試練の洞窟その8
「ヤタガラス······うん。何だかしっくり来る」
アオイが鏡······魔鏡ヤタガラスを手にして頷く。
「そう言えばアオイ。その鏡の能力って魔力をコピーするだけなのか?」
確かにアオイの能力との噛み合いは凄いが、他にも能力があるんじゃないだろうか? 俺の持っているこの魔導書も幾つか能力はあるんだし······少なくとも不壊属性くらいは無いと不便だと思う。何故とは言わないが······
「ん、一応今の段階で出来るのはこれだけみたい。後は軽めな魔力操作の補助もしてくれるっぽい」
「えっ!? 不壊属性は······?」
「無い。一応壊れても私の魔力で再構築できるみたいだけど」
は? 今なんか凄い事言ってなかった!? ちょっと待て、俺の魔導書はそんなこと出来ないんだけど!?
それをアオイに伝えると呆れたような目でアオイに見られる。
「そもそもノエルの武器が壊れる事ってある?」
「······うん、無いな」
よく考えるまでも無く、不壊属性のついている俺の魔導書が壊れることは無いわけだ。
「取り敢えずヤタガラスで出来ることはこれくらい······それよりノエル、気づいてる?」
アオイの言葉に俺は頷く。
「新しい道が出来てる。多分この先に······」
「ウィンがいる」
そう、未来のアオイがポリゴン片として消えた後休憩していた俺達を案内するかのように、今迄の通路とは別の通路が新しく出来たのだ。
ここに来るまでに会うことが無かったと言うことは先程アオイも言っていたが恐らくこの先にウィンさんがいるのだろう。
·······試練の途中に他の人間が干渉できないなんて事がなければだが。
「準備は大丈夫?」
「ん」
俺の言葉に頷くアオイ。それを確認した俺はアオイを伴って立ち上がり、その通路を歩き始める。
「アオイ!」
しばらく通路を歩いてもうすぐ向こう側に出る·······そんなタイミングで俺はアオイに警告の言葉を発していた。それと同時に俺はその場でしゃがむ。俺がしゃがむと同時に俺の首を狙ったと思われる風の刃が、髪の毛を数本切り飛ばして行った。
勿論俺に言われるまでもなくきちんと反応していたアオイも自分の首を狙っていた風の刃を回避する。
そして、そのまま残り僅かだった距離を駆け抜けて、開けた場所へと出る。
狭すぎるとは言わないが、流石に通路の中で回避行動なんて、とてもではないが、そう何回も取りたい行動ではない。
「へぇ······今のを避けるんですの? 軽くとは言え殺す気で放ったというのに······やはり強くなってるんですね。姉さんは」
コツコツと大鎌を杖のようについてこちらへと歩いて来ながら先程俺達を襲った風の刃を放った犯人であるウィンさんが呟く。
それにしても······
「ウィンさん······なのか?」
俺の記憶が正しければウィンさんはナナシと名乗った名も無き魔とかいう存在に体を乗っ取られていたはずなのだが、話し方と言い、アオイの事を姉さんと呼んだ事と言い、目の前にいる存在がウィンさんだと思えるのだが······
「私はウィン・ヤマト······それ以上でもそれ以下でもありません」
「······っ! じゃあ!」
ウィンさんは何らかの方法でナナシを克服して、自我を取り戻したと言うことだろうか? それならここで戦う必要はもう無いだろう。後はウィンさんを連れて帰るだけだ。
そんな淡い期待をしていた俺だったが、その期待は次のウィンさんの言葉で叩き潰されることとなった。
「ええ、ですから決着をつけましょう。あなたたちに勝ち、お兄様達を倒し、今度こそ私は私の強さを証明する!」
その言葉と同時にウィンは大鎌を振り回して目の前で構えた。