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立花さんと両想いになるのはすごく難しい  作者: アンリ
第五章 告白バレンタイン!(FA御礼)
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5.5 人助け その二

 クラスが違う二人と別れて教室に入る。


 真っ先に目が行くのはやっぱり――野田くんだ。


 今日も野田くんはかっこいいなあ。窓の向こうの景色の何が野田くんの心を掴んでいるんだろう。青い空? 白い雲? それとも……?


 なんて思っていたら、男の子二人が私の目の前にずいっと立ちふさがった。同じクラスだけどほとんど会話したことのない彼らの共通点はテニス部員ってことだ。


「立花さん、ちょっといい?」

「え? え?」

「いいからちょっとついてきて」


 そして挨拶もなしに問答無用で連れて行かれたのは男子テニス部の部室だった。


「おーい! 立花さんを連れてきたぞ!」


 部室には広田くんや他の男の子達がいた。


「……立花さん?」


 朝練を終えたばかりなのか、制服なんだけど広田くんの顔は若干火照っていた。


 と、背後のドアがばたんと閉められた。


 そんなに広くもない部室の中、男の子達十名近くが密集しているから、ちょっとむわっとするというか……汗くさい。


 私は広田くんの前に立たされ、その周りを残る男の子達が囲んだ。この囲みから絶対に逃がさないという彼らの意志をひしひしと感じる。


「え、と。おはよう、広田くん」

「お、おはよう」

「ところで……これは何?」


 広田くんに尋ねたのに、他の男の子がこれにさっと答えた。


「立花さん、広田を男にしてやってくれないか」

「はい?」


 広田くんはどこからどう見ても男だけど?


 目が合うと広田くんも困ったような顔になった。


「ごめん、みんなが勝手なことをして。おいお前ら、立花さんに迷惑をかけるなよ」


 強めの口調で怒った広田くんに対して、他のみんなが逆にいきり立った。


「いいや。今日ばかりは言わせてもらうぞ」

「な、なんだよ」

「お前、いつか想いが伝わればいいなーなんてのんきなことを思ってるんじゃないのか?」

「なっ……!」

「そうやって待ちの姿勢でいたせいで今ではライバルが三人になってしまったじゃないか。バレンタインの今日こそ当たって砕けろ!」

「おい! 俺を砕けさせるつもりなのか!」


 広田くんのツッコミにも他のみんなは真顔のままだ。「言った後悔よりも言わない後悔だ」などと言い出す人もいる。


 追い詰められていく広田くんを見ていたら、事情はまったく理解できないけれど助けてあげたいって思った。……今日は人助けの機会が多いけど、きっとそういう日なんだろう。うん。星占いを見ておけばよかったかな。


「……あのー」


 おそるおそる声をかけると、騒がしい部室が途端にしんと静まり返った。そしてすべての瞳が一斉に私に向いた。


「あの、えっと。無理に言わせるのはどうかなーと思うんだけど……」


 しどろもどろでなんとか言うと、男の子達がアイコンタクトを取り合った。そしてそのうちの一人が口を開いた。


「立花さん。朝から時間を割いてもらって悪いんだけど広田の話を聞いてやってくれないか」

「え……でも」

「言わなければ広田は男になれないんだ」


 うんうんとうなずく男の子達に、私はそろそろと片手をあげた。


「あの、私もう広田くんから話は聞いてるから」


 途端にこの場の空気が固まった。


「え? それは本当なのか?」

「う、うん。というかみんなも知ってたの?」


 広田くんがかわいいものを好む人だってことを。学校での自分の印象とは真逆な嗜好を誰にも打ち明けられなくて困っていたことを。


「なあんだ」


 彼らの表情から答えを察し、私は思わず笑顔になった。


「だったらもう公認だから自由に遊びに行けるね」


 私と二人きりでこそこそ出かけなくても、元々仲のいいみんなと楽しめばいいんだから。


「よかったね。広田くん」


 にこっと微笑みかけると、広田くんはなんとも例えようのない不思議な表情になった。何を考えているんだろう。その広田くんがやがて意を決したように私に近づいてきた。


「……立花さんは俺の気持ち、わかってたの?」

「もちろん」


 即答に広田くんが泣きそうな表情になった。


「こんな俺でも……いいのかな」

「いいに決まってるよ! いいに決まってるから一緒にお出かけしてたんだよ?」

「そ、そうか。そうだよね。立花さんはそういうのに気づきにくい人だと思い込んでいたけど、そう……そっか……」


 ふにゃっと柔らかな表情になった広田くんは心底嬉しそうだ。


「……あ、ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「私が広田くんの気持ちに気づいてるってことをちゃんと伝えておけばよかったんだね。でも広田くんは言いにくそうだったから触れないほうがいいかなって思ってたの」

「……立花さんはそういうのはきちんと言葉に出してほしいタイプ?」


 言いにくそうに問いかけられたから、すぐに首を振った。


「ううん。いいの。言いにくいことは言わなくて大丈夫。ちゃんと伝わってるから大丈夫だよ」


 心を込めて答えたら、広田くんが感極まったように震え……私をそっと抱きしめた。


 突然のことに驚きつつも、こういうシーンは映画とかでもあるから人間として普通の行動なのかなと抱きしめ返して背中をぽんぽんしてあげる。うん、今まで大変だったね。ずっと隠していて辛かったね……って。ちょっと感動していたら、


「……おおおーっ!」


 なぜだろう、私達を取り囲む男の子全員が一斉に雄叫びをあげた。拳を天に突きあげて。


 これが男の子流の感動の表し方なの……かな?


 *



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