試練の洞窟その9
唐突ですが、視点変わって、尚且つ時間も少し戻ります。
最終戦に入るまでにウィンに何があったのか、どんな気持ちでいるのかみたいなことを書き連ねていきたいなと思ったので······
とは言っても全2~3話を予定していますが······
お付き合いお願いいたします!
私は最も弱かった。
4人いる兄姉の中でも3人には決して勝てず、その差は絶望的な物だった。
才能も天才ばかりだった兄姉には勝てず、有利属性のはずの兄の一人にさえ私は勝てなかったのだ。
そんな私が天才集団のヤマト家の中で邪魔者扱いされなかったのは、私よりも弱い存在がいたからだ。
自ら生まれ持った才能をろくに扱うことも出来ずに、他のヤマト家の面々は一度でクリアできた試練を何回やってもクリアできない。
勿論私を含めた他の兄姉たちにも決して勝てない。そんな存在だ。
だからこそ私はその存在との模擬撰はとにかく楽しかった。
他の兄や姉相手の模擬戦は何をしても通じない絶望感以外を感じることは無かったが、この存在との模擬戦だけは、私がしたいことをすることができ、私が勝つことが出来たからだ。
たまにやり過ぎてしまってもう一人の姉が止めに入ることもあったけど······まぁ、おもちゃを壊してしまうよりは良いよね? と思って我慢した。
しかし、しばらくしてその存在が家から消えると周囲の反応は一変した。
それも当然の話だ。
私はあの存在─アオイ─がいたからこそ才能が無くても邪魔者扱いされずにすんできたのだ。
その存在が消えたら次は······ヤマト家の名前に見合った才能の無い存在······私を排除するというのは至極当然の事なのだ。
『自分よりも才能の無い者をいたぶることで優越感に浸っていた堕落者』
『才能すら与えられなかった敗北者』
家の者からはそのような烙印を押され、兄や姉からはいつも模擬戦にて叩き潰される毎日。
勿論少しばかりとは言え、努力はした。
自身の魔武器である大鎌と相性の良い魔法を調べて練習したり、大鎌の使い方を学び、練習したり。
しかし、いくら努力しても兄や姉には何一つ通じなかった。
私は次第に努力その物をしなくなった。
全てが無駄だと悟ったのだ。
幸いにもヤマト家の冒険者と言うことで、それなりの特別扱いをされたことも有り、冒険者ランクも最初からB級が与えられた。
それに私自身も最低限とは言えB級程度の実力はあったから依頼をこなすこと自体も、簡単とは言えなくとも苦戦することも無かったのだ。
そのお陰もあり、少なくとも生きていくだけならもう問題ない。
それに、たった一人ではあるが、私の事を認めてくれる人もいたのだ。
まぁ、かなり胡散臭い奴ではあったが普段は猫を被っている私が素を出しても全く変わらずに対応してくれる存在は私にとってはありがたい存在だった。
私が努力をしないことでとやかくいい始める人もいたが、お父様は基本的に忙しい人だし態々時間を作ってまで私を勘当しようとはしなかったようだ。
私としては別に勘当してもらっても構わないのだが······正直今なら出ていったアオイの気持ちが少しはわかる気がする。
そこからしばらく惰性で冒険者生活を続けていた私の元に一つの情報がやって来た。
あの家を出たアオイが、冒険者として登録をしたと言うのだ。
あの私達にボコボコにされていたアオイが冒険者? なんの冗談だろう?
そう思い確認してみたが、事実だった。
しかも、隣には同年代と思わしき男の姿も。
······あまり認めたくは無いが、私の隣に立つ少し胡散臭い男に比べれば数倍かっこいい。
そんなアオイの姿を見て私は思わず言ってしまった。
「ヤマト家の欠陥品が冒険者の真似事など恥を知りなさい!」
気付いた向こう側は唖然とした顔をしている。当然だ。私でもそうなるだろう。
「あなた方がどれだけ馬鹿なことをしているのか模擬戦にて理解させて差し上げますわ」
久々に誰かをボコボコにしたかった。
そんな気分だったのだ。
しかし、その模擬戦も断られる。
後から考えれば当たり前だったのだが、この時は何故か無性にイライラしてしまった。
隣でセバ・スチャンが「この臆病者共が! それでも冒険者か!」と挑発していたがアオイ達は挑発に乗ることはなかった。
それからしばらく挑発を続けた。
我慢できずに向こうから手を出してくれればそれを大義名分にボコボコにする事も出来るからだ。
しかし、アオイ達は決して挑発に乗ることは無かった。
どうしようかと悩んでいると、セバ・スチャンが「当主様に冒険者を対象に大会を開催していただければよろしいかと」と進言してくれた。
一応極秘扱いではあるため、ヤマト家の人間以外は知り得ない事だが、近々異世界から勇者を召喚するそうだ。
そのせいで忙しいお父様がそんなことをしてくれるだろうか?
そう考えたが、
「その勇者様と共に旅立つ事のできる才能を持った者を探すためと言う名目で、開催して頂くのです」
というセバ・スチャンの言葉に同意して、お父様に頼んでみる。
お父様は何か考えていたようだが、同意してくれた。
その後は全てセバ・スチャンが良いようにやってくれたのだった。
そして、試合前日。セバ・スチャンにとあるものを渡される。
「これはウィン様の力を高めるものです。ピンチだと思ったらお使いください」
そのセバ・スチャンの言葉に頷き、私はベットに入るのだった。