4.3 かわいいけど……恥ずかしいっ!:イラストあり
「ねえ。愛華、まだー?」
「うん……もう少し」
「さっきからもう少しもう少し、そればっかりだよ。……えいっ」
突然扉を開けられて心底驚いた。
「わあ、かわいいじゃん!」
みっちゃんがきらきらした目で見てくるので、私はさっと胸の前で両手をクロスした。
「見ないでっ。恥ずかしいよお」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないよお……」
用意してもらった小悪魔的な衣装は確かにかわいいんだけど、私が着るのは勇気がいるの。
同じ紫なのに、みっちゃんと違って私は着ているだけでどきどきしちゃう。ミニスカートも制服以外ではあまり着ないから、足がすーすーして気になるし。長い手袋をつけているけど、二の腕だけむきだしなのもすっごい恥ずかしい。背中についたちっちゃな羽根よりも小さくなって、ありんこになって消えてしまいたい……。
でもみっちゃんは「かわいいから」「大丈夫だから」と何度も言ってくれた。しまいには「早く行かないとパンプキンのタルトとプリンがなくなっちゃうよ」とまで言われれば……もう勇気を出すしかなかった。
おそるおそる会場に行くと、すでに集合時間から一時間経過しているのもあって場は随分なごんでいた。これなら私も悪目立ちすることなさそう……かな。
と、向こうで大勢の女子で囲まれている男子二人の姿が見えた。あれは……菊池くんと山中くんだ。
さすが人気があるなあと思う。それと連動して昨年経験した人には言えない二つの過去、彼ら二人に関する過去を思い出した。
まず、菊池くん。
「今度の日曜、試合を見に来てくれないか」「こんなことを頼みたいのは立花だけだから」と言われたことがあって、一瞬勘違いしかけたことがあるんだよね……。日曜は家族と出かける習慣があるから応えあぐねていたら「応援席に人を集めるよう先輩から指示されていて、さ」と口早に言われて、危うく勘違いしかけた自分がすごく恥ずかしくなって……。
高校入学前に卓也に言われたんだ。「愛華は勘違いしやすいから気をつけろ」って。そんなことないって反発していたけど、実際自分が勘違いしやすいってことに気づいたのはこの時からだったと思う。
「やっぱり人数合わせだったんだね」ってつぶやいたら「傷つけてごめん」と菊池くんの方が傷ついた顔になってしまって――あれはすごく後味が悪かった。
あ、あと山中くん。
山中くんにも「夏休み、一緒に図書館で宿題をしないか」と誘われたことがあるんだよね。「でも私、山中くんみたく頭よくないよ?」と返したら「そういうことじゃなくて」と言葉を濁らされた。
「じゃあどういうこと?」と思わずじっと見つめたら、山中くん、顔を真っ赤にして、ぶるぶると震えて、泣きそうな顔で去っていったんだよね……。
もしかしたら山中くん、今更誰にも訊けないような解けない問題があったんじゃないかって、後から気づいた。だから今度誘われたら絶対にオーケーしようと思ってたんだけど、それ以来、山中くんは私に話しかけてくれなくなった。
その菊池くんと山中くんが、なぜかこっちを振り向いた。
ばちっと目が合った。
すると二人は目をまんまるに見開いて照れたように視線を下げた。
……ごめんなさい。私も気まずいけど、二人も私がいたら気まずいよね。
と、みっちゃんが私の腕をひいた。
「愛華、あっち行こっ」
その目がなぜか険しいものに見えたけど、「スイーツはあっちだよ」と言われて頭が即座に切り替わる。
タルトとプリン、どっちから食べよう。今日はおなかいっぱいになるまで食べるって決めてたの。そのためにこの一週間おやつ抜きで過ごしてきたんだし、そのために小悪魔な衣装に着替えたんだから!
「あ……立花さん」
「はい? ……広田くん? それに……野田くん?」
声をかけられて振り返るや問いかけ口調になってしまったのは、そこにいた二人があまりにもいつもと違っていたからだ。
「こんにちは」
どぎまぎとしながら挨拶をすると、二人も私と同じようにぎくしゃくとした返事をした。
これってもしかして……この前の告白バトルのせいで気まずいんだよね……?
でもすぐに「ああそうか」と納得した。私は彼らに勝手にどきどきしているだけ、でも二人は公衆の面前で告白の演技までさせられたんだからもっと気まずいのだと。
だったら私にできること――それはあの日のことは忘れてあげることだけだ。今までどおりにふるまうことだけだ。
「広田くんはお医者さんになったんだね」
「あ、うん」
白衣とネクタイ、かっちりしたシャツのコンビネーションがなんだか大人っぽくて新鮮だ。首からかけた聴診器と手に持つ問診票のボードはいかにもお医者様って感じだし、さらっとした髪の奥からのぞく瞳が……見つめられると自分の何もかもが暴かれてしまいそうな、ぽおっとした気持ちになる。
「本物のお医者さんみたいだね。広田くんに診察されたらどんな病気も治っちゃいそう!」
間近でじいっと見つめた後にふふっと笑ってみせると、広田くんがぴきんと体を硬くした。ああ、まだまだ気まずさが取れないみたい。ごめんなさい、力不足で。とはいえがっかりした素振りを見せるわけにもいかないから、ひとまず離れて野田くんの方を向いた。
「わあ。野田くんは魔法使いになったんだね」
「あ、ああ」
重くて高級そうなローブをまとい、ねじれた杖をもち、片目だけの銀縁の眼鏡をかけて、すっごく有能そうな魔法使いだ。髪をオールバックにして、目元には黒のアイシャドウまで入れて本格的だ。この目に見つめられると……うわあ、告白ゲームの時以上にどきどきしてきた。
「あれれ。私、野田くんに魔法かけられちゃったのかな……?」
「……え」
私のつぶやきに野田くんの表情が固まった。……うわあ、口は禍の元!
この何とも言えない空気をどうしたらいいんだろう。みっちゃんは高須くんのところに行っちゃったから助けてもらえないし。
と、二人が随分熱心に私のことを見ていることに気がついた。
「ああっ。見ちゃ駄目っ!」
反射的に胸の前で腕をクロスしてしまうのは癖みたいなものだ。
「私、あんまり似合ってないし、恥ずかしいし……」
涙目になって上目遣いで見上げたら、なぜか二人そろって「うっ」と胸を押さえた。
「すげえ……」
「なにこの破壊力……」
うわあ、私のこの似合わなさすぎる格好で二人が苦しんじゃってる。醜いって罪なのね。卓也の言う通りだ。私は黒猫になっていればよかったんだ。……どうしたらいいんだろう。
「そうだ。飲み物とってくるね」
こういう時は水でも飲んで落ち着いてもらおう。
それに私が離れたほうがいいだろうし。
「あ、待って」
「立花さんっ」
あわてる二人に「待っててね」と言い残して離れていく。
ごめんね。
私に気を遣って引き留めようとしてくれたんだよね。
でも大丈夫。
「えーと。水はっと」
きょろきょろと辺りを見回す。
さすがは高須くん家のパーティー、部屋がすごく広いし色んな食べ物、飲み物があって迷っちゃいそうだ。
あ、でも水よりも白湯の方がいいかな。でもパーティーに白湯なんてないよね。
そんなことを考えていたら。
「た、立花も来ていたんだな」
声を掛けられて振り向くと二人のドラキュラが立っていた。
もとい、菊池くんと山中くんが立っていた。




