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金貸しドラゴン  作者: 純米 一久
第二話「宝石ドラゴン」
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二の二

 商業組合をでて、自分の店となった建物に帰ってきた。


 昨夜隠した金貨の袋を取り出し、金貨の山からから先ほど教わった金貨を探した。同じものと同じ王国の刻印があるものを取り出してみると五十枚ぐらいあったから、換金に出した分にも一割ぐらいは混ざっていたかも。

 ともかく、当面の軍資金がこの五十枚だ。それと、ドラゴンが持ってきた宝石の原石も売り払って開店資金に当てよう。


 再び通りに出て、食料品店へ行き、当面必要になりそうな小麦粉や調味料、そして茶の生葉を買いそろえた。


 次にベンエッチン宝飾店と書かれた店にやってきた。

 チシャさんに紹介してもらった店だけど、店頭に飾ってある商品は正直野暮ったい。宝石類も研磨が足りなくてくすんでいるようだし。昔アクセサリーショップでバイトをしていた頃に扱っていた品々とは大違いだ。


 余り明るくは無い店内には、肥えた老婆が一人座ってうたた寝をしていた。

 起こすのも悪いと思ってしずかに見て回ると、店内の商品も似たようなものだった。宝石はカッティングが雑というか、ほとんどされてない。この店はこんなものかとか思っていたら、老婆が目を覚まして誰何(すいか)してきた。


「おまえさん、なにやってんだい!?」


突然の超えに驚きはしたが、ここに来た用件を素直に伝える。


「黙って入ってしまってすみません。実は、買ってもらいたいものがあるんですよ」

「盗品はゴメンだよ」老婆はじろじろとこっちをにらみつけた。

「盗品なんてとんでもない!」バックパックから原石を一つ取り出して渡した。「この宝石の原石を買い取ってもらえないかと思って」


 老婆は拡大鏡を取り出して原石をあちこちと眺めた。


「これが宝石の原石ね~。隙間に半透明なのが挟まっているのは見えるけどたいしたことないね」

「そんなことは無いでしょう。なかなかの大きさのダイヤモンドだと思うんですが」


 原石を置き、拡大鏡をしまい、老婆は告げる。「銀貨で二枚ってところだね」俺はあまりの値段に思わず絶句した。


「肝心の石はちらっとしか見えないし、ダイヤモンドと言われても水晶や偽ダイヤじゃないとも限らない。バクチ打つなら銀貨で十分だね」


 あまりのいいように、思わずくってかかった。


「その言いぐさはひどい。一度見直してくれませんか」

「しつこいねえ、銀貨一枚でもいいんだよ。値段に納得いかないなら出ていきな」


 あのドラゴンが持ってきた原石が二束三文ですむはずが無い。


「よく見ろ、この大きさの原石だ。滅多に無いダイヤモンドになるって」

「うるさいねえ。ダイヤモンドなんて割って使うだけで、色もついてない石の原石が大きくても価値は無いよ」

「はあ、割るだけ? あんたダイヤモンドの価値がわかってないのか」


 もう一度食い下がろうとしたとき、後ろから男の咳払いが聞こえた。


「店主、こちらを先にしてもらってもよろしいかな」


 見れば、身なりの良い婦人とそれに付き従う壮年の男性が立っていた。貴族とその使用人だろうか?

 老婆は態度をがらりと変えて婦人の方へ向き直った。


「ええ、ええ。この男の用事は済んでますから、どうぞどうぞ」

「近々行われるパーティ用の品を」

「待ってくれ、こっちは用件を終えたつもりは無いぞ」


 無理矢理、使用人と老婆の間に割って入って、老婆に詰め寄る。


「研磨すれば、王冠の中央にだって飾れる素晴らしいダイヤモンドが作れそうな原石だってわからないのか?」

「小僧、いい加減にしろ。それに小汚い格好でこの店をうろうろするな。冒険者崩れが拾った石で稼ごうと思うなら、それなりの場所へ行くんだな」


 使用人の男に肩をつかまれ、店の外で押し出そうとしてきたので、手を振り払った。


「身なりだけで人を判断してんじゃねえ!! こっちだってまじめに商売しようとしてるんだ」

「言ってわからぬ小僧か」


 男がわずかに体重を落として身構えた。こっちも半身になって迎え撃つ体制を取る。

 にらみ合い、互いの呼吸が合ったその時「止めなさい二人とも」と声で割って入ったのは、今まで黙ってみていた婦人だった。


「お若い方、当家の使用人が失礼なことを言いました」


 と、こちらの方に軽く頭を下げた。使用人の男は「奥様、そこまでしなくても」と止めようとするが、婦人は視線で黙らせる。

 緩やかなウエーブを持ちながら、体を緩やかに覆うドレス。編み上げた金髪に、小ぶりな帽子をかぶり、口元を隠す房のついた扇子をもつレースの手袋。年の頃は四十代後半だろうか、どう見てもまごう事なき貴婦人。爵位などは不明だが、使用人を連れて宝石を買いに来るぐらいだから相当な資産を持っているのだろう。


「たしかに、身なりで人を判断するのは愚かしいことです。私も立場上様々な人と会うのでよくわかります。うわべだけ立派なもの、質素ながらしっかりした人物など、それこそ見る目を養わなければとうてい勤めは果たせません」


 おお、これは貴族とのコネが出来るチャンス!?


「しかし、そもそも身なりに気を遣うことも出来ない人物を信用することは出来ません。ご自分の格好をよくご覧なさい」


 言われてみて、改めて自分の服装に気を遣う。戦いで破れた服は着替えたものの、長旅をしてきて汚れたままの上着、戦いに備えて胸と手足につけた革鎧、厚手のズボンは焦げたり破れたりしてる。

 明らかに冒険者の格好、それも言われた通りの小汚い冒険者だった。


「よくお考えなさい。商売をしようとするものは、相手の懐を気にするものです。服装にきちんとお金をかけて誠実に話をするものと、服装にかけるお金も無く乱暴な話し方で迫ってくるものがいたら、どちらを信用すると思いますか」


 食器店のギルバートさん、商業組合のチシャさん、あの二人はこちらの事情を知った上で応対してくれたから、格好を気にせずつきあってくれた。俺は二人の好意に甘えていたんだ。


「おっしゃる通りです。俺の方が失礼なことをしていました。ご指摘に感謝します」


 羞恥心に赤くなる顔を隠すように婦人に頭を下げる。


「騒ぎ立てて申し訳ありませんでした。これで失礼します」


 そして、改めて婦人と老婆に大きく頭を下げ、そのまま振り返って店の扉に手をかけた。

 そんな俺の背中に向かって、婦人の声が届いた。


「あなたが言っていた、原石を磨けば素晴らしいものになる、という話はおもしろいですね。もし、できあがったら見せてくださるかしら?」


 返す言葉が見つからない。自身も磨いてみろってことか。

 俺は背中を向けたままうなずくだけにして、店から飛び出した。


 今朝の金貨と言い、今の服装の件と言い、俺はまだまだ甘過ぎた。

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