6.2 待ち合わせでいきなり:イラストあり
そして、デート当日。
なぜかゴールデンウイーク並みのぽかぽか日和となっている。
昼の一時、待ち合わせ場所である動物園のチケット売り場へ行くと、そこにはすでに野田くんの姿があった。
「かっこいい……」
遠目から思わずつぶやいてしまう。
春休み、平日とはいえそれなりに人手が多いのに、こうしてすぐに野田くんを見つけられたのも野田くんがかっこいいからだ。
白のコットンシャツに黒のスキニーパンツと、ぱっと見では大学生っぽい、野田くん。斜め掛けにしているショルダーバッグとスニーカーも黒で、とてもシックだ。なるほど、野田くんの趣味が分かってきたぞ。
ちなみに今日の私は肩がふんわり膨らんだ淡いピンクのワンピースに白のカーディガンを羽織っている。それにカチューシャをして特別感を演出してみたんだけど……どうだろう?
と、目線を下にしてスマホを見ていた野田くんが顔をあげた。
「あ、立花さん」
目が合うや、笑みを浮かべて近づいてくる姿には後光がさしているようだ。つまり、めちゃくちゃかっこいいってことです。
「終業式以来だね」
「う、うん。そうだね」
ひえー。普通の会話なのにすごくドキドキしちゃう。二人とも私服だから? それともここが学校じゃないから? それとも……二人は恋人同士だから?
「あ、あの」
「うん?」
野田くんの穏やかな声が、柔らかな視線が……私のドキドキを加速させていく。
「わ、私、変じゃないかな」
スカートのすそをつまみながら口が勝手に動いていた。
「私、ちょっと子供っぽい? 野田くんは大人っぽくてかっこいいから、私、野田くんの隣を歩いてもいいのか心配になってきちゃった。……ああもう、家に戻ろうかな」
一度家に帰って、野田くんみたいなクールモノトーンな服に着替えたい。あ、でも、私のクローゼットにある服のどれも野田くんの好みに合わないかもしれない。
ああ、どうしよう。
こんなことならどんな格好をするべきかもっと真剣に考えておくんだった……。
「帰らないで。変じゃない。すごくかわいい」
「ほ……ほんと? 嘘じゃない?」
涙目でおずおずと見上げると、野田くんの頬がわずかに赤らんだ。……もしかして図星をさされて顔が赤くなったとか?
「……やっぱり帰る」
「待って! ほんとにかわいいから! 今日のデート、すごく楽しみにしてたんだ。だから絶対に帰らないで!」
早口でまくしたてる野田くんはかなり慌てていて、嘘をつき続けているような気もしないでもない。……私、世間でいうかわいい女の子じゃないってことは自覚してるし。
迷う私に野田くんがずいっと顔を近づけてきた。
「俺は立花さんのことが好き。それは信じてくれてるよね?」
「う……うん」
朝からいきなりこんなことを言われて、もう感情のアップダウンが激しくて息切れしそうだ。
「男っていうのはね、好きな子のことが世界で一番かわいく見えちゃう生き物なんだよ」
「そ、そうなの……?」
パパも卓也もそんなこと一度でも言ってた……?
「うん。そうなの」
野田くんが力強くうなずいた。
「でもって立花さんは世間的にも絶対かわいい女の子だけど、俺は立花さんのことが好きだから、俺にとって世界一かわいい女の子は立花さんなんだよ」
うるうるとした目で野田くんのことを見つめていたら、はっとした。
「あ。だから私、野田くんのことがすごくかっこよく見えるんだね」
言って、あわてて否定した。
「あ、野田くんが世間的にかっこいい人じゃないって言いたいんじゃないよ? 野田くんはうちの学校でもすごく人気があるもん。でも私、学校の誰よりも野田くんがかっこよく見えるの。俳優さんやアイドルさんよりも。世界で一番かっこいいのは野田くんだって思うの。そういうことだよね?」
あれ?
なぜか野田くんが両手で顔をおおっている。
両耳が真っ赤になっている。
どうして?
「もしかして……体調悪いの?」
無理させているのかもしれないと心配になったら、
「俺は元気! さ、行こう。チケット買ってあるから」
野田くんが突然私の手を掴んで歩き出した。
*
そして、動物園。
隣を歩く野田くんはずっと無言だ。
私も何もしゃべれずにいる。
象さんも、お猿さんも、久しぶりに会えるのを楽しみにしていたのに、なんだかあまり集中できていない。
だって……手が!
野田くんの手が!
パパや卓也とは手をつないだことがあるけど、好きな男の子と手をつなぐのは初めてで胸が苦しくてたまらない。心臓はドキドキを通り越してバクバクしている。このままだと呼吸困難になってしまいそうだ。
でも……実はさっきからずっと気になっていることがあって。
ちらりと野田くんを見上げると、やっぱり野田くんの頬も耳も赤かった。……ずっと赤い。それって普通じゃないよね? それになんだか目がうるんできている。今も草を食んでいるキリンを見ているようで、見ていない。そんな目になっている。
それに……つないでいる手のひらがさっきから異様に汗ばんでいる。
これはあきらかに体調が悪いのでは?
「野田くん。私、あそこの売店のソフトクリームが食べたくなっちゃった」
「……え? あ、ああ」
野田くん、夢からさめたかのような反応を見せたと思ったら、目が合った瞬間、さらに頬が赤くなった。うーん、これはかなりまずいのかもしれない。
「じゃあ俺が買って……」
「ううん、私が買ってくる。だから野田くんはそこのベンチで休んでて」
「なら一緒に」
「ダメだよ。野田くんはベンチに座っていて!」
自分で思った以上に大きな声が出て、周りの人が幾人か振り返った。
野田くんもびっくりした顔をしている。
「あ、あの。場所取りしていてほしいなーと思って。ほら、ベンチの数少ないでしょ? じゃあ行ってくるね」
我ながら苦しい言い訳だなと思いつつ、野田くんの手を振りほどいて売店へと走る。走りながら、野田くんにはポカリを買ってあげようと心に決めていた。
*




