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金貸しドラゴン  作者: 純米 一久
第一話「商売ドラゴン」
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その一

自分の初公開作品になります。

よろしくお願いします。

「ドラゴンスレイヤーに俺はなる!」


 期待をこめたまなざしを送る大勢の人たちの前で、俺は片手を突き上げて高らかに宣言した。

 いつもはともに旅をする仲間達も今回は別行動だ。村人と一緒に俺を見送ってくれている。

 彼らに見送られながら、俺は赤いドラゴンの住むという火山の山頂へ向けて歩き出した


 俺の名はユーフェ。

 少年時代に単独でゴブリン討伐したことを手始めとして、あまたのモンスターを討ち果たし、そして数年にわたる一大キャンペーンをクリアすることで、いまや二十歳にして国の英雄と呼ばれる男だ。


 この辺り一帯を納める領主から直々にドラゴンの討伐依頼を受けて、辺境のとある火山へときている。

 万全の準備を整えて、一昼夜かけて山を登り、ついに赤いドラゴンの住むという火山の山頂までたどり着いた。

 そう俺は今、誰もがあこがれる、あの冨と栄誉が確約された称号の「ドラゴンスレイヤー」に挑もうとしているのだ。


 真上から指すまぶしい日差しと、うねるマグマによる灼熱地獄の真ん中で、赤いドラゴンは俺を待っていた。


「赤いドラゴンよ、俺の名はユーフェ。人々に徒なす貴様を倒す勇者だ」


 この日のために買い求めた宝剣ドラゴンキラーを向け、ドラゴンをにらみつける。

 ドラゴンも俺をにらみ返し、「ひとりか」と目で問いかけてきた。


「そうだ。俺は一人で貴様に挑む。仲間はおいてきた、この戦いにはついてこられそうにないからな」


 心の中で、一度は使ってみたいと思う台詞リストにチェックを入れる。もう一つぐらい言っておくか。


「天の神々よご照覧あれ。これより使徒ユーフェが神敵を討ち滅ぼして見せましょう」


 俺は剣を頭上に掲げ、高らかに宣言してみせた。

 なのにドラゴンの奴め、余裕なのか? こちらの準備を待ってるかのように動かないでいやがる。ならばと、俺は念入りにバフをかけ、ポーションを飲んだりかけたりして能力を底上げした。


「いくぞ赤いドラゴン! さあ、戦いだ!!」


 俺は、掛け声とともにドラゴンに向かってかけだした。

 射程に踏み込んだからか、今までじっとしていたドラゴンがブレスの予備動作を始めた。


「初手、ドラゴンブレスか。それは知っているぞ!」


 左手に持った黄金の輝きを放つ鋼の盾を突き出しながら加速し、コーン状のブレスのタイミングに併せてサイドステップで斜め前にかわす。炎のブレスの余波で熱気を感じるが、耐火炎のアクセサリで固めた装備に隙はない!

 目の前のドラゴンが次にする攻撃は、左右の爪。これを見切ってかわし、次にくるかみつき攻撃にカウンターをあわせる。


「ドラゴンキラーの一撃を受けてみろ!」


 ドラゴンの頭部に盾をたたきつけて攻撃をそらし、無防備な首筋に剣を振り下ろす。これで首を切り落として終わりだ!



 だがその一撃は、甲高い音とともにむなしくはじかれた。ほぼ完璧に俺の狙い通りだったはずの一撃は、ドラゴンの堅い鱗に阻まれたようだ。

 舌打ち一つして、動揺を押さえ込む。

 俺はドラゴンからの反撃を予想して、前転回避で離れ、距離を取って立ち上がった。


「え?」と、構え直した武器を見て、思わず声が漏れた。

 右手のドラゴンキラーは半分に折れ、黄金の輝きを放つはずの盾は、表面がぼろぼろになって地金をさらしていた。財産のほとんどを使って買いそろえた最強の対ドラゴン装備のはずなのに。


 だが俺は慌てない。まだ慌てる時間じゃ無い。このシチュエーションでこそ映える台詞のストックもある。


「こ、こ、こ、この程度は想定内だ!」


 どもってなければかっこいい台詞だったのに……



 気を取り直してドラゴンをにらみつけると、奴もまたこっちを見ていた。視線が絡み合う。その目が語っている「この程度で終わりか?そうじゃないだろう」と。

 そうとも、いままで伏せていたが、何を隠そう俺は転生者で、超存在からチート能力を授かってこの世界へ来たんだ。いまこそ約束された勝利の大逆転劇を見せるときだ!


「そうだ、赤いドラゴンよ。俺はまだ本気を出しちゃいない」


ドラゴンの熱い視線を受けて、俺の心が震える。燃え尽きるほどに熱い力がこみ上げる。

「リミッター解放!! シフトセカンド!!!」まず全能力を十倍に跳ね上げる。「俺の強化はまだ二段階残っている。この意味がわかるな! だが、奥の手を見せるのはこれからだ」


 左手の盾を放り投げ、右手の折れた剣を両手で握りしめ力をこめる。ドラゴンは俺の底力を警戒しているのか動こうとしない。この隙に最大までチャージして一撃で決める。


「出でよ! 神より授けられし魔剣! アグニ・ミョルニル!!」


 剣にまとわりつくように七色の光が現れ、新たな刀身を形作る。力をこめるほどに光が強まり、刀身が身長を超える長さになったところで剣を腰だめに構える。あのポーズは決めた! あとはお約束通りダッシュからの必殺技をたたき込む!!


「食らえ! 必殺!! スパイラル・インパクト・スカイ「ゴキャっ」・・」


 俺が技名を叫んでいる途中で、何かに横から殴られて半分意識が飛んだ。

 正直言って、そこから先はよく覚えていない。




 くらった時は見えてなかったが、どうやらしっぽにはたかれたらしい。そしてしっぽだけじゃ無く、動き出したドラゴンの速さは、目で追うことすら出来なかった。闇雲に振り回した剣ではかすりもしなかった。途中で無理して能力を三十倍に上げたと思うのだが、力比べであっさり負けた。

 なぶるような爪攻撃で何度も削られて鎧はぼろぼろになった。

 せめて一撃と、片手を犠牲にして七色の光剣を至近距離から打ち込んだが、これもあっさりと防がれた。

 俺のチート能力はドラゴンの前では無力だった。




 力尽きて燃えるような山肌に仰向けに倒れ込むと、首に巻いた魔法のチョーカーが俺の最後の魔力を吸って、体の復元を始めた。傷は消えて無くなるが、体力気力が尽きてもう指一本動かせない。

 そんな無防備な状態をさらす俺をドラゴンが見つめていた。たぶん「この虫けら『そのチョーカーだ』め」とか言って……


『そのチョーカーだけが本物のようだな』


 なんか声が聞こえた。「こいつ、直接脳に……」思わずリストに載っていた台詞が漏れる。


『おう、ようやくまともに話す気になったのか。ドラゴンの口では人間の言葉を話すのは難しいからな、心話で呼びかけていたのだが、聞いてくれているようで話がかみ合ってなかったから、どうしようかと思っていたぞ』

「いままで話しかけていた?」

『そうだな。最初は、そんながらくたで戦いを挑むのはやめたらどうかと言ったのだが、仲間をおいてきたとかいいだすし』


 げ、最初の決め台詞に酔ったあたりか。


『いじめるのもどうかと思って、無謀な戦いはやめて逃げたらどうかと忠告したのに、ここからが本当の勝負とか言って向かってきたから、殴っておとなしくさせるしか無いと仕方なくな。手加減はしていたから、そこは許せ』


 勢いをつけるためだけに使っていたかっこいい台詞にマジレスするんじゃない! なんか恥ずかしくなってきた。


『武器や盾はガラクタだったが、本物の魔法具を身につけているのはわかっていたからな。敗者の運命としてそのチョーカーと……所持金は金貨十枚ほどか、それを奪われて死ね』


 まずい、殺す宣言が出た。なにかないか考えろ。命乞いか話題をそらすための話の種が今までの会話にあったはずだ。


「まて、待ってくれ。財布の中身どころか、バレないように下着に縫い込んだ金貨の枚数まで何でわかるんだよ」

『ん、ああ。それはなんとなくわかるのだ。私は金銀財宝が好きだからな。宝石に輝きにはうっとりするし、魔法具から放たれる波動は肌に心地よい。金貨のにおいにはうっとりする』


 ドラゴンは遠いところを見て目を細める。


『ゆえに、私はねぐらに金銀財宝を集め、その心地よさに包まれて眠りたいのだ。だから、おまえのそれをもらう』


 ここだ! この状況から口先だけで生き残るにはこれに賭けるしか無い。


「まて赤いドラゴン、今俺を殺してしまったら、貴様の求めるたくさんの金銀財宝が手に入らなくなるぞ」

『なんだと?!』


 よし、話に乗ってきた。


「いいか、よおく聞け! 俺はもう戦えそうに無い。だから、生きて帰れたなら俺は商売を始める。商売を続ければ、いまある金貨は十枚でも、いずれ金貨二十枚になり、五十枚にも百枚にもなっていくだろう」

『おお、では増えた金貨を私に捧げるから見逃せ、とでもいうのか』

「甘い。わかってないな赤いドラゴンよ。そこで満足するようでは素人だ!! 慌てるなんとやらはもうけが少ないと言うだろう。金貨百枚になったところで奪えばたしかに今の十倍だ。しかし、ここで慌てて奪うのは愚か者のすることだ。ビジネスというものは十枚の金貨でするよりも、百枚の金貨でする方が大きく儲かるのだ。増えた金貨を奪って十枚で再スタートさせるよりも、増やした百枚で商売を続けさせれば千枚にもなっていく。これが賢い投資のやり方だ。」


 ここぞとばかりに必死にうろ覚えの経済用語を並べ、ドラゴンをごまかす!


「経済学的にレバレッジやインフレを利用すればバブルに乗って業績予想は何倍にも跳ね上がっていくぞ」

『け、けーざい? びじねす? ればれ?』


 よし、どらごんはこんらんしている。望みをつなぐなら、いまだ!!


「ドラゴンならば人が生きている間を待つぐらいの時間はあるだろう。おまえのためにお金を稼ぐから俺を生きて返せ」


 ドラゴンの顔から混乱が消え、真顔になった……様に見える。元々ドラゴンの顔色なんかわかるわけ無いが、そんな気配を感じた。


『おまえ、名前は?』

「最初に名乗っただろう。ユーフェだ。」

『違う。本当の名前だ。 その名前も正しいのだろうが、おまえの魂には別の名前が刻まれているのが見える』


 別の名前……魂の名前?ソウルネーム!!!


『今思いついた名前も違うように見えるぞ』


 あ。ドラゴンがあきれた。そうだよな~、やっぱ転生前の名前の方だよな。


祐兵すけたか。伊東 祐兵だ。」この世界に来て、一度も名乗ったことの無かった名前だ。

『スケタカ……』


 ドラゴンは俺の名前をかみしめるようにつぶやきながらじっと見つめてきた。


『よし、スケタカ。面白い話を聞けたので、おまえを許す。街に帰って商売を始めるといい。増やした財宝が私のねぐらを満たす日を楽しみにして居るぞ』


 ドラゴンがゆっくりと翼をはためかせて飛びたった。

 だが俺は、生き延びたという安堵感を枕に寝転がったままでいるしか無かった。

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