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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第六章 初デート!(FA御礼)
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6.1 我が家流恋バナ

 はあ、緊張する。


 家族に自分の恋バナをするのって、ちょっとどころではなく恥ずかしい。


 でも野田くんとお付き合いを始めたことはいつかは言わなくちゃいけないことで、夕ご飯の時間に思いきってママに打ち明けた。


「あのね。実は私、おつきあいすることになったの」


 これにママがきょとんとした表情になった。


「おつきあい? 誰とどこに行くの?」


 小首をかしげるママに「やだなあ」と笑ってみせる。

 あれ、少し緊張が薄れてきたかも。


「そういう意味じゃないから」

「そうなの?」


 まだわかっていない。ほんと、ママったら天然だ。これでよく社長業ができるなあと常々思っている。


「そうだよ。おつきあいっていうのは恋人ができたってことだから」


 誤解がないように言い換えてあげないと、ちゃんと伝わらないことはしょっちゅうだ。


「へえ。愛華に恋人ができたのね」


 ママがにこりと笑った。


「お相手はどんな人なのかしら」


 あ、ちゃんと伝わっている。そしてママは私に恋人ができたことを喜んでくれている。それが分かって嬉しくなってきた。ママは反対するような人ではないと思っていたけれど、やっぱりちょっと不安だったのだ。


「ええと、同じクラスの人なんだけどね」


 つい饒舌になる。


「バレンタインの時に私から告白したの」

「あら。けっこう前なのね」


 うん、そう。あれからお互い風邪をひいたり、期末試験があったり、いろいろ続いて、時はすでに春休み。三月末になっている。


「愛華から告白したなんて、よっぽど素敵な人なのね」

「うん。すごくかっこいい人なの。それにすごく優しいんだ。名前はね」

「……ちょっと待てよ」


 私の隣に座る卓也が割って入ってきた。


「なんだよそれ。俺、初耳なんだけど」


 従弟の卓也は平日は我が家で夕食をとるのが習慣になっている。まるで空気のようにそばにいたから、卓也の存在を気にも留めず話を始めていた。


「初耳なのは当たり前だよ。今初めて言ったんだから」


 当たり前の指摘をすると、卓也はしばらく茫然としていたものの、やがて箸を置いて頭を抱え込んだ。


「……嘘だろ? 俺の愛華が他の男に告白? 信じられねえ……」


 卓也があまりにもショックを受けているものだから、にぶい私もようやく察した。


「ごめんね。食事中に急にこんな話をして」


 三人で食べているのに急に家族限定みたく打ち明け話を始めたら、そりゃあ卓也だっていい気分はしないよね。


「私の中で卓也は家族枠、弟みたいなものだから、ね」


 だからつい恋バナを始めてしまったの。嘘じゃないから、ね。


「さ、食べよ。今日もママのチーズハンバーグ、とびきりおいしいよ?」


 うながしたものの、顔をあげた卓也はなぜか私をじっと見つめだした。その表情は一言でいえば、唖然。予想外の何かを見聞きしてしまったかのような、そんな表情だ。


「……どうして見るの」


 じっと見られていることに我慢の限界を感じて、とうとう私も箸を止めた。


「冷めちゃうよ。ハンバーグ。チーズがとろけなくなっちゃうよ。いいの?」


 これに大のチーズ好きの卓也がうっとうなった。


「もう、あんまり卓也くんのことをいじめないの」


 ママがふふっと笑った。


「いじめてないよ!」

「それで、その恋人さんはどんな宝石が似合う人なの?」


 ママが突拍子もないことを言い出した。でも今度の発言は天然ゆえのものではない。ちゃんと理由がある。そう、私のママはジュエリーを扱う会社を経営している社長さんなのだ。


 ママはジュエリー――特にジュエリーに使う宝石そのものに強いこだわりをもっている。ブランドとか産地とかクオリティとかではなく、品物と使用者との相性を最重視するというこだわりが。ママのショップのごひいきさんが好きそうな品を国内外で買い付けてくるのはもちろん、たった一人のお客さんのためにとっておきの逸品を見つけることに生きがいを感じている節がある。


 どうしてそんなことをママのショップに入ったこともない高校生の私が知っているかというと……それはママの言動にずっと触れていればわかってしまうわけで。うん、うちのママは裏表がまったくない人なのだ。


「ええと」


 野田くんにどんな宝石が似合うか。そんなこと考えたこともない。

 でもなんだかおもしろそうだ。


「派手な色は違うかなあ」


 ご飯を咀嚼しつつ考えを深めていく。


「でもただ明るいだけの色は違うんだよね。こう、ずっしりしている感じ?」

「ふむふむ」


 テーブルで向かい合わせているママが瞳を輝かせて身を乗り出してきた。我が家流の恋バナって感じだ。卓也はあきらめたのか納得したのか、黙々とご飯を食べ始めた。うん、やっぱりチーズハンバーグはチーズがとろとろのうちに食べなくちゃね。


「赤でもいいの。でも燃えるようなトーンじゃなくて、深みのある赤っていう感じ。緑なら鮮やかな感じじゃなくて落ち着きのある感じ、ね。あ、でも」


 ハロウィンパーティーの時に野田くんが着ていた魔法使いのコスチュームを思い出す。


「紫とか青とか、黒とか。そういう知的な感じの色の方が似合うかも」

「うんうん」


 目の前でうなずいているママはまるで少女のようだ。一緒に歩いていると、時折私の姉に間違えられることもあるくらい童顔のママだけど、こんなふうに仕草も少女めいているところがある。


 食事を終え、卓也も自分の家に帰り、リビングで刺繍の続きをしていたら、地下の工房――ママは自分でもアクセサリーを作るし宝石だって簡単なものなら加工しちゃう――にいたママがうきうきしながらやってきた。


「ね。これなんて恋人さんっぽいんじゃない?」


 ママの手にある黒い布が敷き詰められた箱の中、指さされたのは青色の宝石だった。どこまでも深い海、または宇宙。そんな広大かつ神秘的な世界を彷彿とさせる色だ。


「それとこっちは今の愛華ね」


 それは澄みきったピンクの宝石で、華やかな色合いはそこに一輪の花が咲いたかのようだった。


「どう?」

「……すごくきれい」


 どちらもママが扱う宝石の中ではかなり小さいサイズだ。なのにまぶしいほどにきらめいている。


「……うん、この石、とっても野田くんっぽい。凛としてて知的な感じが。こっちが私みたいだっていうのは……恥ずかしいけどなんだか嬉しい。きれいだけどとってもかわいい石だね」


 ママの店でジュエリーを買い求めるお客さんの気持ちが少しわかったような気がした。


「恋人さん、野田くんっていうのね」


 ママは微笑みを絶やさない。


「ね、二人へのお祝いにこの二つでプレゼントを作ってもいいかしら?」

「プレゼント?」

「そう。愛華と、愛華の恋人さんで使えるお揃いの何か。ああでも、二人とも学生さんだからちょっと使い難いかしら」


 確かに、私はまだいいけれど男の子の野田くんにしたらどうやって使っていいか分からないかも。というか、そもそもジュエリーを身に着けるような人ではない気がする。……プライベートの野田くんをほとんど知らないから、あくまで憶測だけど。


「あ、スマホのストラップなんてどうかな」


 ジュエリーは敷居が高いけど、スマホなら学校でも気兼ねなく身に着けていられる。


「ストラップはキーホルダーにもできるし、使い勝手がいいと思うの」

「いいアイデアね」


 ママがぽんと手を打った。


「あ、あのね。実は……明日が野田くんとの初デートなの」


 打ち明けると、ママは私の意図を組んでくれた。


「だったらすぐに作らなくちゃね」


 任せて、と力こぶを作ってみせて、ママは地下へと戻っていった。



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