純粋な善ではない
別に、意地悪して出し渋っているわけではなくて。
JK、常識で考えて、『純粋な善』ではないんですよ。
『執筆マニュアルの開示』という行為は。
本来は、作家志望者全員が、バブル以前の青年のように、バイタルにあふれていて、各自、自力で、独学で、『5~10年』かけて、編み上げる――べきなんです。
『読者様が神様』なら。
『物語の神秘性』とも密接に関わり合う問題ですし。
たとえばあなたが、ロシア語に関して、全くの門外漢だったとします。
先人の知識を一切使用しない縛りで、『現地へ赴いてロシア語を(日本語に)解読する』……やってできなくはないですが、正直、『和露・露和辞典』を作るのは、一番最初のひとりでいいですよね?
自分はそう思いました。
『自力で解読する』に、悦びを見出せる人も、存在するのですけれど。
そんな時間ねぇーし。
『意思の疎通』が第一の目的なら、『自力で解読』はバッサリ諦めて、すでにある『和露・露和辞典』を使用するのが普通です。
『純粋な善』ではない――に、話を戻しますと、
でもだからといって、バブル以前の青年並みのバイタルがあれ! 全員自力でマニュアルを作れ! という、『物語の神秘性』と『物語の神秘性を愛する読者様』にとっての『純粋な善』を、守ることを第一に作家志望なんかやってられませんよ。
バイタルがないもんはないし、隠されていようが地球上に既存なら、自力で作る気が起きんよ。
寄越せよと思うよ、先輩に向かって。
みんなで共有しようぜと言いたいよ。
先輩方の言い分はこうです。
『下からの突き上げが怖い』。
普通に考えて、開示せずに独占していた方が、後輩に苦行を強要することができ、過半数が脱落してくれれば、自分の座席は安泰だということです。
でもそれはまた逆に、『読者様』のためになっていない。
読者様は作家全員でマニュアルを共有し合うなりして、全員のレベルが上がったら、楽しい漫画がいっぱいあふれて嬉しいのにと、思っていますよ。
でも先輩は独占したい。
座席を、売り上げを。
『クオリティが高い』のが自分だけなら、まだマニュアルが編み上がっていない後輩に、当然金銭が巡りませんからね。
『純粋な善』ではない――に、話を戻します。
『後輩に意地悪したいわけではない場合』もある。
『マゾが共感を求めていた場合』だとか、いろいろ。
だからそのー、売れっ子先輩作家様が。『物語の神秘性を愛する読者』出身だった場合、純粋な読者様の愛する『物語の神秘性』を、傷つけたりしないで済むように、その方向へ努力するはずです。
つまりマニュアルをばらまかない。
自力で10年弱かけて、解読し、編み上げる――といった過去が、別に大して辛くなかったのなら、尚更です。『後輩も当然、自分と同じような感覚なんだろうなあ』と思う→マニュアルを開示しない。
医者。
先輩が後輩を教育します。
教師。
先輩が後輩を教育します。
本来は『編集者』うんぬんじゃなくて、『作家』が『作家志望者』を、教育すべきなのです。
教員だってタダ働きですよ?
教師になりもしない教育実習生――まあ、昔の自分のことですが――の、面倒をタダでみなきゃいけない。
それは『国』や『子ども』『子どもの未来』と『未来の子ども』と『未来の国』のために必要だと考えているからです。
作家さんはそれをやっていますか?
いいえやりません。
やっていません!
本来は『売れっ子作家』は、当たり前に、教員のように、自分の時間と体力と金銭を使って、『作家志望者』を教育しなければならないのです。
『国』や『子ども』『子どもの未来』と『未来の子ども』と『未来の国』のために必要だと考えて!
それが『読者を想う』ということじゃないんですか。
教員だって寝る間がない生活を送っていますよ!?
要は読者のことなんか想い遣ってはいなかったんだ。
それをやっていない。
だれひとり、私財を投じてタダ働きをしようとしない。
ケチ臭い、みみっちい、情けない。
だから今、どうしようもなくどうしようもないマンガばっかりになっているんじゃないんですか?
これは『読者への冒涜』ですよ。
編集者への悪態ばっかりついて。
編集者なんか関係ないんです。
ベテランの外科医が、研修医にタダで指導するように、
『売れっ子作家が、作家志望者に、タダでマニュアルを開示する』という、習慣というか、規則というか、あいさつ月間というか、そういったものが、『日本』という国に、確立されていなければならなかっただけ。
――ではこの、私が掲げる極論みたいな暴論が、
打ち切りマンガばかり読まされたくない読者様の夢と理想が、
叶ったとします。
現実のものとなったとします。
そうすればどうなりますか?
そうですね♪
編集者様から仕事がなくなりますね♪
少なくとも『やりがい』はなくなります。
よって『執筆マニュアルの開示』は、『純粋な善』にはなり得ないのです。
お料理で考えましょう。
誰に味見してもらわなくても、先人からたまわったレシピ通りに作っていけば、あるいは思考停止でスイッチを押すだけで、おいしい料理が完成する時代が訪れたら、『おいしいかどうかもう、自分ではわからない!』と頭をかかえる『作り手』は消え、『う~ん』と、難しい顔をしてみせる美食家様も必要なくなるのです。
しかしそうなると、『締め切り効果』にすがりたい作家、ケツを叩いてくれた方がよく働ける作家は、やる気を失ってしまうでしょう。生産速度を落としてしまうでしょう。
やはり『執筆マニュアルの開示』は、『純粋な善』ではあり得ないのです。