぞ」
ペットボトルを渡すと、野田くんが目をぱちくりした。
「あ、ありがとう」
どうしてポカリ、と野田くんがつぶやいたが、そんなの気にしないで飲んでほしい。まずは体調第一だもん。私も体調第一、野田くんの隣に座って「よいしょ」とスカートの裾を持ち上げる。さっさと治療しちゃいましょう。
「たた、立花さん?」
いい感じにポカリを飲み始めていた野田くんが急にせき込んだ。
「なな、なにしてるの?」
「え? なにって、これだよ。じゃじゃーん」
ポシェットの中から取り出してみせたのは、消毒液と脱脂綿、それに正方形のばんそうこうだ。
「さっきすりむいちゃって」
「……大丈夫っ?」
「全然平気だよ?」
そう言っててきぱきと作業を始めた私に野田くんはあっけにとられている。ごめんね、太いふとももなんて誰も見たくないよね。でもちょっと待っててね。ばんそうこうを貼っておかないとスカートに血がついちゃうし。
「そのばんそうこう……貼ってるの学校で何度か見たことがある」
「えへへ。そうなの。私、よく転ぶから。……こんな彼女、嫌かな?」
もしも「嫌だ」と即答されたら……泣いちゃう。
でも野田くんはきっぱりと否定してくれた。
「嫌じゃない。今度からは立花さんが転ばないように俺も気をつける。もしも転んでも俺が助けるから」
「野田くん……」
じーんときた。
「ありがとう……」
「あ……いや」
野田くんの頬が赤らんだ。
あれ?
さっきまではいい感じの顔色に戻っていたのに、また赤くなってきた。ということは体調が良くない状態は続いているんだね。
「えいっ」
ぐっと手を伸ばして野田くんの額に触れる。
「立花さんっ?」
「んー、やっぱり少し熱があるみたいだね」
「熱?」
「んもう! 自分の体調は自分で管理しなくちゃダメなんだからね?」
「え、なんのこと」
ああもう、とぼけてもダメなんだから。
「今日ずっと体調よくなかったでしょ? わかってるんだからね」
全部お見通しなのだ!
「そういう時は当日でもデートは断ってね?」
「な、なんのこと?」
「もう! とぼけてもダメ!」
ぷくっと頬を膨らませて軽く睨む。
「ほら。今だってすごく顔が赤らんでるじゃない」
論より証拠、ポシェットから取り出した手鏡を向けると、鏡面をまじまじとのぞいた野田くんの顔がより一層赤くなった。
「うわ……まじか」
そうなのです。
バレバレなのです!
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