テツとの話
連続投稿3日目(思いの外難産で焦ったことは秘密)
久し振りの冒険者ギルドで再会したのは少し大人びたテツだった。
テツは先程まで話していた受付の人に何か呟いてからこちらへと歩いてくると、笑みを浮かべて腕をつき出す。
俺はそれに応えて腕がクロスになるようにテツの腕にぶつける。
「久しぶりだな、テツ!」
「こちらこそ久しぶりだ······二人とも鍛練を怠ってはいなかったようだな」
テツが俺とアオイを見比べて腕を組み、ウンウンと頷く。
「特にノエルはもう二つ名持ちとは恐れ入るぞ」
······ん? 今テツは何て言った?
「ノエルが二つ名持ち? どう言うこと?」
テツの言葉の意味が理解できなかったのは俺だけではなかったらしい。アオイも眉を寄せてテツに尋ねる。
「ん? 二人とも知らなかったのか? 冒険者の間で噂になっとったぞ? 『致命傷すらも一瞬で回復させる回復魔法を持つが、その実態は容赦なく全てを破壊する破壊者······人呼んで─白き破壊者─だ』とな」
白き破壊者って、何時の間にそんな二つ名が······と思ったがよく考えたら心当たりはあった。
恐らくウィンさんとの試合の時だろう。
あの時は沢山の冒険者が見ていたし、あんな場面を見せたのだから、こんな二つ名をつけられてもおかしくはないか。
ちらりと辺りを伺ってみれば確かに周囲の冒険者達も少しこちらを避けているように感じなくもない。
言われるまで意識しない程度にだが······。
俺は一人「はぁ」とため息を付いた。
「どうせつくならもっと格好いい二つ名が良かったよ」
例えばレンさんの『紅の暴風姫』とか、あんな感じであれば文句を言うことも無かったのに。
「まぁまぁ、そう腐るなノエル。二つ名は周囲が勝手に決めるもので自分で決められるものではないからな!」
テツが俺の背中をバシバシと叩きながら俺を慰める。
割りと良い音がしているが、テツも手加減してくれているためそこまでいたい訳じゃない。
まあそれは置いておいてだ。テツの話は誠にその通りなのである。
実は昔自分の二つ名を自分でコントロールしようと、何かある度に「正義!」と叫んだり、自らの名前を「ジャスティス」と名乗ったりしていた男が居たそうだが、結局その男につけられた二つ名は『正義と書いてそうおんと読む』という物になったという笑い話があるくらいだ。
「そう言えばテツはギルドに何か用事があったんじゃ?」
少し落ち込んでいる俺をスルーしてアオイがテツに話しかける。
「うむ。一応用事が無いわけでは無いが······すまんな、これは誰にも話してはならぬことなのだ。だからお前達に話すことはできん」
「話しちゃいけないなら仕方ないだろ? それよりテツの用事っていうのはそんなにすぐにどうこうすることなのか?」
俺の言葉にテツは顎に手を当てて少し考え込むと
「いや、おそらく結果がわかるのはしばらくしてからだろう。少なくとも一週間は暇な時間があるはずだ」
「よし、じゃあその間は俺達と一緒に依頼でもこなそうぜ」
俺はテツの方に手をさしのべるとそう言った。
テツはそんな俺の手を握ると
「うむ、確かに暇な間は依頼でもこなして金を得るつもりだったが、丁度良い。二人さえよければしばらく一緒に依頼をさせてもらうとしよう」
と言ったのだった。