5.7 予定変更!
放課後、ため息をつきつつ鞄を持ち上げたところでみっちゃんが教室に飛び込んできた。
「広田くんとつきあうことになったって本当?」
机にばんと両手をついて尋問口調で問われ、私はとっさにうなずいていた。
「うん。そうだよ」
正確にはつきあうことになったんじゃなくて、前から広田くんにつきあってお出かけしてたんだけどね。
でも今は日本語を正していいような雰囲気ではないので黙っておく。
話が聞こえたのだろう、クラスメイト達が「えええ!」とか「嘘、ほんとだったんだ!」とか「そんなあ」とかいろいろ騒がしいけど、みんな、今のみっちゃんには日本語の正しさなんてどうでもいいんだから黙ってて。
「ほんとのほんとに?」
「ほんとのほんと」
「……そうだったんだ」
みっちゃんの肩からふっと力が抜けた。
「いや、私はてっきり愛華はあっちだと思ってたから」
その目が窓際に向いたのでつられて視線を動かしたら、ちょうど立ち上がった野田くんとばっちり目が合った。
「あ……」
思わず声が出た。
だけど野田くんは険しい表情のまま何も言わずに教室を出ていってしまった。
鞄の取っ手をぎゅっと握る。この中には野田くんにあげたくて作ったチョコクッキーがまだ入っている。今日のためにハート型を買って作った、特別なお菓子が。
「愛華、あんたやっぱり……」
みっちゃんのつぶやきがやけに遠くから聞こえた。
「みっちゃん、私聞いちゃったんだ」
とぼとぼと廊下を歩きながら思わず打ち明けていた。
「バレンタインなんて菓子メーカーの考えた馬鹿げた行事だって、野田くんが言ってたの」
「え? マジ?」
「手作りチョコは嬉しくないし、バレンタインに乗じて告白するのも嫌なんだって」
「……それどこで聞いたの?」
「昨日、ショッピングモールで。みっちゃんが電話でいなくなってた時、偶然」
「……そっか」
一緒に悲しんでくれていると思ったら「なーんて言うと思う?」と、急にみっちゃんが大きな声を出した。
「わわっ。びっくりした。どうしたの?」
目を丸くした私の顔にみっちゃんがびしっと人差し指を向けた。
「そういうところだよ! 愛華の悪いところ!」
「え? え?」
「自分一人で完結しちゃうところ! それっていい面もあるけど今みたいな時はぜったいに駄目だから!」
「みっちゃん?」
「一緒に来て!」
ぐいっと手を引っ張られ、下駄箱まで降りる。そこには明らかにみっちゃんを待っていた高須くんがいた。「やあ」と手を上げた高須くんのその手をみっちゃんががしっとつかんだ。
「小太郎、ついてきて」
「え? 今から僕の家でスイートタイムを過ごすんじゃないの?」
「予定変更!」
私と高須くんを校庭の隅へ連れて行くや、みっちゃんが高須くんに言った。
「今すぐここにあの二人を呼んで」
「あの二人って……もしかして野田と広田のこと?」
「それ以外に誰がいるっていうのよ」
「だよねー。あ、そういえば立花さんは広田とつきあうことになったんだって?」
「あ、うん」
「だー! いまはその話はなし! さっさと電話!」
いつになく厳しいみっちゃんの気迫に押され、高須くんが二台のスマホを取り出した。そして器用の二台同時に電話をかけ、それをスピーカーフォンに設定する。
『どうした?』
あ、この声は広田くんだ。
「あ、広田? 実は今、美玖ちゃんと立花さんと一緒にいるんだけど」
『え? 立花さんも一緒なの?』
広田くんの声が明るいものになった。
『どうりで教室にいないと思った』
『……もしもし?』
もう一方のスマホから聞こえた声にどきっとした。……野田くんだ。
「よし。これで二人の電話が繋がったね」
鼻息荒くみっちゃんが言った。
「単刀直入に訊かせてもらうけど、あんた達バレンタインが嫌いなの?」
『え?』『は?』
野田くんも広田くんも突然の質問に言葉を失ってしまったようだ。
「手作りチョコが嫌いだとか、バレンタインに告白するなんて馬鹿げているとか、そういうこと思ってる?」
「どうしたの美玖ちゃん?」
「みっちゃんどうして急に?」
「いいから愛華も小太郎は黙ってて! で、どうなのよ」
少しの沈黙の後、『今どこにいる?』と野田くんが言った。
「私達三人、校庭にいる。サッカーゴールとテニス部のコートの間にあるケヤキの木の下。来れる?」
突然のみっちゃんの問いに『もちろん』『今すぐ行く』と二人が言った。
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